マリエラに行きました
ちょっとBLっぽいかも…?問題がありそうならタグ追加します
「いやダメでしょ」
「絶対やめろ」
「なんでだよ」
毎月恒例ロクサーナさんからの手紙に、お茶会への招待状が同封されていたようで魔王様はご機嫌で私達にそのことを伝えてきた。あのロクサーナさんがお茶会への招待をするなんて余程のことだと思うし、なんとなくらしくない。というかあんまり王女様の将来的に仲良くなってほしくないんだよね、ちらっとサリバンさんを伺うと同意見のようで小さく頷いてくれる。その様子を勘違いでもしたのか魔王様は呆れたように肩を竦めた。
「罠とかじゃないと思うぞ、だってほら、ロクサーナからだし」
「だからだろ」
「そうですよ、何考えてるんですか」
「お前らの妙な結束は何なの」
あんな可愛らしいお姫様にあなたみたいなぼんやり男を近付けたくないという結束です、とは正面切って言えないよね。向こうも一応は恋心を隠してるわけで勝手にバラされたくはないだろうし。強硬な姿勢を崩さない私達に小さく溜息をつくと魔王様は手紙を差し出してきた、人の手紙見るのは気が引けるんだけど渡してきたってことは読まれても支障が無いってことなんだよね。
恐る恐るいい匂いのする便箋を受け取ってゆっくりと目を通すと、そこには綺麗な字でマリエラの近況が書いてあった。かなり事務的で報告書みたいだけどわざとやってるんだろうなぁ、月一の文通だから内容も多い。でも魔王様へのスイーツの説明になるとちょっと堅苦しさが抜けた文になっていた、確か前回はミルクレープだったんだよね、魔王様が剥がしながら食べててかなりの議論がなされた。楽しんでたみたいだし、気に入って貰えた事にかなり喜んでるっぽい。なお今回はティラミスです、とても美味しゅうございました。
そんな感じで5枚に渡る手紙を読んでいると最後の1枚の最後の方に少しだけ小さな文字でかなり申し訳なさげにお茶会への招待をする文が付け足されるように書かれていた。そして招待状自体もなんか普通、あれ、もしかしてロクサーナさんがお喋りしたいからって理由のお呼ばれではない?
「なんか思ってたのと違う…」
「何故だ?」
「そこは俺とロクサーナが友達だからだろ」
「………ハァ」
「どうしましょうね、サリバンさん…」
「何なんだ…そんなに心配ならついてくりゃいいじゃん」
「え、いいんですか」
「うん、向こうも人間がいた方が安心するんじゃねーの?」
前回はめんどくさい事がありそうって事で連れてってもらえなかったけどロクサーナさん直々のお誘いなら悪い事にならないのかな。他の国も見てみたいし、良い機会だね。この間みたいにダンジョンで血塗れなんてことにもならないだろうからね、本当に。カロン村は一応アルカディアに属しているわけなんだけど辺境も辺境だから、あんまり国ってものを感じたことがないんだよね。大きいところの市場も見てみたいな、って考えたところで一つ問題に気がつく。
「…あっ、あの、引きこもり命令に違反したりはしないんです?」
「……いやー、呼ばれたら断れないし?」
「やはり、守る気はなかったのか」
「あるある、だってあんまり動くとさぁ、絶対アルカディアが接触してくるじゃん。それだけは絶対にヤダ」
「私情じゃん!!!」
「あっ諸国も混乱するしな?」
「取ってつけるな」
魔王様からは自分から行かないだけ自重してるという主張。自分の意思でフラフラはしないけど呼ばれて面白そうなものなら二つ返事で行くってことね、大分狡いというか子供っぽい理屈だ。よく7000年も保ったなぁ、どんだけ無の期間が長かったのか。
それにしてもアルカディアの事相当嫌なんだな、悪い国って話は聞かないし血気盛んな人が多いってだけで結構まともな国ってイメージだけど。大体長い間国が続いてるんだし、変な王様とかいなさそうなんだけど…やっぱり勇者って地雷なのかな。流石に大昔を引き合いに出して魔王様を囲い込もうとか思ったりする人もいないだろうに。まぁ突っ込むと面倒くさそうだからやめておこう、そんなわけで3人でもマリエラ行きが決まったのでした。
そして当日。ドレスとかを着るかと聞かれて舞踏会の時のサリィさんのキラキラっぷりを思い出した私は断固拒否させてもらった、無理でしょ、日本にいた時だってパーティドレス地味目なの選んでた私にこの世界のドレスって。絶対着られるし、マネキンの方がマシみたいな仕上がりになる。
ほとんど泣きそうな状態でお願いすると、同行はサリバンさんに、そして私にはメイド服が差し出された。2人は本当にいいのか?みたいな顔で差し出してたけど召使いポジの方が吹っ切れるってもんです。っていうか寧ろ適役じゃないかな、メイド服もメイド喫茶とかのじゃなくて落ち着いた濃茶色のロングスカートで頭には海外のおばあちゃんが被ってそうな髪の毛を入れるアレが用意された。なんというか古風、目立たない。これなら「着飾ってもあちらの2人とは違って地味ねえ」とか嫌味言われないだろうし最高、いや被害妄想なのは自覚してますが。そんな失礼なテンプレ中々ないはずですけども。うんまぁ、きっちりした礼服の2人を見てそもそも視線がいかないわって遠い目になったんだけど、まだダメージ少ないよね。
ちなみに今回はペガサスの馬車には乗らないで王城の来賓室に転移する事になった。ペガサスとどっこいでヒトの心臓に悪いと思うんだけど、人目につかない方法っていうとこれしかないという魔王様の雑な意見に押されてしまいました。絶対他にも色々あるんじゃないかな。
そんなわけで部屋にお邪魔すると既にロクサーナさんと見知らぬイケメンが待っていて、丁寧に挨拶されてソファを勧められた。魔王様のお城とどっこいのふかふかさ、きっと高いよね。私たちが座ったのを見ると、2人は顔を見合わせて凄い勢いで頭を下げた。
「この度は誠に申し訳ございません…!」
「え、別にいいけど。なんで茶会の招待くらいでそんなに堅くなってるんだ、ロクサーナ」
「そ、その…」
「そこから先は私が」
言い淀むロクサーナさんの言葉を遮ったのは見知らぬイケメンさん、ミハイルさんって名前でロクサーナさんの婚約者の人らしい、やっぱお姫様にはいるんだなぁ。少しぼんやりしてるけど悪い人じゃなさそう、でもちょっとだけ緊張してるかな。
なんでも、ミハイルさんはかなり力を持った公爵家のご子息でお姫様と婚約してても妾目当てで擦り寄ってくる女性が絶えなかったんだって。まぁイケメンだもんなぁ、顔のレベル的にサリバンさんは勿論魔王様にも及ばないけど、権力は大切なんだろう。で、そんな野心ギラギラのお嬢様達の中でもとある伯爵令嬢がかなりしつこくて、何なら自作自演までして哀れを誘ってミハイルさんに擦り寄っていたんだそう。そんなテンプレみたいなことあるんだ。
「その令嬢も、貴方様のお姿を見てから私にまとわりつかなくなったのですが…」
「いいことだよな?」
「はい、しかし、今度はロクサーナ様に纏わりつくようになり、魔王様に会わせろと直談判をし続けて…」
「なんで?」
「ロクサーナ様と貴方様が…その、ご友人でいらっしゃるので」
「貴族社会のこと分かんねーけど、立場とかあるんじゃ?下の身分が王女に絡むとか処刑されないのか」
「それがその…」
その伯爵家は辺境伯っていう普通よりも力のある家柄で、土地柄も結構国防の要みたいな場所。そして厄介なことに今度はロクサーナさんの弟の王子に色仕掛けを仕掛けて王家に意見を通しやすくしているんだとか。実家の方でも抑えてるんだけどそれを知らんぷりしたりとかなり凄まじい事になってるらしい、そんなガバガバな展開ある?しかも多分察するに魔王様が本命だよね。面の皮が厚すぎるでしょ。というかそりゃお二人も申し訳なくもなるよね、かなり情けない事情から魔王様を呼ぶ羽目になるわけで。当人そこまで気にしてなさそうだからいいけど。
「そして、ついに先日、ロクサーナ様が心労から倒れてしまい…」
「え、ごめん、大丈夫か?寝てていいぞ?」
「い、いいいいえ、そんな畏れ多い…!」
「とにかく事情は分かった。にしてもスゲーな、サリィ連れてベタベタしてもそんなことになるんだ?」
「俺も驚いている、サリィを目にしてなお別の女に行くのかと。やはりアミュレットの力は強大だな」
相変わらず顔への自信が凄い、まぁ世界で一番お美しいと思いますが。というかアミュレット無かったらサリィさんのこと忘れられないってことだよね、テロじゃん。
「…そいつって死んじゃダメなんだよな?」
「なんてこというんですか!あっ、す、すみません…!」
「いえ、魔王様のお連れの方というのならこの場では私どもより高位の方です」
「えぇっ、そ、そこまででは…」
位の高い方々ばっかりだから黙っていようと思ったんだけど、魔王様の飛躍しそうになった提案につい口を挟んでしまった。よかった、打ち首になったりしなくて。といっても私は異世界から来ただけの人間で特別な価値はないし敬われても恥ずかしいんだけどね。でもミハイルさんは優しい人だ、ロクサーナさんの将来の旦那様がちゃんとした人でほっとしたよ。ちらっと横目で魔王様を見ると不思議そうな顔で首を傾げられてしまった。
「…まぁ、よく分からんが分かった、脈無しって見せつければいいわけだな。サリィと公然の場で、えーと、キス?とか?すればいいか?」
「やめてください」
「ふざけるなお前」
「なんでだよ初モノだぞ」
「なおやめろ」
「…申し訳ございませんが、私からもやめていただきたいです。は、はしたないですし…」
「そっか、公衆良俗は守らないとな」
そういうことじゃないんだよなぁ〜、あなたのファーストキスが公然の場で失われる光景にショック受けて寝込みそうな人がいるからなんだよな〜、ていうかミハイルさんも若干ロクサーナさんの方伺ってるじゃん、どんだけバレバレなの、やっぱいい人だなこの人。そして気持ちに全く気が付いてない魔王様はどうにかしてる。ちょっとだけ睨んでみるけど効果は期待してない。平気で地雷を設置しに行こうとする魔王様にサリバンさんは呆れたようにため息を漏らして、軽くこめかみを指先で叩いた。
「要するに、見た目よりも中身とか思えない状態を作ればいいだろう、大体の恋物語はそういう荒唐無稽を好むからな」
かなりキツめのシンデレラストーリー否定をするとサリバンさんは少しだけ意地悪い笑顔で魔王様の方を見つめていた。
「…なぁ、本当にこんなんで大丈夫か?」
「安心しろ抜群だ。だから余計なことはするなよ」
「そ、そうですか…」
結果、翌日のお茶会ではサリバンさんが魔王様にベタベタすることになった。しかしそのくっ付き方が尋常じゃない、腰持ってるし、ほとんど頬と頬くっついてるし。陽の高い時間だっていうのにその空間だけやたらと色っぽくて、絶望するお嬢様方に混ざってなんだかチラチラと黄色い声上げつつ魔王様達をみてるお嬢様達もいる。いるんだな、この世界でも。まぁ全くイチャイチャしてないんだけど、当たり前のようにゼロ距離を受け入れてる魔王様を見たらそういう関係かって邪推するのも無理はないかもね。私もさっきまでは近くで2人を見てたんだけど、ちょっと耐えられなくて人気のない壁際に移動してる。
分かっているんです、ロクサーナさんも昨日のことと以前会ったことでサリバンさんが魔王様に好意を寄せてないって読み取れるだろうしサリィさんがベタべタするよりダメージが少なくなるってことは。だけど普通男同士なので女の入る隙はありません作戦する?思い切りよすぎない?魔王様が無関心すぎるだけなんだけども、かえってその呆れた様子がなお妄想を掻き立ててしまっているのでないでしょうか、知らんけど。
「メスが、何の用だ?」
「…ひっ」
つい目の前のやたら耽美な光景に意識を明後日の方向に向けていたら、あの空間ににじりよる猛者がいたみたい。目立つ赤い髪は聞いていたお騒がせお嬢様のもの、見ると可愛い子だけどロクサーナさんに勝てるかっていうとちょっと厳しいかなぁって感じ。だけどメンタルすごいな、あの2人の手前まで来てたじゃん。今はサリバンさんに地を這うような声で脅されて腰が抜けちゃってるけど。まぁあそこまで見せつけられたらサリバンさんに目が移るなんてこともないだろうし、魔王様のことだって諦めてくれるだろう、多分。問題はこの絶世の美男子に睨みつけられたお嬢様が新たな扉を開かないかということだけ。
あぁ、あの2人についてってマリエラ観光するの、やだなぁ。そんなことを考えているうちにつつがなくお茶会は終わり、ロクサーナさんから私達は真っ赤な顔でお礼を言われたのでした。




