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「はぁー…酔っちゃったな」


ビールに比べたら味の薄くてぬるいエールを結局何杯か煽って私の頬はすっかり赤くなってしまった、ビールとエールは違うけど比べられるものっていったらビールなんだよね。エールなんて日本にいたらまず飲まないからしょうがない。涼しくなってきた夜の空気が気持ちよくて酒くらい熱っぽい息をゆっくり吐き出す、往来には酔ってそのまま眠った村の人達がちらほらいる。風邪引かないといいけど、とはいえ毛布を掛けて回るには数が多過ぎるので心の中でそっと掛けたことにしておく。ぼんやりとした趣旨のお祭りでもその空気にはしゃぐ人は多くて、この辺りは世界が違っても同じなんだなって少しだけ嬉しい。名残惜しいけど顔馴染みの人にさよならを伝えて私はそっと村を出る、その時に臓器云々を思い出して無駄にあたりを見てしまった。早足で物陰に隠れて腕の転移具を作動させればものの3秒で直帰が叶う。

すっかり馴染んだお城の部屋は当たり前のように暗くて、仕事から帰って開けたアパートの景色に少し似ていた。明かりをつけたままにしてないから当たり前なんだけどね、天井に目を向けるとほんのり明るくランプが光ってくれる。時間に応じた明るさにしてくれる便利な魔法に拝みつつ、ぼふっとベッドに倒れこんだ。


「んーやっぱお風呂が欲しい、この際シャワーでもいいや」


じわっとかいていた汗も引いて肌はさっぱりしてるんだけど、お酒を飲んだ夜はお風呂に入りたい。お湯で酔いが覚めるわけじゃないと思うけどなんかさっぱりする、自動洗浄ってなんか物足りない。わがままなことはわかってるしガルム様のところにそう何度も行きたくないから実行には移せないんだけど、冬になったらいよいよ我慢できないかもしれない。眠気に少しだけ目を閉じるとこのまま落ちてしまいそうな気怠さが身体に広がった、明かりもじわっと暗くなっていってもう少しだけ起きているつもりだったのに意識が消えそう。パジャマにも着替えてないのにとか思っても着るために起き上がるのがひどく億劫で、こんな日もいいかと自分に甘くなってみる。


「えーと、私を受け入れてくれる優しい環境に感謝します、明日も無事過ごせますようにー…っと」


ギリギリで日課のお祈りをこなす。お祭りの時もお祈りしたから大丈夫だと思うけど、雑になっちゃって申し訳ないなぁ。






瞼を開くとどこかで見たような空間、周りを見回すまでもなく目の前にはなんだか目がふわふわした幼女が立っていらっしゃった、どう見てもノル様です。えっ、これお叱りかな、お祈り雑でごめんなさい。つい背筋を伸ばして直角に腰を曲げた。


「お、お久しぶりです!」

「お、お久しぶりですぅ、へへ、うへへ……」

「酔っていらっしゃる!?」

「酔ってないれす!…ひっく」

「テンプレありがとうございます!…あ、あのー、何か御用でも…」

「あ!はい!こちらです!」


ぷるぷると首を振るノル様だけど、ちょっと呂律が怪しい。大丈夫かな、見た目がロリなだけにかなり不安な絵なんだけど神様だから未成年飲酒には引っかかったりしないのかな。怒られるかと思ったけど特に機嫌は悪くないらしく、腰に下げたポシェットから一通の手紙を取り出して私に恭しく手渡してくれた、ちょっと千鳥足だけど見ないふり。


「お手紙…ですか?」

「はい、創造神様からです!」

「ど、どうして…!?」

「え……えーと…その、非常に申し訳ないのですけども、あの、その、御子様宛で…」

「本人に渡しゃいいのに…」


手紙について聞きだすとぼんやりした目が急に冷めて気まずげに泳ぎ出した、切り替えが早くてよろしい。そしていつかは来ると思ってたよ、神と息子の橋渡し。魔王様ってこういうの面倒くさがるはずだし、受け取らないって選択肢を消すために私にお鉢が回ってきたわけですね、オーケー理解。よく使われていますな。


「あの、これどうしたらいいんでしょう?渡すだけでいいんですか?」

「あー、いえ、一度ご覧になっていただきたいというか、あの、ええと…し、信仰を捨てないで聞いてくださいますかっ!」

「いや、大丈夫ですよ…ノル様には癒されるラッキーを与えてもらっていますし」


必死な様子に何かデジャブを感じてしまう、そんなにひどい使命を負っているんだろうか。もしかして酔ってたのそれに対する怯え的なヤケ酒?いやないよな、というか夢が壊れるからやめてほしい。といってもよっぽどの無茶振りじゃなきゃ聞くつもりではある、ノル様のハッピーがどこまでに収まるのか分かんないけど、上手いタイミングで市のセール告知が耳に届いたり、道端で可愛い猫に出会ったりする回数が多い気がするので従いますとも。でも返事書くように言って、くらいだったらどうしよう、案外律儀だから言わなくても書くかもしれないよね。震えるノル様の言葉を待っていると蚊の鳴くような声でボソッと呟かれた。


「…て、添削を」

「はい?」

「距離感を図りかねてもう7000年、ひんやりする親子仲をぬくぬくさせるような文に添削してほしいのですっ!」

「力不足にもほどがありますが!?え、というかなんていうか、そういう系の神様っているもんじゃないんですか?」

「いますけどぉ…神界でもデリケートな問題なのでぇ…誰も、口出し出来なくてぇ…」

「それを私に丸投げしにきたんですか!?」

「も、申し訳ございませんですっ!はいっ!捨てないでぇぇっ!」


遂に出てしまった、泣き土下座。心が苦しくなるので秒で起き上がっていただく。ひどい無茶振りだな…これはノル様が怯えるのも分かるわ。だって魔王様ってお父さんのこと好きでも嫌いでもないもんね、どう頑張っても好感度0なんじゃないかな。でもそれを言ったらまた幼女の土下座を食らいそうなのでやんわりと諦めて貰う方向に進めようと口を開いた。


「うーん…まず根本的な問題なんですけど、魔王様の妙にドライなところはどうしようもないと思うんですよね」

「そこをなんとか!最悪うざがられなきゃいいとのお言葉がありますので!」

「ハードル急に低い!」


諦めてくれないか、そっかー。辛いなー。観念して受け取った手紙を取り出して何となく薄目で見る。こう、人の手紙最初に見るのって罪悪感あるというか…。



『愛しい子よ

そなたは我が心を知るだろうか。

我が唯一の子よ。

我が身は世界の理の一であり、そなたは地上の一である。

故に我はこの腕を延ばすこと能わず。

この身は全知全能であれどそなたこそが割れに届かぬ一つの星である。

そなたは我を信じてはくれぬだろうが、そなたが望むならば神の国へと連れて行こう。』



これをかー…。

これをウザくなくかー……。






「断れよ」

「可哀想だったので…」

「はぁ…まぁ、今後身内を巻き込まれないためにも返事は出してやりますか」


そんなわけで理由を説明しつつ手紙を朝イチで渡すと魔王様は呆れ顔で受け取ってくれた、いやなんかノル様も会ったこともない創造神様も可哀想だったんだもの、本当に。

ちなみに私が添削した結果、手紙は


『息子〜!パパだよ!

神だから小さい頃世話できなくてごめんね、でも大好きだからね!よかったらうち来ない?』


になりました。結果かなりウザくなったけど原文よりマシかなって思う、詩的なことを特に接点ない親に渡されても怖いしね。読み終わった便箋を揺らして、魔王様は鬱陶しそうに溜息をついた。


「素直な本心の方がいいよな」

「明け透け過ぎると悲しむんじゃないです?」

「えー…社交辞令で大好き!とか言っても…祈りの薄さで嘘だってすぐにバレるぞ」

「ちなみに魔王様ってどんな感じにお祈りしてるんですか」

「明日もいい日になりますように」

「事務的〜」


天気占い並みの軽さである、信仰も何もあったもんじゃないな。そりゃ大御所も新参の神様に縋り付きたくもな…なるかなぁ…パワハラだよなぁ…。私が遠い目をしているうちに、魔王様は同封されていた便箋にさらさらっと何かを書いていた。


「よし、書けた」



『別にお互い思い出とかないんだし、そういうのいいです。俺は地上が好きです。あと冷静になってください。』



あんなくどい返事に一行で終わった、あと今更だけど魔王様って言葉遣い雑だな、一応最高クラスの神様でしょ、ですます敬語でいいんですか。あ、いいのか、父親だし。いやでももうちょっと何かこうマナー的なさぁ、と思わず頭を抱える。


「取りつく島もない…!」

「純粋に興味ない、だってサリィとかお前もいないし。あと子供とかも…うん、その他色々といないし」

「…あっ!くっそー!夜に渡せばよかった!!くっそー!!それサリィさんかサリバンさんの前でもう一回言ってくださいよ!」

「え?いいけど…」


唐突な嬉しい言葉に悶えそうになる。でもまぁ、何はともあれ、これを優しめのお断り文に直してから届けてもらうことにしよう。全てはそれからだと思う。


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