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レアケースでした

「生きる意味ってなんなんでしょう…」

「ど、どうしたのハナコ…?仕事が嫌になったの?」

「違います…めちゃくちゃ明るい職場です…」


年末年始の休み明けに出勤した私は、それはもう沈んでいた。残念なことにお仕事行きたくなーいってやつではないのです、膝を抱えて死んだ魚の目をしている私にサリィさんは優しく声をかけてくれる。沁みるなぁ、私人に慰められると逆に泣きそうになるんだよね。よほど重めの闇を背負ってるように見えるのか、魔王様ですら涙目の私におろおろ両手を彷徨わせている。


「私なんて…」

「だ、大丈夫か…?酒とか買ってくるか?」

「いらないです、弱いので」

「そこ狙ってんだけどな」


あっはい、酔わせて大人しくしようと。慰める気があったわけじゃないんですね、いやちょっとは心配してくれてると信じたいけど。

さて。私がなんでこんなに落ち込んでるかといえば息子夫婦さんのお家に行ったアンナさん達の悪気ない一言のためです。


「ハナコは身を固めたりしないのかい?」


…という。いや、うん、私は旅をしてきてここに落ち着いたという体なので、結婚してないことについては納得してくれてるんだけど、アンナさんはなんと初孫に対面したとのことで、まぁ、その流れですね。

いやービックリしたよね、息子さん幾つだと思う?17だよ、私より10歳下な子が子供育ててるって。日本にいた時とはそもそも世界の価値観が違うから私の中の常識に当てはめる必要なんてどこにもないんだけど、それでも凹む。日本的に見ても婚期逃しそうな年齢だからね、辛いんですよ。


悩みの種を打ち明けてみると魔王様は呆れた顔で座り込んで私のしょぼくれた顔を覗き込んできた。


「気にすんなよー、世界でどんだけ人が生まれて死んでしてると思ってんだ、お前が家庭持たなくたって誤差みたいなもんだっつーの」

「でも、なんていうか寂しさはあるんですよ、孤独死の不安とか…」

「あら、ハナコのこと年取ったからって放り出したりしないわよ、ねぇ?」

「そうそう、ボケてもゴーレムとか作って世話するから」

「そこで自分が働かないところ、魔王様らしいですよね」


この微妙な年齢でも置いてくれてるので放り出されるとは思ってなかったけど、言葉にされるとありがたい。いや、何回もいていいよって言ってもらってるんだけどね。そしてオートとはいえ老後の世話も請け負ってくれそうで、本当に頭が上がらない。死ぬまで魔王城居候っていうのも情けないけど、今のところ当てがないのも事実で。うん、取り敢えず老後の為にお金はちゃんと貯めておこう、なんで日本にいても異世界にいてもやること同じなんだろうか。


優しいんだけどわりかし雑な慰めを受けて、私は体育座りを崩してちゃんとソファに座った。あんまり心配させるのもよくないからね、テンションは下がったままだけど切り替えていかないと。


「私は…そうね。人口を減らすために生まれたってことになるのかしら」

「それは存在意義じゃね?」

「難しいわね」


あっ、やばい。生まれた意味とは…とか気軽に言ったせいで真面目に考えてくれてしまっている、ごめんなさい。そして物騒。

サリィさんが首を傾げている様子を見てちょっと申し訳なくなる。生まれた意味なんてそんな深く考えないものだよね、私も考えすぎると鬱になりそうになるもん。答えが出ない問題に深入りするべきじゃないって分かってるけど、ネガティブ人間なので一度考えだすと中々止まらなくなっちゃうんだよね。


周りはどんどん結婚したり、キャリア積んだりしてるのに、私はどこまでも平凡で良縁もなくて、そこは自分のせいもあるから誰のせいに出来るわけでもなくて。パッとした思い出もない自分の人生が誰に言われたわけでもないのに恥ずかしく感じたりなんかして、普通から逃げ出せないことに時々凄い勢いで落ち込んでしまうのです。


「生まれた意味なぁ…………おしべとめしべが絡んだ結果にそんなのあるか?」

「魔王様って私のこと幼児か何かだと思ってます?」

「お前が直球で話すなって言ったからだろが!」

「そこまで遠回しにしなくてもいいんですよ!?」

「えぇ…?」


魔王様のだいぶひどい一言にテンションの急下降は阻止された、いいんだか悪いんだか。

言葉の選び方に一瞬馬鹿にされてるのかと思ったけど、魔王様の若干気恥ずかしそうな顔を見る分に一応考えてくれてたんだろうな、結果がひどいけども。まずったなぁという顔をするならもうちょっとだけ言葉を選んでほしかっ…いや、どう修正しようとダメだね多分。


私のわがままな許容範囲に魔王様は眉を寄せると、サリィさんにならって生きる意味を考え出した。腕を組んで右に左にと首を動かしている。


「生まれた意味とかありすぎてどれか分からんな…やっぱ神関連かな?個人的にはアイテムの方推したいんだけど」

「うーん、いっそ清々しい」

「そうねぇ、ここまでいくと嫌味も何もないわよね」

「事実確認ですからね」


魔王様の場合、存在がなければ生まれなかったものの存在が大きすぎるよ、このスケールの人が近くにいると劣等感も働かないわ。でも、魔王様が大暴れしなければ神様って1人だけだったんだよね、今のノルマ制にもならなかったってこと考えると神様的にはどういう気持ちなんだろう、難しい話だ。


「まぁ別に、皆に意味がなくたっていいだろ」

「あら、あなたにしては優しいこと」

「だって意味なんて、結局意味がなきゃ生きていけないやつが付けたがるものだろ、本質的にどうでもいいものに拘る価値もないね」

「撤回するわ。私の言葉、返してくれる?」

「そもそも渡されてないけど」


まぁ、そんなスケールの大きな魔王様もこの通り。予想してたから全然問題ないけど、この人って意味ないこと嫌いそうだもんね。唐突な奇行だって暇を潰したいって理由があるからやってることだし答えが出ない話に興味持ってくれるとは思ってなかったよ。素っ気なさに納得すらしてると、ちょっとだけ真面目な顔で魔王様がこっちを向いた。


「でもハナコ、罪悪感誤魔化すために結婚したり子供作ったりするなよ」

「わかってますよ…っていうか相手もいないし、言ってるだけです」


言語化すると改めて虚しいけど、焦りとかそういうの抜きで彼氏欲しいと思ったことないんだよね、私。純粋に恋がしたいわけでも、子供が欲しいわけでもないのにそういう風な関係を持つほどの度胸はないのです。こう考えてみると、私の方が冷たい人間なのかな。


そういえば魔王様やサリィさんみたいな人はおいておいて、魔性もヒトと同じ感じで家族を作ったりしてるのかな。ラヴィニアさんにもお父さんがいるから親なしで生まれてくるってことはないと思うんだけど。聞いてみるとヴァンプが特殊らしく、2人して首を振られてしまった。


「縁遠いな」

「発情期はあるけど、番は珍しいわよね」

「は、発情期って…」

「俺たちみたいなバケモノぽこぽこ生まれたら数年でヒト絶滅するぞ?」

「説得力がすごい…」

「あなたはそもそもとして欲自体ないじゃない」


種の継続に能力を割いてるヒトとは違って、魔性は個体の継続を重視するんだとか。子供は周期的にそういうものが来た時にしか生まれないらしくて、その時の相手ともその場限りのビジネス的なお付き合い。仲が良い悪いじゃなくて気に入った相手とは友達でいればいいし結婚する必要も感じないってスタンスだそう。だから恋愛結婚とか珍しくて他の種族に伝わるくらいにはニュースになるとか、ならないとか。


ちなみに惚れっぽい特性と血族って響きがカッコいいから、という理由でヴァンプは家庭を持つところが多いんだって。カッコよかったらなんでもいいのかな、それはどうなの、いっそアホっぽいんですが。あ、家庭は円満のとこが多いんですな、ならいいです。


にしても発情期て…あっいや、遠い目で見たらヒトは動物と違って万年発情期ですけど、もっと柔らかい言い方はなかったのかなぁ。気まずくて2人から目をそらしそうになるけど、ふとちょっとした可能性が頭に浮かんだ。


「…魔王様のその…それが億周期という可能性はあるんでしょうか?」

「………」

「きゅ、急に怖くなってくるだろ…やめろよ……」


一瞬静かになったサリィさんから拳1つ分離れた魔王様を見て、下手なこと言っちゃったな、と思った。


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