露出はダメでした
今の季節は夏。この世界というかこのあたりは日本と違って高温多湿じゃないからそこまで苦じゃないけど、盛りになるとやっぱり暑い。一年を通して温暖で冬はそこまで冷え込まないって話なのでこの暑い時期さえ乗り切っちゃえば問題ないのかな。まぁ向こうの暑さは異常気象もあるからね、40℃近いのに湿度80%とかつくづく生命に関わるよね。こっちに来た時に揃えてもらった服はそろそろ暑くてこの間薄手のものを買ったところ。だけど不満があって、その夏物の服ってやつが良くて七分袖、半袖なんて滅多になくてスカートは相変わらず踝までってこと。まぁ私も26ですから、生足を出そうという気にはならないですけど夏は別。というかせめて半袖でしょ、冷房なんてヨハンさんとアンナさんの店についてるわけないから働いてると汗がどんどん出てくるんだよね。ついでに言えば氷は高級品だし、なんとか出来ないかな。
「ハナコ、女の子は足出しちゃいけないわ」
「マジですか…」
まずはスカートについて相談してみたんだけど返ってきたのは悲しい言葉だった。この世界、女性が肌を出すのは滅多にないことで、袖がないドレスなら長手袋するなりして肌面積を可能な限り減らす必要があって、足を出すのはもってのほか、ハレンチなんだそう。10歳かそこらの子は半ズボン履いたり膝丈のスカート履いたりを許されるみたいだけどそれでも膝丈。生地の薄い服で融通するのが通例なんだそう。言われてみればサリィさんも豊かなお胸が強調されるドレスを着てても長手袋とかショールとか羽織ってたし、太ももまでスリットが入ったセクシーなやつでもタイツは履いてたね。今は白い清楚なワンピースだけどこれはこれでドキッとするものがある。
「ちっちゃい子限定なんて殺生な…」
「城は涼しいでしょう?」
「バイト中が地獄なんですよねー」
「夏物の服は買ったんでしょ?」
「人の熱気は恐ろしいんですよっ」
勿論お城は涼しい、冷暖房完備の上に最適湿度もキープ。絶対上級魔法だけど私にはわからないのでスルー、魔性でも暑い時は暑いし寒い時は寒いんだって。ヒトと違って強いのかと思ってたんだけど、そのおかげで私は快適に過ごせるからオールオッケー。
でも外に出たらそうはいかない、貴族とかお金持ちな人達なら対策は可能かもしれないけど私が働いているカロン村に冷房なんてものはない。だけどお客様は来るわけで緩いエールをじわっと暑い店内で振舞うことになるわけで、そして暑くともそれなりに賑わっているわけで、うーん、飲食店で汗流したくないな、衛生的に。
「まぁとにかく、生足はダメ」
「えー…」
「誘ってるのかと思われちゃうわよ、ね?」
「ん?…いや、思わんなぁ、常識がない痴女かなとは思うけど」
「そっちの方が万倍キツいんですけど!」
女同士の会話に我関せずといった感じでアイスティーを飲んでいた魔王様はあまり興味なさげに応じた。夏という時期もあっていつもの真っ黒マントと上着を外してベストとシャツというシンプルな姿に収まっている、お城に暑さはないけど気分的に爽やかだよね。いや勿論ベストも刺繍やら装飾やら見事なんだけど、これも自分で作ったんだろうか。豪華な服を自分用にデザインする図、シュールだな。それにしてもどうでもいいですっていうあからさまな態度が気にくわない。
「…魔王様は生足にドキってしないんですか?例えばロクサーナさんとか」
「なんでそこでロクサーナなんだ?」
「えっ、あっ、いや、だってサリィさんだったら見たことあるのかなって」
「確かに全裸くらいは見たけど」
「くらいってレベルではないです」
この絶世の美女の全裸で揺るがない人がロクサーナさんのフワーオな光景を思い浮かべたところでドキッとするはずないかぁ、完全脈なしなのは分かってたけどひたすらあのお姫様が不憫になる。そしてサリィさんは憎たらしそうに魔王様を睨みつけていてちょっと怖い。その氷の視線を完全スルーして、テーブルにティーカップを置くと魔王様はしみじみと呟いた。
「異性にときめきってものを覚えたことがないんだよな」
「うわぁ化石だ!」
「でしょ!化石なのよこいつは!」
「失礼だぞお前ら」
2人分の非難にむっと眉を寄せる魔王様、だけどこれは魔王様に問題がある。もしかして可愛いを魔獣以外に使ったことないんじゃないの?
「浮いた話の一つもないんですか、その顔で生きてきて!」
「顔関係あるか?むしろ恥ずかしい思い出しかねえよ」
「あら、初耳ね」
「言いふらす話でもないしな」
魔王様は片眉を上げたサリィさんに軽く肩をすくめた。様になる顔だな、これでキャーキャー言われなかったどころか恥をかいたって言われても普通に納得できないんだけど。サリィさんも同意見なようで怪訝な顔で魔王様を見つめている。いくらデリカシーが足りなくて諸々雑な性格でもちょっと残念なイケメンっていいよね!って具合にコロッときてる女の子はいるはずなんだよ、絶対。
「俺がまだ村に住んでた頃のことなんだが、まぁ、それなりに慕われてて?近所の子供やらなんやらとよく遊んでたんだ」
「あー、面倒見いいですもんね」
「で、女友達っていうのもそれなりにいた。その中にな、やたらと絡んでくるやつがいて、遊んでない時もチラチラこっち見てくるもんだから…つい言っちゃったんだよな『お前って俺の事好きなの?』って」
「………」
「その後は予想つくだろ?もうマジギレ。真っ赤な顔で殴ってきて馬鹿だの死ねだの言われた後は弁解する間もなく逃げられて、それっきり遠くから睨まれるだけの関係になっちまってさぁ……なんだその顔」
「あの、もしかして話しかけなかったんですか?」
「話すもなにも、呼ぶだけで半泣きになるやつどうしろっていうんだ」
はい察してたパターン。確かに前に女の子泣かせそうな性格だなぁとは思ってましたけど。サリィさんと私は顔を見合わせて重苦しい溜息を長く吐いた。
「最ッ悪ね…!」
「い、言うなよ、だから恥ずかしいって…」
「そうじゃないです!相性の問題です!」
「あ、相性…?」
そう、相性が最悪すぎる。恐らくは、というかほぼ確実に魔王様が好きだった女の子は古典芸術並みのツンデレだったんだろう。魔王様のことが気になって仕方なくて、でも自分からは決して言葉を口にすることが出来なくて。そんな状況で当人から好きなのか、と聞かれたらパニックで泣きたくもなるだろう。その後関係の修復に向かわなかったのはかなり痛いけど。
魔王様は優しい、そして変なところで無駄に素直だ。そんなタイプにツンデレをぶつけたらどうなるのか、ツンデレ殺しである。ツンを本気の怒りだと納得してしまって爆発を避けるように行動するタイプ。押してダメならと引いたら疑問すら抱かずに追わない人種だ。相性が悪いにもほどがある、第一本当に嫌いだったら顔ひきつるくらいするよ女子は。あと好きでもない男の事を遠目に見たりしないんだからね。魔王様だったら心くらい読めるだろうになぁ、頭が痛くなってくる。
「魔王様!」
「あ、はい」
「魔王様は女性が何をしたら好意を持ってると思いますか!」
「えっ………」
鈍感というレベルではない魔王様はどこからが好意のラインだと思っているのか、真剣に詰め寄ってみたら一瞬戸惑った後に腕を組んで熟考しだした。過去の一件から鈍さに磨きがかかっていたら目も当てられない、どうしようこれで告白までピンと来ないとか言い出したら。5分くらい経ったか、かなり思いつめた顔で考え込んでいた魔王様は一度私の方を見てから、遠慮がちに隣のサリィさんを手で招いた。不思議そうに近くに寄ったサリィさんの耳元にこっちを若干気にしながら何かを伝えている。いいな、内緒話。なんで私に直接言ってくれないんだろう、仲間はずれは寂しいんですよ。
「…そのレベルにならないとダメなの?」
「これはほぼ間違いないだろ…?」
「えっと、聞いちゃダメですか?」
「んー………ベッドに誘われたら、ですって」
「ちょ、おま」
…………うーん。
見込みが甘かった。
サリィさんの微妙そうな顔と話すまでの間を考えるともっと生々しい話をした可能性の方が高いし。その…べ、ベッドって話も油断させて暗殺ってパターンかもしれないだろ、とかこの人なら言いそう、いや絶対言うわ。魔王様は暴露されるなんて思わなかったんだろう、いつになく萎縮気味、何を言ったんだ。私は頭を振って呆れながら魔王様を見た。
「魔王様……、私が言うのもなんですけど、ちょっと常識ないです」
「ハナコに言われると…万倍、キツいな…」
後日、ロクサーナさんから貸してもらったこっちの恋愛小説を頭痛を堪えながら読む魔王様、それにツッコミ、もとい注釈を入れる私、という形で女の子の気持ちを知ってもらう事にした。
「なんで…なんでこの王子は公の身を利用して私情を優先するんだ…?」
「女の子は非日常から掻っ攫ってくれる王子様に憧れがあるんですよ」
「最悪だ…国主としてダメだろ…」
まぁ…結果は出なかったけど、ね。




