過去と今
ある日、小さな小屋にて、少年は一人で黙々と作業をしていた。
「こんなものかな」
作業が一段落ついて、少年は背筋を伸ばす。
「もう、この作業を始めて、十年くらいか...」
少年はいつも独りだった。
幼い頃、農民ーー平民だった少年の両親は魔物に襲われ、死んだ。
...正確には、"傷を負った”だけだった。
その程度の傷なら、売っているポーションを使えば瞬く間に治っただろう。
だが、傷口からの多量出血により少年の両親は、亡くなってしまった。
すぐに叔父に引き取られたものの、その夜、少年は延々と泣き続けた。
では何故、少年は両親にポーションを使わなかったのだろうか。
ポーションの効果を知らなかったから?
───否。ポーションの効果がどれほど高いか、など幼い子供でも分かることの一つだ。
両親を嫌っていたから?
───これも否。仮に少年が両親を嫌っていたとしよう。
だが、見殺しにまでする必要はない。
そもそも、殺したい程に嫌っていたなら、泣いたりはしなかっただろう。それも延々と。
なら、考えられる原因として最も近い答えは使い方が分からなかったのでも、使わなかったのでもない。
答えは至って簡単で、単純だ。
───無かったのだ。その場にポーションが。
じゃあ、急いで行って買えば、間に合うのではないか?
冒険者なら、たったそれだけのことで済むだろう。
だが、忘れてはならない。
───少年は平民である、と言うことを。
つまりは、だ。
ポーションは高すぎるのだ。
『貧しい』と紙一重な平民にとって、ポーションは手の届く代物ではない。
仮に作ると言っても、幼い子供では森に入った時点で命を失ってもおかしくはない。
※※※※※
──そして時は進み。
少年は毎日ポーションを作るようになった。
それは『日課』から少しずつ少年──カミエ・イルの『趣味』へと変化した。
イルは作る上で、効率の良い方法を探し、能力を上下させる方法まで探し出した。
つまり、ポーションの"未知”を発見し、解明させたのだ。
イルの趣味は世間から見れば『研究』と言って良い程まで上達していた。
しかし、そんな大陸中の人間が驚くレベルの結果を、イルが出していることに世間は誰一人として気づかない。
イルはそんなことを全く気にしていなかった。
その理由は、世間の考えに興味がない、趣味だから気にしてない。
そんな軽いことではなく、自分の胸に刻んだ二つの言葉が理由だった。
その理由とは───
───自分が沢山ポーションを持っていることで、自分のように家族を失う人を少なく出来るから。
───自分に大切な人が出来て、いつか、あの時と同じことが起こっても今度は必ず救ってみせる。
それが目の前にある地位や名声を霞ませる、一人の少年の大きくて切なる願いだった。
だから、イルは今日もポーションを作る。
誰かの為に。
そして───
───自分自身の為に。
「.....はっ!?」
机に伏せていたイルは飛び起きた。
窓の外は薄暗く、太陽はほとんど沈んでいた。
───....あ...。
辺りを見渡すと、目の前のあらゆる道具からは透き通った緑色の液体が溢れており、悲惨な状態となっていた。
「うわっ!?急いで収納しないと!」
イルは溢れている液体を手際良く、自分のアイテムストレージに収納する。
(今日はどの位増えた.....!?)
目の前に出現させたアイテムストレージに手を当てて、数値を確認するが、その数値にイルは驚愕する。
その数値とは───
────『∞』
───....そもそも数値なのか。もはや記号では?
そう考えるや否や、ほろりと言葉が漏れる。
「どうしよう....この数...」
会話文少なくて、ごめんなさい。
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