08 旅の準備
08 旅の準備
食料は時間経過しない魔法鞄があるので腐ることは無いが、下ごしらえなどの準備は必要だ。
余剰分も含めると、多めに作りだめが必要になる。
買い物から帰ると、竈を借り、魔法も使いながらさくさくと購入して来たものの下ごしらえを済ませることにする。
角兎や岩猪の魔獣の肉をそれぞれ炒めて、臭み抜きのための香草と一緒に骨でとった出汁で煮こんでおく。
これをスープのベースとして使うのだ。
それとは別に野菜を小さめに切り、すこし大目の油で炒めて、小分けにしておく。
これはそのまま朝のスープの具にもなる。
あとは魔獣の肉を一口大に切って、お酒で少し揉んだ後にスパイスと塩コショウをすり込んでおく。それを30センチくらいの長さのクシに玉葱のような野菜と交互に刺しておく。
そのほかにも調味料を使いやすいようビンに入れなおしたり、魔法を使い作業を効率化しながらいくつか食材の下ごしらえを済ませていく。
作業をしているうちに日も傾いてきたので、ついでなのでマリーさんに一言断ってから夕食の準備にとりかかる。
岩猪のバラ肉部分を2センチ程度の厚さに切り、一度フライパンで焼く。それを一度水から湯でこぼしたあとに、再度水を変えて煮込んでいく。臭み消しのための生姜をいれて途中で少しだけ塩を入れて味をつける。
途中で下茹でをした大根、ニンジン、ゴボウなどの根菜を入れて、灰汁を取りつつやわらかくなるまで火を通す。
仕上げに三つ葉のような香りが強い山菜を散らして完成だ。和風塩ポトフって感じかな。
ちょっとこれだけでは物足りないかもしてないので、玉子に少しだけ砂糖を入れてかき混ぜ、中にチーズを入れてフライパンでオムレツにする。
夕飯は好評だった。
マリーさんも、料理上手なのね~と満面の笑みで食べていた。
ポトフは肉と野菜の出汁が効いているが、塩味であることと三つ葉の少し癖のある香りでさっぱりとして美味しい。肉の脂身もゆっくりと煮込むことでトロリとしていて、贅沢な味がする。
チーズオムレツは、鮮やかな黄色が食欲をそそる。スプーンで口に含むと玉子とチーズのマイルドでコクがある味わいが混じりあう。
夕飯後はまた爺ちゃんとマリーさんは呑むらしく、いくつかつまみを出しておいて、部屋に戻り翌日からの準備、計画を立てることにする。
紙とペンを取り出し、Todoリストを作成しておく。
旅の間に使用する便利魔道具のアイデアがいくつかあるのでその材料の在庫チェック、買出しリストも作る。
旅の必需品は衣食住の生活環境を快適にすることが基本となり、それに戦闘のための武具と、時間をつぶす趣味などを充実させたいと考えていた。
いくつか設計図などをメモしておいて、使い勝手やデザインなど構想を膨らませる。
時間も遅くなり考えているうちに脳みそがつかれてきたので、続きは明日にしようと思いベッドにもぐりこんだ。
翌日からは工房の一部を借りて制作に徹する。
足りないものがあればすぐ近くの市場などで買い足すこともできるので、エクアダというのは鍛冶師など物作りを生業としている人間には非常に便利な都市だとおもう。
爺ちゃんは【ダッチオーブン】の量産にかかっていて、エリーさんもその手伝いで忙しそうだ。
魔道具制作の手順としてまず素材を精製するための錬金術を使用する。出来上がった材料を生産魔法を使ってパーツにしていく。
魔獣の素材から作成したパーツであれば付与魔法を施す。付与魔法は『遮音』『洗浄』『保温』『防臭』『分解』などさまざまな種類がある。
パーツを組み合わせ、最後に魔石に魔法陣を付与する。
魔石が起動スイッチとプログラムが書き込まれた基盤、燃料となる電池の役割をする。
たとえば、食べ物が暖かいままに出来るお皿を魔道具として作るとすると、『保温』の付与魔法をかけた器がパーツになり、魔石には「触って魔力を流したらスイッチオンオフになる」「オンになったらパーツに魔力を流す」「器の温度が高い場合は自動的にスイッチオフになる」というプログラムを組むイメージだ。
複雑で高い出力を必要とする魔法陣を付与する場合は大きな高純度の魔石が必要となる。都市の障壁として使用されるものだと、大型魔獣からとったバスケットボールくらいの大きさとなる。生活道具に使うのはゴブリンやオークのものでこれはビー玉位の大きさになっている。人工魔石というのもあってこちらは使い捨ての魔道具に使用することが多く、大きさもビーズくらいだ。
魔石は爺ちゃんとの旅の途中で討伐したものが大量に余っているのでそれを使う。
薬草などの材料も多く余っていたので、足りていなかった常備薬も追加で作っておく。
用意したのは体力回復薬としてのポーションと魔獣よけの煙球、虫除け薬、虫刺され薬、制汗剤、消毒液、痛み止め、頭痛薬、胃腸薬、目薬、のど飴などだ。まとめて薬箱に入れて、わかりやすいよう効能なども書いておく。
あとは武器だ。
前世では特に格闘技などのスポーツはやっていなかったが、自転車に乗ったりトレッキングをしたりとそこまでインドア派ではなかったが、この世界は魔獣と言う存在が日常的にいるので、身体を鍛えたり武器を使いこなすことが当たり前のように行われている。
ただし、そういうわかりやすい「敵」がいるので人間同士の結束は強く、子供や老人などの弱いものを助けるのが当然で、むしろ弱いものをいじめるような行為は軽蔑されるくらいだ。
おそらく『神の祝福』というシステムがあるので、この世には神様という絶対的なものがいるのを皆わかっている。そのため「悪いことはしてはいけない」「自分の振る舞いは神様に見られている」という意識があるのではないかと思う。
そのため、武器を持っている人は多いがモラルが非常に高い。
前世でアメリカの銃規制のニュースなんかがあったことを思い出すと、この世界のひとのほうがよっぽど高潔で、無関心さがなく優しさを感じる。
武器は予備も含めいくつか用意しておく。
両刃の剣とショートソード、片刃のカットラス、ククリナイフ、鉈、十文字槍・・・
うん男のロマンだな。
そのうちハルバードとかジャマダハルとかメイスとか作ってみたいな、使わないけど。
盾は防壁魔法があるので使うことは少ないけど円形のバックラーと、魔法防御に特化した縦長のライオットシールドを用意しておく。
飛び道具としては投石用のスリング、コンポジットボウ、クロスボウ。正直魔法があるから使うことは少ないけど、ほら、男の(略)
武具関係は指輪に空間魔法と装備変更の魔法が付与できたのでそれにまとめて入れておく。
結局思いつくまま余計なものも含めて色々作っているうちに、準備に1週間くらい時間がかかってしまった。