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07 エクアダ散策

 07 エクアダ散策


 翌朝、気を利かせて早めに就寝したおれは、お酒と久しぶりの屋根の下ということでぐっすりで、少し寝過ごしたくらいだった。

 リビングに出るとエリーさんはすでに起きて朝食の準備をしていた。

 昨日おれが寝た後に2人で呑んだであろう酒瓶がごろごろ置いてあったが見ていないことにする。


 爺ちゃんも同じようなタイミングで起きてきたので朝食となった。

 メニューはスープとパン、果物とシンプルなものだ。スープは塩味でさいころ状の野菜と干し肉が入っている。

 果物は青林檎のような見た目で味もそっくりだ。味は甘みがさっぱりしていて、少し酸味が強い。


「しばらくわしとエリーは店の準備や届けてもらう手紙や紹介状を書いたりする予定じゃが、メルはどうする?」


「うーん、買い出ししたりしたいし、今日は街をぶらぶらする予定かな。あ、昼はどこかで適当に食べるからいらないよ」


 ついでにエリーさんからお勧めのお店や特産品を聞いておく。

 探知魔法があるので、街中で迷子になることはないが、お勧めや穴場の情報と言うのは現地の人しか知らないものだ。

 服装は旅用として使用していた黒や紺の暗い色合いではなく、白やグレーの明るめの色合いをチョイスしておく。

 旅をしていると色々な地域で服を買うことになるので、あまり奇抜にならないようにしていたら無難な色を選ぶことが多くなった気がする。


 裏口から『騒音通り』に出ると、ほかの店もちょうど開店の時間だったようで、店の前を掃除したり、店頭の製品を並べたりしている様子が見える。


 人通りは多くは無いが、荷車に木箱を積んでいる人や商人らしき服装の人などがせわしなく行き来していた。

 きょろきょろしながら、通りを中心街に向かって歩く。どの店も石作りで、出入り口の上のほうに30センチくらいの旗が看板の替わりに備え付けられている。

 武具店や家具屋、台所用品の専門店、雑貨のような小物を扱う店、アクセサリー店など多様な店が並んでおり、歩いているだけでもワクワクする。


 通りを抜けると、食料品などが売られているエリアになってくる。

 昨日のうちに見当をつけておいた小麦や果物、野菜を買い足していく。このあたりの街では魔法鞄マジックバックは一般的に普及しているものなので、大量に購入してもあまり目立つことも無いのは楽だ。

 治安も良く、絡まれることもなければ付け狙われることもなかった。


 今回見つけたなかでの掘り出し物は重曹が売られていたことだ。

 日用品を扱うお店に、石鹸と一緒に洗剤として2種類白い粉が置いてあった。防水性のある油紙のような紙袋にパックされていて、印字されている説明書きを読むと片方は『強力』とそこだけ青いインクで書かれていた。

 見た目はどちらも同じような粉だが、片方は効き目が強く、業務用として使用されているということだ。お店の人に聞くと、炭酸塩の鉱床が近くにあるらしく、採掘して錬金術で精製して作られているのだそうだ。

 ということは鉱床はトロナ鉱石である可能性が高い。トロナ鉱石は二酸化炭素を加えて重曹になるし、炭酸ナトリウムにもなるはずだ。

 産出される天然重曹として地球でも古くからあったはずだし、2種類あるということは、間違いないだろう。


 自分も錬金術で更に不純物を精製することができれば食用にもなるので、大目に買っておく。

 重曹からベーキングパウダーを作ることもできるし、炭酸ナトリウムは水に溶かせば鹹水(かんすい)になるので中華麺が作れるはずだ。


 昼を少し過ぎたくらいの時間になったので、昼ごはんは市場の近くにある『鹿のひづめ亭』という食堂で食べることにした。

 大衆食堂といった店構えで、庶民向けのお店と言う感じだ。

 お勧めのセットを頼むと、パンと野菜スープと炎鶏ファイヤーバードのローストが出てきた。腿肉の部分のようで、皮がパリッとしているが火を通しすぎているわけではなくジューシーだ。

 ハーブと岩塩で味付けされており、労働者向けなのか塩味が濃いが鶏の脂分と混じってジャンキーな美味しさがある。

 最後はパンに挟んで食べるとこれもまた美味しかった。


 午後からは情報収集のために街の中心部にある冒険ギルドに立ち寄ることにする。周辺で採取できる薬草や、魔獣の生息域などの情報や備えはあって困ることは無い。

 次の目的地は『デメーテル』という都市で、この街からは南東方向に大河沿いに下った平原地帯にある。

 付近はいわゆる扇状地となっている地域で、都市周辺で生産された小麦が集約され、売買されるところで、国内有数な農業生産都市として知られている。


 冒険ギルドの建物が近づくにつれて、剣や槍を持ち、革鎧で武装した冒険者の姿が増えてくるのでわかりやすい。


 冒険ギルドもほかの建物と同じように石造りだが、すぐ横に大きな倉庫が隣接していて、倉庫用の扉はおそらく馬車などが入るために両開きの造りになっていた。

 ビルド本部の正面の扉は西部劇のバーの扉のような造りで、中に入ると昼過ぎということで少し閑散としている。

 正面は受付カウンターがあり、左側は倉庫と繋がっていて、その前には買い取りカウンターがある。右側は木製のパーテーションのような板が何枚かあり、依頼票が貼られた掲示板となっている。

 難易度や内容で分類されていて、まずは常時依頼となっている薬草、魔獣討伐に何があるかをチェックし、デメーテル方面の魔獣発生情報なども合わせて確認しておく。


 次に受付に向かうと、見た目ドワーフ族であろう女性が対応してくれた。受付のため『金色』のギルドカードを見せると一瞬目を見開いたがすぐに通常行っている業務通りに、カードに印字されている名前、番号を確認してくれる。


 そう、異世界ものにおなじみのギルドカードというのがあるのだ。

 ただしカード自体に特殊な機能がついているわけではなく、魔道具という感じはしないのが残念ではある。イメージとしては免許証プラス、銀行のキャッシュカードの役割に近い。冒険ギルドでの講習と試験でカードは発行される。


 これは冒険者としての身分を保証するもので、ある程度の知識と体力があれば取得は難しくない。

 また魔獣の買取などのために入金や引き出し、振込も可能で便利だ。冒険者の情報はギルドで厳重に管理されているので、外に漏れることは無い。

 むしろその情報共有や個人情報の取り扱いに大掛かりな魔道具が使われているのだそうだ。

 冒険者ランクというのがあるわけではないが、カードの現金引き出し可能額や融資を受けれる金額が、カードの種類によって異なる。


 一般人が持てるカードのランクとしては白、銀、金の順である。

 ちなみに最初にもらう白が上限額100万ゴル、銀が1千万ゴル、金が1億ゴルである。あとは王族、貴族は黒のカードを持つことが出来て、上限額が10億だそうだ。

 カードのランクアップは預金の残高と、魔獣の納品率、現金の収入率などで審査しているらしく、商人などはカードの種類は一種のステータスとなっているので、ランクアップを目標としている人も多いらしい。


 2年くらい前から爺ちゃんとは口座を別にやっていて、前の街でゴールドカードにランクアップした。

 魔獣討伐、買取などはそこまでの金額がいくことは無いが、商業特許で入る定期的な収入があることと、レアな薬草や魔法薬を納品することが評価対象になったらしい。


 受付のドワーフ女性が確認が終わったらしく聞いてくる。


「はい、確認しました。メルクリウス様ですね。本日はどのようなご用件でしょうか」


「すいません、これからデメーテル方面に向かう予定なので、そちらの情報がほしいんですが」


「はい。街道の情報と魔獣生息域でよろしいでしょうか」


「あ、あと特産品とか生産物がわかればそれも欲しいです」


「了解しました。えー、特産品などの情報に関しては商業ギルドにも確認が必要となるため、夕方くらいには揃えれるかと思います」


「わかりました、まだ何日か滞在するので大丈夫です」


「料金としては情報量や紙代として1560ゴルとなります」


 銀貨で支払いを済ませ、受け取りのための番号札をもらう。

 用事は済んだのでさっさとギルドから出て行くが、受付嬢が緊張から開放され、ため息を吐いていることにメルは気づくことはなかった。

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