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クリスマスのプレゼント

作者: アッハッハ

 あなたはサンタクロースを信じますか?

 え、実際に資格を持っている人がいるって? まぁそうですが……。

 では空飛ぶソリは? 煙突から入ってくるという行動、それに全国の子供達へのプレゼントが入りきってしまうという布袋は?

 それをふまえて、あなたはサンタクロースを信じますか?

 私? それは……。


 ***


 2008/12/24/AM10:00_


 んぁ〜、最近本当に冷えてきたなぁ。当たり前か、だってもうクリスマスだし。正確にはイブだけど。

 まぁロマンチックなイベントだからな、周り見ても男女の二人組だらけ。右から、楽しそうに手を繋いでる初々しいカップル、公衆の面前でも堂々とイチャイチャしているバカップル、そしてがっちり手を繋いでる……あ、ぬいぐるみだった。ま、一つ飛ばしておいて、ギスギスしている冷め切ったカップル。クリスマスイブだってのに勿体無いな。あとその隣には若い男と結構歳をとっている女の親子か。仲が良いな。……ん? いやでも手を繋いでいる。俗に言う恋人つなぎ? ……カップルなんだな。んでその右は鏡か。子供が鏡に映る自分と楽しそうに手を繋いで……ん? 鏡の中の自分と手を? ……いや、双子だな、うん。

 ……ってなんだ俺、何で人間観察してんの? あぁあぁもう、ひがむなよ俺。取り合えず頼まれた星を買いに行こうぜ。

 寂しく自身に言い聞かせて、寒空の下、賑わう大通りを独りで歩く。右側のおもちゃ屋さんにはサンタさんとトナカイが――いや、違うぞ。決して違う。俺はいつもサンタにさん付けしてる訳じゃないんだからな! へっ誰が架空の人物にさん付けなんかするもんかってんだ。ただあれだ……そうそう、サンタの人形が3本指立ててたからつられたんだよ! んだよ紛らわしいことすんじゃねぇ、このサンタが!

 クソッ。独りでいることが多いから頭の中で独り言が止まらねえ。自分の寂しい癖に思わず立ち止まって、3本指を立てているサンタに手を掛けて落ち込んでしまう。はぁ、とため息をつくと、その息が俺の眼鏡を曇らせて前が見えなくなる。情けねえなぁ。

 そんな俺を慰めるかのように、サンタとトナカイのイルミネーションは綺麗に輝いている。

 まぁ、落ち込んでてもしょうがねえし、さっさと頼まれていた物を買いに行こう。クッキーのでっかい星の型が必要らしいんだよな。その頼み事は家族からってのも悲しいが、しょうがねえよな。

 気を取り直して前を向く。少し慰めてもらったから、礼の意味を込めてサンタの人形の頭を軽く触って足を進めようとすると、おもちゃ屋の出入口から見知った顔の女が現れた。


「あれ、(ひさし)じゃない。久し振りー!」


 楽しそうな笑顔で笑いかけてくる女の名は美央(みお)。俺の……幼馴染だ。

 俺は必要以上の笑顔で応じる。さっさとこの場から去りたいんだよ。


「久し振りだな、じゃぁ俺は今から用事があるからまたな」


 見事なターンを決めて振り返り、すぐさま立ち去ろうとするが……ダメだ、腕が掴まれてるよ。進めない。


「暇だからついていくよ。ね、一緒に行こう!」


 腕を掴む美央の手は震えている。そして明るく振舞おうとしている声は泣きそうで力はない。そりゃそうか、俺が美央を避け始めたのは2年前、俺と美央が小6のとき。それからまともに話したことはない。

 当時の夏、俺は美央に取り返しのつかないことをしてしまった。だから後ろめたくて一緒にいられないんだ。美央はそのことを気にしてないようだ。でも俺はどうしても美央と目を合わせられない。


「悪いな美央、俺、一人の方が好きだからさ、遠慮してくれないか?」


 なるべく笑顔で言ったけど、実際悲しそうな顔になってたかもな。俺、演技下手だからさ。

 でも美央はわかってくれたようで、「そっか」とだけ言って立ち去った。ただ、今にも泣きそうな顔だった。

 2年間、俺はこの言い訳で美央から離れ続けていた。おそらくこれからも俺は美央を避け続けるだろう、一生でも。

 あぁ、あまりにも今の俺は暗いな。よし、気分を変えて買い物へ行こう! 星の形のクッキーの型を買うんだ!

 気を取り直して、一戸建ての料理器具専門店へ向かう。確か、おもちゃ屋の角を曲がった人気のないところにあるんだよな。

 早速曲がってみる。あぁ、本当に人の気配がねえな。寂しすぎる。

 ん? なにやら上着の袖を引っ張られているような気がする。後ろを振り向くと、そこには少し年上っぽいサンタの服を着た女が居た。白いふわふわの淵と丸い部分がついた赤い三角帽子に赤い服に赤いズボン。腰には黒いベルトをつけている。変人? いや、何かのキャンペーンか? どちらにせよ、関わらないほうがいいだろうな。

 あと、関係ないことだが女なのにズボンなんだな。


「お兄ちゃん、ねぇお兄ちゃん、サンタクロースっていると思う?」

「あ〜、俺、お前の兄ちゃんじゃねえから」


 無邪気な瞳で尋ねてきた女を払いのけて、俺は目的の店へと向かう。


「ん〜、じゃあ、お名前はなんですか?」

「名乗る義理ねえよ」


 いや、俺のセリフは冷たいだろうけど、関わったらダメな空気プンプンするだろ? さわらぬ神に祟りなしだ。


「む〜、隠したってムダだよ〜! えーっと、上山久(うえやまひさし)っていうんだね!」

「は、はぁ? 何で知ってんだよ」

「えへへ〜知りたい? なら聞かせて。久くんは、サンタクロースっていると思う?」


 どうする、俺? 答えるか? でも危なくないか? だって変な雰囲気を醸し出してるんだぞ。しかもサンタの服装だし。でも何で俺の名を知っているのか不安じゃないか? いや、よく考えろ、誰がどう見ても可愛らしい普通のヤツだ。こいつが危険だと思うのか? 思わないだろ、なら答えて理由を聞くほうが賢明じゃないのか? ……答えてやるか。


「サンタなんて……い、いるんじゃないかな?」


 あぁダメだ! こんな純粋な目をしたヤツにサンタなんていない、なんて言えるか! だが、本心では俺はサンタはいないと思っている。ということは嘘をついたということに……こんな純真無垢そうなヤツに。俺はなんて人でなしなんだろう。


「ん〜、嘘言っちゃダメ! 信じてないってわかってるんだからね!」

「なら聞くな馬鹿、俺の苦しい自虐の時を返せ!」


 くっそ〜、あんなに心を痛めて言ったってのに……ムカつくぜ。


「まぁまぁ、そんなことより、私、君に決めたよ!」

「はぁ、何が?」

「なんでも、君の一番欲しいものをあげる」


 はぁ? 何でだよ、初対面なのに……。なんか裏がありそうだな。


「裏なんてないよ!」


 はぁ? 今俺、何も言ってなかったよな? ってことはクソッ、何コイツ人の心読んでんだよ。


「人の心を読むんじゃねぇ! 何様のつもりだ!」

「サンタの見習いだもん、子供の心くらい読めなくて務まるわけないわ」

「子供扱いするんじゃねえ! 俺はもう中学生なんだぞ!」

「残念、私に心を読まれた時点で、君は子供だよ〜だっ」


 何だこいつは、変なヤツ。正直マジ関わりたくねぇ。胡散臭い。


「酷いな〜。ま、いいや。何か欲しいものをあげるよ。言ってみて」


 笑顔で尋ねてきた。クソ、また心を読んだらしい。つーかサンタの見習いだぁ? 有りえるわけねえだろ。


「本当だよ? 私はサンタの見習い。君みたいにサンタクロースを信じない子供を減らすために、サンタクロースを信じない子供に一番欲しいプレゼントをあげることを任されてるの。それが見習いサンタの仕事なの。わかったかな? なら欲しいものを言ってみて」


 本当に胡散臭い。無視してここから離れようかな? でもなぁ、どちらにせよクッキーの型を買いにまたここに戻って来ねえとダメだし。……はぁ、適当に言ってさっさと離れるか。


「もう、全然信じてな――」

「視力」


 女のセリフを遮って言った。ただ、嘘とは言わせねぇ、俺の視力は両目とも0.1、欲しいのは本当なんだ。


「ダメ! だって実体がないじゃない! それに、一番欲しいものじゃないでしょ?」

「なんで一番欲しいものじゃないってわかるんだよ」

「だって、一番欲しいものだったら私の帽子の上の白いふわふわの部分がトゲトゲになるんだもんっ 嘘だと思うなら言ってみてよ。一番、喉から手が出るほど欲しいものを」


 喉から手が出るほど欲しいもの? そりゃあるさ。壊す前の物が欲しい。美央が大切に作った、俺が壊す前の物がとんでもなく欲しい。まさに喉から手が出るほど。でもそれは欲しいと思っても手に入れることはできない。だって壊れてしまったものはもう元には戻らないんだから。


「言ってみてよ、本当に欲しいものだったら手に入れられるよ? だって、クリスマスは子供に夢と一緒に掛けがえのないプレゼントをあげる日なんだから」


 俺の顔を覗き込んでくる女の声は優しく、瞳は真っ直ぐで透き通っていた。話を信じることはできないけど、一番欲しいもの、言ってみてもいいかな。言ってみれば心が楽になるかもしれない。


「俺の欲しいものは、俺が壊す前の貝殻の置物」


 俺がそう言った瞬間、女の帽子の上についているふわふわが鋭くとがった。まるで木に()っている栗のようだ。

 そして女の顔はパァッと輝いた。


「一番欲しいもの、承りましたー! 本当のこと教えてくれてありがとねっ じゃ、ちょっとだけ待ってて、探してくるから!」


 そう言って女はかぶっていた三角帽子を外して、その中に足を突っ込んだ。うん、やっぱりコイツは変人だった。何考えてるんだ? 帽子に足突っ込んでどうしろって……あれ、おかしいな。俺の目、変になってしまったのか? なんか目の前にいる女の体が見る見るうちに帽子の中へ消えていく。でも有りえねえよな、だって、消えるなんておかしいし……。眼鏡の度が合ってねぇのかな?

 一度外して前を見てみるけど、赤い帽子が落ちているのがおぼろげに見えるだけだった。

 俺の頭、変になっちまったのかな?



 ***


 う〜んと、壊す前の貝殻の置物って、どんな状況で壊しちゃったのかな? 状況によってはたった一つの掛けがえのない物かもしれないし、そうでもなければ世界中で探せばいいし……。

 私は見習いのサンタとして、立派な一人前のサンタクロースになるための試練を乗り越えるべく、少々困っている。だって、貝殻の置物、ということしかわかってないしね。でも、それだけで探し当てないと、サンタクロースがいるって事は証明しきれない。だって、人間の世界は大抵お金さえあれば何でも解決しちゃうからね。

 だから、サンタとしての力を使って、サンタらしいプレゼントを渡せるように、頑張らなくちゃ!

 まずは、そうねぇ……久くんの周りを調べよう!

 そうと決まれば早速行動よ! ベルトの留め具の部分に向かって念じる。


「久くんのことをよく知っている人のところへ連れて行って」


 そして3秒目を閉じる。1、2、3。目を開くと、目の前には久くんのことをよく知っている人がいるはずよ!

 ゆっくり目を開くと、あ! 女の子だ。って泣いてる!


「どうしたの? 何かあったの?」


 私が尋ねると、女の子が驚いて私を見た。あ、そういえば私っていきなり出てきたんだもんね。そりゃビックリするよ。そういえば、今いるところはどこなんだろ?

 右を向いてみると、ひっそりとした住宅街、左も一緒で後ろも一緒……。寂しいところだね。でも、色んな人に見られなくてよかったよかった。


「あ、あなたっ、誰?」


 泣きながら女の子が訊いてきた。う〜ん、どうして泣いているんだろう? 私は何か力になれるかな?


「私はクリス。サンタの見習いなの! ねぇ、どうして泣いているの?」


 ――泣いてる理由? だって、久が……久がずっと私を避けるんだもん……。でも、そんなこと知らない人に言ったって……。


「え、久くんが絡んでるの? どうして? 私に教えて!」

「久を知ってるの? どうして久が絡んでるってわかるの? どうしてあなたに教えないといけないの?」


 泣き腫らした目でとっても不思議そうに訊いてくる。その目には少し怒りも見えるな。でも、全部話したらわかってくれるよね。


「あのね、私はさっきも言ったけどサンタの見習いなの!」

「サンタの見習い? ケーキ屋さんのバイト?」

「いやいや、そうじゃなくて……」


 私はさっき久くんにしたような説明をした。そして久くんにプレゼントをあげることも。でも何度言ってもわかってくれないなぁ。やっぱりみんなサンタを信じてないんだなぁ。……でも、一人ひとり頑張って話していったら、いつかまたみんながサンタを信じるときが来るよね!

 目の前の女の子――横須賀美央(よこすかみお)ちゃんも、今は呆れたように「わかりました」って言ってるけど、いつか信じてくれるよね……。


「やっとわかってくれたんだねっ じゃ、久くんのこと教えてくれないかな?」


 悲しい本心を押し隠して、私は元気に返事をする。大丈夫、私はサンタの見習いだもの。子供に心配させないように、演技力だけはあるんだからね。


「……久とは、幼馴染です」

 ――こんな変な人に久のことなんて教えられないよ!


 う〜ん、警戒心強いなぁ。でも、教えてもらわないと。


「ねぇ、もっと知ってるでしょ? 教えてくれないかな? 貝殻の置物のこととか」

「えっ なんで、そのこと知ってるんですか?」


 よしっ 美央ちゃんの心が少しだけ開いた。これなら聞き出せそうだな。


 

 ***


 はぁ、どうしよう。クリスとか言う女が帽子から消えてもう30分が経とうとしている……。放っといてどこかへ行ってもいいんだけど、目の前で消えてたし、帽子だけ残ってるし……それに、心は本当に読めるみたいだしな。案外本当にサンタの見習いなんじゃないかなって思ってる自分がいる。

 ハハッ、14歳の男が何ロマンチックなこと考えてんだよ。

 それに、もしそうだとしても、壊れてしまったものはもう戻らないんだからクリスは何も持ってこれないだろうなぁ。

 でも、アイツの目は真っ直ぐだったし、一生懸命頑張ってそうだし、それに、それに……まぁ思いつかねぇんだけどさ。でも、アイツが戻ってきたとき俺がいなかったら、きっと傷つくだろうしなぁ。

 それだけでも待ってる理由には十分だろ。いや、でもなぁ……アイツに言う、待ってた言い訳はどうしよう?

 と、色々悩んでたら目の前に落ちている帽子が盛り上がってきて、いきなり頭が出てきた。


「ぷはぁ、たっだいまー!」

「お、おかえり……」


 見る見るうちに帽子の中からクリスの体が出てくる。なんか変な光景だな。


「えへへ、やっぱり待っててくれたんだね!」


 うわぁ、すっげぇ嬉しそう。でも、待ってた言い訳――おっと、下手なこと考えたら読まれるからな。無心無心。


「別に、暇だから待ってただけだよ」

「ウフフ、買い物はどうしたのかな? 行った様子はないけどね。あと、心読まれるからって警戒してる時点で、何考えてるのか大体わかるよ」


 けっ、心底嬉しそうな顔しやがってよ。やり辛いヤツだぜ。あぁもう、心の中での独り言が癖の俺には隠せねえよ。白状してやる。

 そりゃ、お前がいつ帰ってくるかわかんねえのに、どこか行けるわけねえだろ? 戻ったときに俺がいなかったら、多分お前は酷く傷つくだろうしな。


「ありがとねっ」

「別に。じゃ、もう行くからな」


 プレゼントなんて見つかるわけないんだ。だって、もう壊れてるんだから。わかってて言ったんだから、わざわざ責めるようなことする必要はない。

 俺はプレゼントのことには触れずにその場を立ち去ろうとする。早くクッキーの型を買わねえとな。流石に遅いって怒られる。


「待ってよ、プレゼントまだ渡してないよ?」

「はぁ? どうせないんだろ、わざわざ自分で切り出すなよ」


 折角俺が気を使ったのに台無しじゃねえかよ。


「はいっ、これだよね」

「これは……」


 クリスが俺の前に出したもの。それは真っ白な貝殻の置物だった。もちろん何処も壊れていない。でも、俺の欲しかったものとは違うな。だって、こんなに真っ白じゃなかったしさ。

 俺が欲しかったもの、それは小6の自由研究で美央が作った手作りの貝殻の置物。

 俺らの家のすぐ近くには海があった。ゴミなんて全然なくて、綺麗な海だ。そしてその海岸には伝説があった。


『この海岸で拾った貝殻に願いを込めて装飾を施すと、その願いは叶う』


 だから俺たちは貝殻で置物を作ることにしたんだ。テーマ、願い事は本当に叶うのか という議題でな。俺はあまり気が乗らなかったけど、美央が何度も誘ってくるからやることにしたんだ。

 俺たちは提出が終わって返却されたら、互いに交換することにしていたんだ。だが、俺は美央の置物を、もらった瞬間に落としてしまった。

 伝説には続きがあった。


『もし願いを込めた貝殻が壊れてしまったら、その願いは叶わない』


 俺は、美央の願い事を壊してしまった。だから他のものでは代用は効かないんだよ。

 多分クリスは頑張ってくれたんだろう、でもこれじゃダメなんだ。叶わないものを言って悪かったな。俺の心の中の声は今だけは聞かないフリをしてくれ、そして俺の声を信じて……。


「ありがとう、俺の欲しかったものはこれだよ」


 俺は自然と浮かんできた優しい笑顔を見せながらクリスに言った。


「久くん、ごめん。聞かないフリなんてできないよ。わかっていると思うけど、これは本当に久くんが本当に欲しかったものと同じものじゃないんだよ。でもね、中身は一緒なの。これは、美央ちゃんに作ってもらった物なの」


 どういうことなんだよ、意味わかんねぇ。


「貝殻の内側を見てみて。願い事が書いてあるよ」


 言われたままに、俺は貝殻の中を見てみた。外側と同じように真っ白な内側には、細い線で丸い字が掘り込まれている。


『久とずっと仲良しでいられますように』


 それは間違いなく美央の字だった。おそらくこれはカッターで書いたものだろう、美央はカッターで字を書くと、必ず丸い文字になるんだ。逆にすごい。

 美央の願いを読むと、俺の心はズシンと重くなった。2年間も避けてるんだ、申し訳ない気持ちが溢れる。でも、俺は美央の願いを壊してしまったんだぞ? たとえ美央が今、本当にそう願ってくれているとしても、昔の美央の願いは戻らない。俺は美央とはいられない。


「久くん、君は勘違いをしているよ。昔の願いも、一緒だったんだよ?」

「嘘だ、そんなわけないだろ? これは、俺を気遣って書いてくれたものだろ?」

「違うよ、私は、ずっと久と一緒にいたいと願っていたの。だって、ずっと好きだったんだもん!」


 突然、未だに落ちていた見習いサンタの三角帽子から美央が現れた。ってか、タイミング良すぎ。しかもなんだよ、その帽子の機能は? 誰でも通り抜け可能なわけ?

つーか、はぁ? 美央が俺を好き? 有りえねえよ、有りえねぇ。だって、美央は昔から好きな人なんて一生作らないもんって言ってたし。


「久くん、女の子の気持ちは変わるものなんだよ」


 クリスがうんうん頷きながら全てを悟っているかのような顔で俺を見てくる。ハッキリ言って、ウゼェよ。

次は美央が言い返してくる。


「本当だよ? だって、そうじゃなかったら小6にもなって一緒に自由研究しよ、なんて言うわけないじゃない! 貝殻の伝説なんて、そんな幻想的なの、やるとしても女友達と一緒にやるよ!」

「だとしても、美央が俺を好き? 信じられねえよ」


 だって、どう考えても有りえねえし。


「……だったら信じなくてもいいよ、でも、貝殻の置物はもらって? それでその私の願いを叶えてよ……」

「そん、な……泣きそうな顔すんじゃねぇ、バカ。俺は別に泣かせたいわけじゃないんだ。ただ、悪いことをしたと思うから一緒にいられねえんだよ」

「避けるほうがもっと酷いよ、馬鹿!」

「なんだよ、漢字で馬鹿って言うことないだろ?」

「だって、馬鹿なものは馬鹿なんだもん!」

「あ〜もう、わかったよ、俺はどうせ馬鹿だ」

「退かないでよ! 退いたらまた、避けてしまうんでしょ?」


 そう言う美央の目からは涙が溢れてくる。やべぇ、どうしよう。


「クソッ……しゃーねぇ、卑怯な手段に出るよ」

「卑怯な手なんて――」

「美央ちゃん、ちょっと黙った方がいいかな?」


 俺の心を読んだクリスは美央を止めてくれた。それは嬉しいんだけど、雰囲気が冷たい……しゃーねえんだけどな。


「聞けよ、俺は卑怯で、そして馬鹿だ。だからもう何もわからねえ。お前が何を考えて望んでるのかも、俺が何のために避けてたのかも……いや、実際俺は後ろめたくて避けてたんだけどさ。だから俺はもう何も考えねえ、卑怯なことに、もう考えるのをやめるよ」

「それは、どういう意味なの?」


 わからねえか……わからねえよな、スッゲェ遠まわしな言い方だったし。わかりやすく言い直すか。


「つまり、もう貝殻のことは考えねぇし、お前のことも、もう避けねぇ」


 あぁ〜、本当にこれでいいのかな、俺は貝殻を壊してしまったのに、美央と話す資格があるのか? 自信がねぇから今目、瞑ってんだけど……でも早く美央の反応見ねぇとな。見ないことには始まらない。

 ゆっくり目を開けると、美央はボロボロ泣いていた。って、あぁもう、やっぱりダメなんじゃねぇか。


「悪い、そんな責任ないこと――」

「ホント?」

「へ……何が?」


 うわぁ、スッゲェ睨んでくるんだけど、どうしよう。やっぱり相当怒ってるのか? そりゃそうだ、だって、壊したのに忘れるなんて、そんなの……なぁ?


「久くん、察し悪いにも程があるよ」


 なんだよクリス、俺はどっちかってぇと察しが良い方だ!


「久、ホントにもう、避けないでくれるの? 挨拶したら返してくれる? 話しかけたら答えてくれる?」

「えぇ? そりゃ、お前が嫌じゃないんだったら……」

「嫌なわけないよ。じゃぁ、じゃぁね? 買い物について行ってもいいかな?」

「……」


 そんな、買い物ったってクッキーの型買いに行くだけだし、ハッキリ言ってつまんねぇだろうし、何も良いこと無いと思うんだけどな。

 あ、ヤッベェ、返事に時間が掛かってるからか、美央が今にも泣きそうだ。返事、そうだ返事しねぇと。


「別に、たいして楽しい買い物じゃねぇけど、来たいんだったら来てもかまわねえよ?」

「行くっ」


 俺のセリフを聞いた途端、美央は俺の服の袖を少しだけ握った。いやいやそんな、握らなくても置いてかねえよ。

 んで、それを見てニヤニヤ笑ってるクリスがいるんだけど、どうすればいいかな? クソッ、一々ムカつく顔しやがって……俺にどうしろって言うんだよ。


「久くーん、手、繋いだ方がいいんじゃないのかな? はぐれちゃうとダメだしねっ」

「はぁ? はぐれるも何も、こんな寂しい通りではぐれるわけな……ってのは嘘で、美央、手ぇ繋ぐか?」


 いやだってだって、しゃーねぇだろ? 否定しようとしたら隣で泣きそうになってるんだぞ? あぁ、避けすぎたからか、心がスッゲェ傷ついてるらしい。まさにガラスのハートだな。

 俺は美央が力強く頷いたのを見て、手を繋いだ。左手に手を繋いで、右手にはもちろん真っ白な貝殻の置物をしっかりと握っている。もう絶対落とさないように、2年前よりもでかくなった手でしっかりとな。

それにしても、中2にもなって恥ずかしいな、仲良しこよしで手繋ぐなんてよ。

それでもそのまま料理器具専門店へと足を進める。隣には幸せそうな美央の顔。

そして昔を思い返す。最後に笑顔を見たのは、自由研究の貝殻の置物を完成させた時だったっけな。 俺が貝殻の置物を壊して以来、一度も見れなかった最高の笑顔。

 ハハッ、相変わらず美央の笑顔は見てて嬉しいな。俺の顔も自然と緩んでしまう。

 チラっと後ろを振り返り、クリスと目を合わせる。今こそ心を読めよな。

 ありがとう、見習いサンタさん。見習いでないサンタさんにもよろしくな。



 ***


 うわぁ、やった、信じてくれた! 嬉しい、すっごく嬉しい。

 嬉しすぎて涙が出ちゃうよ……。よかった、本当によかった、幸せになってくれて。

 久くんの一番欲しい物は『壊れる前の貝殻の置物』だった。そして、それを通して望んでいたものは『また美央ちゃんの最高の笑顔を見ること』だった。

 実際、久くんが美央ちゃんを避けなければ、普通に見れたんだろうけど、貝殻の負い目があるからどうしても目を見れない。目を合わせてくれなければ、美央ちゃんは悲しむ。

 でも、二人は本音を言い合えたし、仲直りもできたし、本当によかった!

 ね、サンタクロース師匠。プレゼントで人を幸せに出来るのって本当に幸せなことだね。



 ***


 ホッホッホ、クリスよ、成長しましたね。

今の話は見習いサンタの話。故に空飛ぶソリもなければ布袋もないし、クリスは煙突の中に入ったりはしなかった。

 でも、見習いでもそうでなくても、子供達に夢と一緒にプレゼントを、そしてプレゼントの先にある幸せを運ぶのは同じ。

 最後に、あなたはサンタクロースを信じますか?

 たとえ信じてくれなくても、あなたが幸せなら構いません。なぜなら私たちサンタクロースは幸せを届けたいのだから。

 故に私はサンタクロースの真偽なんて考えません。どちらか決めるのはあなたですから。

 ホーッホッホッホ、世界の子供達に幸せを運びましょう。


 Merry Christmas!


ここまで読んでくださった方、本当に有り難うございました!

少しでも幸せな気持ちになってもらえれば、この上なく嬉しいです♪


ではでは皆さん、Merry Christmas!

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― 新着の感想 ―
[一言] いろんな人のクリスマス小説を読みあさって、ここにきました。 題名からあまり期待してはいなかったのですけど、やはり“ありきたり”です。“サンタ見習い”“サンタを信じていない子ども”などの題材は…
2008/12/29 12:23 聖ニコラス
[一言] 導入シーンは、誰が言っているのか分かりません。 始まりの、街の様子の書き方が、無駄に長い。 例えば、街中の人々の様子を詳しく書かずに『街中カップルだらけでイヤになる……』とかで良いと思いま…
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