膝枕されました
寝起きって人間一番無防備な状態だと思うんだよね、だから寝起きドッキリっていうのがあるんだと思う。やられる方はたまったもんじゃないけどね、状況飲み込むまでに時間がかかるわけだし。なんでそんな事考えてるかというと昼寝から起きた私の視界にサリィさんの笑顔があるからですね、しかもかなり近い距離に。
「おはよう、ハナコ」
「ホォアアアアーーーーッ!?!」
「うわ、スゲー声出るな」
楽しげなサリィさんの極上の笑顔でノックアウトを食らってそのままソファの下にずり落ちる、のんきな魔王様の感想は置いておいてばくばくうるさい心臓を服の上から抑えつけた。顔が熱いってもんじゃない、湯気でも出てるかもしれない。必死にさっきの状態を思い出してみるけど、顔の近さと柔らかさ的に膝枕ってやつですよね。寝てる時普通に座って寝てたんだけどな、そんな熟睡してたのかな、気付いて昼寝中の私。やっと呼吸を落ち着かせて、深呼吸を3回。なんとなく姿勢は正座で、顔はサリィさんを見られないまま床に。いや寝起きに絶世の美女はテロでしかないよ。休みの日だからって気を抜いて寝てたのが悪いのかな。
「はあぁ…びっくりした…女神がいるのかと思った…」
「あら、ありがとう。ふふ」
「大袈裟だなぁ、もう慣れたんだと思ってたけど」
「話す分にはですよっ!膝枕はダメでしょ!」
「そういうもん?」
実際男子にとっては憧れのシチュエーションなんじゃないでしょうか、しかも美女ですよ。下から見上げる胸も大きいし、太腿も柔らかかったし。それでもサリィさんってそういう……大人な雰囲気っていうのかな、それはあんまりないよね。いや大人なんですけど、うん、こうね。黄金律ってやつかな、よく知らないけど。語彙やら知識やらがぼんやりしてる私に言われたくはないだろうけど、このプレミア感が分からない魔王様はどうなんだろう。ちょっと信じられない。第一、話すことに慣れたとは言っても美人は美人なわけで、ちょっとウインクされるだけでもドキドキするのは変わってないんだよ。分かっていない顔でこっちを見る魔王様に恨めしげな視線を送ると、軽く首を傾げてからまだにこにこしているサリィさんに向き直った。
「なぁ」
「しょうがないわねえ」
サリィさんが足を組み直したと思ったらそこにいたのはサリバンさんで、私が急な変身に面食らっていると軽く膝を叩いてきた。
「いいぞ、ハナコ」
「何が?!」
「俺の膝で寝てみろ」
「今のやりとりどういうこと!?」
「いや、サリバンでもダメなのかなって」
「ダメに決まっ…む」
超展開に抗議していると、床に正座したままの位置にある私の頭をサリバンさんの骨張った手が優しく太ももへ押し当てた。膝枕とは違うけどこれはこれで中々恥ずかしい姿勢なのでは、よしておけばいいっていうのに私の目は自然と上を向いてしまい、薄く笑みを浮かべるサリバンさんの顔を直視してしまう。あ、ダメだこれ、背景にキラキラしたものが見える。
「あーー!目がーーーッ!!」
「んーアミュレットは効いてるはずなんだけどな」
「魔王様も試してみればいいんですよこの干物!喪女の純情を弄ばないでください!」
「喪…?よくわからんが俺も寝ればいいのか」
続け様に目への麻薬を打たれてヤケになりつつ、魔王様を指差す。行儀が悪いけど、そもそもこれは人差し指なんだから人を差していい指なんだ、きっとそう。私の暴言に少しだけ目を丸くすると、魔王様はソファに腰を下ろしてサリバンさんの膝に頭を下ろした。くっ一連の流れに一切躊躇いがない、膝枕以前に男同士とかそういうのないのかな。ないか、性別とか関係ない夢魔だもんね。魔王様は遠慮もなくごろごろと頭の位置を調節して、落ち着いたかと思えばじっとサリバンさんの顔を見上げて小さく息を吐いた。
「硬い」
「だろうな………こっちはどうかしら?」
「あ〜うん、さっきより柔らかいけど、ぶっちゃけクッションの方がイッ」
「……あの、なんか、あー、いや、いいです。私が悪かったです、すみませんサリィさん」
「いいのよ、これが悪いのだもの」
「なぁ、鼻思いっきり抓ったことに対する詫びとかないのか?」
「どうせ痛くないくせに」
「そうだけど」
サリバンさんがサリィさんに戻っ、て?美男と美男から美男美女になっても反応は変わらず。しいて言えば太ももの柔らかさにしっくり来た顔をしたくらいで、サリィさんが渋い顔で魔王様の鼻をギュッとしたのは全然悪い事じゃないと思う。うーん、私をからかってた時は弾けるばかりの笑顔だったのになぁ、いくら私の心が乱れていたとは言え誰も幸せにならない提案をしてしまった、反省。軽く鼻をさすりながら魔王様が起き上がって、サリィさんがいない方にクッションを置いて倒れこむ。あっ、こっちの方がしっくり来ますって顔してる。またサリィさんが機嫌悪くなっちゃうんじゃないかな。私も床から立ち上がって2人の向かいのソファに腰掛ける。
「魔王様は目が慣れすぎなんじゃないですか?」
「そんなことないぞ、俺はサリィとサリバン以上に美しい奴なんて見たことないし」
「は?」
「なんで睨むんだよ、褒めたのに」
「嘘くさいのよ、ちょっとは感動してほしいわ。ハナコみたいな素直さを見習って」
「お前俺にホァー!とか言われたいの?」
ストレートに褒めてるけど、さっきの対応の後じゃ嫌味に聞こえるよね。いや、裏表がないって分かってるから余計に腹立つのかな、サリィさんは。結構言葉遣いの雑な魔王様が美しいって言うんだからその辺は間違いなく2人の見た目を認めてるわけで。それにしてもこの人達は本当ポンポン言い合うな、仲良いね。サリィさんはめっちゃくちゃ不機嫌そうだけど、喧嘩するほどってやつだよね。
「いつも言ってるけど、貴方が淡々としてるから私は常にプライドがズタズタなの」
「そりゃ淡白にもなる。ちょっとでも欲出せば枯らすだろ」
「だからってちょっかい出したくらいで殺りにくることはないでしょう」
「痛い思いしたくないなら身の危険を感じる触り方すんじゃねーよ」
あれっ物騒な話題になったな、というか魔王様ってサリィさん相手でも身の危険を感じたら攻撃とかするんだ。あとサリィさん前話し相手として城にいるって言ってなかったですっけ、防衛手段に出るようなちょっかい出してるの?たまに見る膝に座るとかではなく?やっぱり初心は忘れてないのかな、そこ忘れてよくないですか。意地なの?2人の突っ込みに入りにくい会話に苦笑いを浮かべて、今日の夕飯を考えてみる。現実逃避だけど、それ以上にやれることも言えることもありそうにないからしようがない。
「あ、ハナコと比較したら良さがわかるかもしれない」
「断固拒否します!!!」
なお、不用意にサリィさんのプライドを傷付けておいてアレだけど余波で私の心が折れそうなことははっきり断らせていただきました、かなり食い気味で。
魔王は元々関心もなく鈍い上に無性愛者だったりします。