セーブは大切でした
「魔王様も人の心ってものが分かればいいんです」
「心ぉ?」
「人が何を考えているとか、自分がどう思われてるとか…そういうことです!」
「あ、読心のこと?出来るぞ」
「そういうことじゃ…出来るの?!」
日本人というか関東人の性なのか、私はつい魔性は食事が必要ないってことを忘れてひとつ残しってことをしてしまう。城の住人2人ととる軽食とかおやつは手でぽいぽいつまめるものばかりだからすぐに無くなっていくんだけどそれでも最後の一個となると手が止まってしまう。けどそれって遠慮はしてるけど本当は食べたいものなんだよ!じゃあ遠慮すんなよってツッコミはしないでください。魔王様はそんな私の葛藤なんて知らずに最後のビスケットを口に運んで感動するでもなく嚙み砕いた、美味しいって顔してくれるならこっちも引きさがれるんだけどただ食べましたって感じなんだよね。最後ってことにも食べた後に気がついたのか何もなくなった皿に軽く瞬きしている。私の積極性が足りないのは分かるけど、恨みがましい声を出してしまうのを許してくれてもいい。
まぁ、そこはこの際置いておいて。人の心が分からなそうな魔王様が心を読めるって知って少なからず驚き。何故それを生かしたコミュニケーションが出来ないのか、とても疑問である。ちなみに読心は感情視って呼ばれる力で他にも過去視、未来視、透視、遠見が出来るんだとか。これは魔王様の持つ魔眼のおかげなんだそう、デミゴッド強すぎないかな。
「神の子ってすごいんですね」
「制御してるから無いと同じだけどな」
「えー便利じゃないですか、使えばいいのに」
「お前それ本気で言ってる?」
曰く、制御しないと魔王様ですら頭痛がするほどなんだとか。魔眼をフルパワーで使うと感情視は目に映る全ての生き物の心を言語を超えて読み取ってしまうし、未来視は1秒ごとに分岐するあらゆる未来を見てしまう、過去視と透視はまだ良いんだけど遠見は世界のどこでも見通せてしまうっていうから情報量の多さが馬鹿にならないんだとか。うん、酔うね。寧ろ発狂モノだよね。似たもので千里眼って能力があって、それは遠見と透視ができるんだって。劣化版じゃんとか思ったけど利便性はそっちの方が高いそうです。まぁなんていうかスペックが高ければ良いってもんではないですね、そりゃ制御しないとダメだ。あと冷静になって考えてみれば人の心読むの趣味が悪いね。
「すいませんでした」
「分かればよろしい」
丁寧に頭を下げると魔王様のお許しが出た、ありがとうございます。なんていうか魔王様が力をセーブしてたのは知ってるけど想像以上に押さえつけていたんだなぁ。私の不思議そうな視線に魔王様は少し考えたそぶりをすると軽く頭を振った。
「この際言っとくけど、強いだけじゃ弱いと同じだからな」
「凡人には難しいんですけど」
「要するに、自分が持つ暴力を組み伏せられないようじゃ強者の資格はないの。ライムも強かったけど、あれはたまたま強大な力がヒトガタになったって感じが強い、能力が高いとぶん回すだけで周りが死ぬから自分が強いと勘違いするわけ」
「よくわからないです…」
「数十人殺すために世界の半分を支配する必要はない」
「急に出てきて抉るのやめない?」
ぬっと魔王様の横から現れたサリバンさんは綺麗な微笑みとともに魔王様の黒歴史を引っ張りだした。神出鬼没だとは思ってたけど夢魔の幻体のこと聞いた未だとなんとなく納得、というか自然。
「要するに、暴力に振り回されているようでは強者ではなく脳筋だと言いたいのだろう」
「えぇ…九条くんがですか?頭は多分いい方だと思うんですけど」
「最終的に力に頼るんだよな、あいつ」
「チートの醍醐味を全否定するなぁ」
「強いやつだって負ける自由くらいなくちゃダメだろ」
私は異世界っていうとチートで無双くらいしか浮かばないけどなぁ、ああいうのってちょっと現代から遅れた…あ、うん、失礼なのは分かってるよ。まぁ懸け離れた異世界で楽ちんに生きてく物語が多いわけだし。でも負ける自由くらいっていうのはしっくりくるかもしれない、ニュースとかで今まで大会連覇してたスポーツ選手が一位になれなかっただけでニュースキャスターとかアナウンサーがめちゃくちゃ悔しい顔するんだよね、一番悔しいのは本人だっつの。まるで力不足みたいな風に言うコメンテーターも嫌いで私は滅多にニュース番組を見なかった、なんていうか何様だよって思っちゃって。凡人の私からすれば大会に出てるだけで凄いのに出たからには優勝しないと!って圧は耐えられないし、優勝したから今まで放っておいた選手を担ぎ上げるのも気持ち悪かった。これも結局は傍観者的なイライラなんだけどね。
魔王様曰く、九条くんは磨けば光るんだそう。頑張ってほしい。やたら凶悪な微笑みを浮かべているけど頑張ってほしい、マジで。つまり普通の生活送ってんだからわざわざ全力出さなくて良いしここぞという時に本気出すのが強者の余裕というやつってことだ。
「ちなみに魔王様は誰に負けたんですか?」
「腐れ勇者と、ガルムと、ギアナ」
「3人も?」
「ギアナはガルムも無理だから」
ギアナさんなぁ、唯一会ってない始祖さんだよね。詳しく聞いてみたら大地の魔力の管理者で夢魔みたいに幻体なんだって、で大地の魔力全部を司っているものだから一体幻体を倒したところでまた出てくる、つまり無限に残機があるんだとか。なんだその無理ゲー、おまけに魔法使おうにも制御されて出せなくなるし当たったとしても吸収されちゃうんだとか。最強生命かな?
なおガルム様もなかなか手強い、前言ってた様に的が大きいんだからどうにでもなるのかっていったらそうじゃなくて、ドラゴンには近接攻撃しか効かないらしい。でもガルム様自身は飛びながら攻撃してくる、なんて大人げない対策だ。で、ガルム様の背中に乗って攻撃しようにも戦闘時はバリア的なものを張ってるから乗るのも一苦労なんだそう、振り落とされることもあるらしい。大人気ない。それで数回負けたんだけど実力自体は拮抗してるみたいでちゃんと勝ったこともあるとか。話している魔王様の顔はちょっと嬉しそうだった。
「まぁ負けるのも楽しいよ」
「そういうのって常に勝ってる人のセリフですよ」
「そうだよ、負けっぱなしのやつだって勝ったら楽しいだろ?」
にんまり笑った魔王様の顔に嘘の気配はなくて、本当に楽しそうだった。サリバンさんと顔を見合わせてつい笑ってしまう、この人は楽しければなんだっていいんじゃないかって。




