お話聞かせました
魔王様は凄い。大体のことで人より上手くできるし、奇行と内面の事を置いておけばイケメンだし何よりカンストしてるからガルム様とか壮絶なお相手じゃない限りまず負けないと思う。変に高圧的でもないから話しやすいし人当たりもいい。女性のことは現在進行形で罪を作っているけどそもそもそういうことに関心がないみたいだし問題は…あるけど、ない、と思う。私みたいな超平凡人間のように不満なんてあるわけなさそうなんだけど。
「不公平だと思う」
「え、それ魔王様が言います?」
「俺が不平不満を持ったら悪いのか?」
あったっぽい。魔王様はむっとした顔でレモン入りの自作アイスを食べながら私を見ていた。私が魔王様に不公平を感じることはあるけど逆って考えにくい、というか今のスペックの高さをして不満に思うことがあるって贅沢すぎやしないだろうか。そんな私の考えなんてしらずに魔王様は最後の一口を食べてグラスを机の上に置いた。
「ハナコに色々教えようっていったのは俺だけど、ハナコからは特に何も無いじゃん」
「…………い、命だけは」
「今の話でなんでそうなる?」
「馬鹿ね、貴方になくてハナコにあるものなんてそれくらいじゃない」
「流石にそんなことないだろ…あー、違う違う、そうじゃなくて」
暗に誠意見せろやということかと思って恐縮してしまった私です、はい。お金だって掃いて捨てるほどある魔王様に渡せるものなんてないし。それにここから出て行けって言われたら雑魚スペックかつモブで知識チートもない私なんて野垂死に確定。異世界の独り立ちは厳しいのではと感じている昨今であります、日本では欲しいものは買えばよかったからこっちにないもの作って利益産もうにも成分とかまずわかんないし。くっ、もっと世界に興味持ってれば良かった、後悔先に立たず。
サリィさんは私が差し出せるものは命くらいって言ったけど、そんなものも魔王様にはいらないと思う、この人って何かを殺したところでフーンって顔してそう。
緩く頭を振って否定すると魔王様は私ばかり質問してくるのが不満なんだそう、私は当然異世界のこと知らないけどそれは向こうも同じ。たまには自分の世界のことを話してくれてもいいのにっていう意味だったらしい。
「興味あるんですか?」
「お伽話は嫌いじゃない、あ、いや、現実の話か」
「確かにハナコの世界についてはしっかり聞いたことがなかったわね」
「う、うーんと。その、お2人が疑問に思ってることってオカルト…じゃなくてファンタジー系統な話だと思うんですけど私そこまで詳しくないんです」
「あら、残念ね」
私が魔王とかサキュバスについて話した時2人が不思議そうな顔をしたことを覚えてる。多分知りたいのはそっちだと思うんだよね、スマホとか私構造すらよく分かってないのに説明できるわけないし。だけど悲しいかな、私のファンタジー方面の知識はゲームとかオカルト好きの知人の受け売りだから変なところ突っ込まれても答えられないんだよね。
取り敢えず魔王様に改めて魔王はラスボス、勇者に対する最後の壁って扱いが多いキャラであることと、サリィさんにサキュバスはこっちでもお色気キャラで男性達にとても…都合が良くて、人気なことを説明しておく。魔王様は露骨に拗ねた顔をしてたけど、魔王様の過去の所業は絶対にラスボスだからそろそろ黒歴史と折り合いつけてほしいんだよね。軽い説明を済ませると2人は顔を見合わせて首を傾げていた。
「どう思う?」
「この世界じゃない別の世界からそっちに行った奴が書いたんじゃないか、空想で片付けるには的を打ちすぎてる」
「同感。数打ちゃ当たる、なんてものではないわよね」
「それか元々そういう幻想がなされるように操作されたか…まぁ、憶測で並行世界を考えても答えは出ないわな」
「なんかすみません…」
ちょっとした説明のつもりが考察されてしまった。でも言われてみると私の世界のファンタジーがこっちの世界で大体当たってるっていうのは不思議なことなのかも、本の中とかゲームの中に入ったとかで納得しそうだけど、その世界がちゃんと一つの世界として成り立ってるってことだもんね。どうしてそれが日本とか向こうの世界で作品になってなんだろうとか…あー、頭がこんがらがってきそう。
「じゃあ何なら説明できる?」
「えっ…」
「趣味とかでもいいけど。こっちにあるものならそれはそれで面白いから」
「へ、趣味…う、うーん…ど、読書……とか」
答えの出ない話に唸っていると魔王様に話題転換を求められてしまいました。趣味って簡単にいうけど、個性のない生活を送ってきたモブに趣味を聞くのは地雷も地雷です、自己紹介とか自己PRで趣味を考え出すのに何分かかったことか。趣味なんだから気楽でいいんだよ〜とか無責任にもちゃんとした趣味を持ってる人はいうけど、私のような普通の人間にはその気楽が難しいのだ。
例えば趣味について好きな事を伝えたとしよう、すると質問した人は悪意なくどんなやつ?と聞いてくる。まぁそこはキャッチボールだから責めたりしないんだけど、問題はそのパスを受け取ったこっち側。どうやったら相手に伝わるか、どうしたら引かれたりしないか、どうやったら下に見られないか。卑屈な私はそんなことばかりを考えてしまう、向こうは大した興味なんてこっちに持ってやしないのに馬鹿な話だと思う。盛り上がれたら嬉しいけど、知らないって返ってくるとがっかりするし教えてねって言われると無意味に焦る。そもそも趣味といっても何かを放り投げて没頭できるほどの魅力を持った何かを私は知らないから、強いて言えば好きなもので、外面がいいものを選ぶことに苦心する。読書だってその一つ、本は好きだけど虫にはなれない。こんな葛藤ちゃんと好きな事がある人には分からないんだろうけど。
魔王様とサリィさんは読書が庶民でもできるってことにちょっと驚いていた。紙の製造はまだ難しいって話だし貴族の娯楽の一つなんだろうね。せっかくだから異世界モノの本について話してみよう。
「転生…ですって?」
「そういうものがあるんです、異世界じゃなくても現代の知識を持って過去に行ったりとかする感じの」
「あー、だからそこまで受け入れるのに時間がかかんなかったと」
「…まぁ、死んだのもありますけどね」
もし生きてこっちに来てたら寂しくて帰りたくなったと思うけど、死んでたならどうしようもないわけだし。異世界転生が一般的な考えってわけじゃないけど日本人だから受け入れやすいっていうのはあると思ってる。
「大衆小説って読んだことないんだよなぁ、こっちにもそういうのあるのか?」
「魔法がない世界で魔法を使って王になるっていう内容なら見かけたことがあるわ」
「ああ、征服ね、物騒なのがウケるのか?」
「主人公だからその程度は許されるんじゃないかしら?」
「う…」
「どうした?」
今から早速チートモノについて話しようとしたのに真っ向否定されちゃった、いや、別に、嫌悪感とか魔王様から感じないけど言われてみればこの世界に来ただけでチート身につけて猛威振るうって宇宙人の侵略みたいなものだよ。気まずい、異世界側のこと考えたことなかった。
「…ふ、複雑なので!童話とかの話でいいですか?!」
「ふふ、いいわよ」
「おう、じゃあそっちは今度な」
わー!察してよーっ!サリィさんは私の慌てた様子に含みのある笑顔を返してくれたけど、魔王様は全然ピンと来てないどころか話す事が確定しちゃったよ。残念が発動して忘れてくれることを祈るしかない。
有名なシンデレラを教えようと思ったんだけど綺麗な少女がおりましたのあたりで魔王様から凄い顔のストップがかけられた、恋愛小説がよほど苦手だったのかもしれない。なんでそういうところだけ鋭いんですかね。気を取り直して、恋愛系じゃないものを考える。人の話だと思わぬところで魔王様から変なちょっかいがかかりそうだしイソップ寓話にしよう。
話はアリとキリギリス、後先を考えないキリギリスは暑い夏の間もせっせと働くアリを馬鹿にして歌って過ごした、享楽的な生活をしていたキリギリスに冬の蓄えなんてあるはずもなく、冷たくなるとキリギリスは食に困り馬鹿にしたアリに泣きついた、すると心の広いアリは蓄えのある家にキリギリスを招き入れキリギリスはとても感謝したそうな。簡単な話だからサリィさんも魔王様も特に引っかかることなく話を聞き終えてなるほど、と頷いた。こんな話ならどの世界にもありそうなものだけど、こっちだとどっちかというと夜に出歩かないように言い聞かせるための怪談が多いらしい。まぁ幽霊とか普通にいそうだしなぁ、信じる子は多いだろう。
「そっちは教訓的な意味合いが強いのね」
「そうですね、勿論ただの勧善懲悪モノもありますけど…それも悪いことをしたら倒されるぞってことですし」
「それにしたって蟻は抜かりがないな」
「そうですねぇ」
「同情を見せる振りをして冬場にでかい餌を確保するなんてちゃっかりしてる」
「ん?」
「キリギリスも可哀想にな、蟻にたかられて死ぬなら寒さで死んだ方が安らかだろうに」
「待って待って待って」
すんなり受け取ってくれたサリィさんとは違い斜め上の解釈に落ち着いてしまった魔王様にストップをかける。キリギリスを食糧として迎え入れたって考えどこから来るの、物騒なのはそっちもだよ。
「違いますよっ!慎ましく暮らして仲良くやりましょうねってことですよっ!」
「でも蟻ってキリギリス食うぞ?」
「あのね、子供ってそこまで気にして話聞かないわよ」
確かに大きい虫に集ってるアリは見るけどそんなサバイバルな世界を子供に教えるのは早すぎる、あくまで童話なんだから表面だけ捉えればいいのだ。魔王様は拍子抜けしたように苦笑している、この人はどんな話をお母さんから聞いてきたんだろう。あ、でも私だったらこういうタイプの子供には読みきかせしたくないな、ほっとけば難しい本読んでるタイプだし。
「俺ならそのまま死ねっていうけどなぁ」
私が異世界転生モノに感じた罪悪感を返してほしい。こともなげに言って伸びをする魔王様には裏表ってものがない、この人は腹黒いわけじゃない、優しいの延長線上に残酷さがある。たかが童話の虫の話をしてただけなのに、やたら怖いと私は思った。
アリが見捨てるバージョンもあるようですね、童話の改変の変遷を見るのは結構面白くて好きです




