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06 3人の団欒

 06 3人の団欒


 爺ちゃんの衝撃の決断から今後のことに関して話しているうちに、すっかり陽も暮れて、あたりも薄暗くなっていた。


「とりあえず、ご飯にしましょ。疲れているでしょうし」


 とエリーさんも言ってくれるので夕飯をいただくこととなった。


 エリーさんの店は2階建ての石造りで、1階がお店と商談用の部屋、竈などがある。

 いままではその1階の商談用の部屋で話し合いをしていたのだ。正面の通りから奥に同じつくりの工房と倉庫があり、その間が短い廊下で繋がっている。

 店の前はガラス窓を大きく配置され、中を見れるようになっているが、防犯上の理由のため格子上の鉄柵が取り付けられている。

 いまはお店を閉めたので、そこに木のパネルのようなものを嵌め込んでいる。


 店の扉や窓枠、内装の木は飴色をしている。

 ドアノブやプレート、フックなどのちょっとした金具も黒光りするように錆びていて、この空間に調和しているようだ。

 どちらかというと「こぢんまり」とした雰囲気だが、アンティーク調で庶民の街中にあって馴染んでいた。

 全体的にどこかノスタルジックで可愛らしく、エリーさんの人柄を写しているようだった。


 階段を上り2階の居住スペースに移動する。

 リビングには6人くらい座れるテーブルとイスがある。テーブルにはクロスが敷かれており、その真ん中にはろうそく代わりの明かりの魔道具が置いてある。

 リビングにはほかにも棚や2人掛けのソファ、脚が低めのテーブル、壁にはドライフラワーなどがレイアウトされていて、なんともシンプルで落ち着く雰囲気だ。

 家具の造りもしっかりしており、メンテナンスもしているようで、おそらくはエリーさんの両親がまだ元気だった頃から、大事に使っているようだ。

 奥はエリーさんの部屋、来客用の部屋となっているそうだ。



 エリーさんが手際よく用意してくれたメニューは、エリーさんの作ったブラウンシチュー、全粒粉のパン、サラダ。シチューからは湯気が出て美味しそうだ。


「エリーさん、ありがとうございます」


「いいのよ~、簡単なもので悪いけどね」


 さっそく木製のスプーンで、シチューをいただく。

 具はいくつかの根菜とたまねぎと、角兎ホーンラビットという魔獣のお肉かな。食べられる魔獣、食材としてはこの世界ではメジャーなものだ。

 癖が無いけれど鶏肉より筋肉質で、旨みが強い。スプーンに乗った一口大のそのお肉を、息で冷ましてから口に含むと、よく煮込まれていてうまみ成分と一緒に口の中でほろほろと繊維がほぐれていく。

 にんじんやじゃがいものような種類の野菜も柔らかくなっており、シチュー自体の味付けと相まって、より甘く感じる。


 テーブル越しに爺ちゃんとエリーさんが座っている。

 二人とも目尻が下がって、幸せそうだ。

 同じようなメニューは、ほかの街の食堂でも食べたことはあるけれど、どことなくほっとするような、優しい味がする。これから家族になる3人で一緒に食べているからかもしれないな。


 パンは握りこぶしより大きいくらいの全粒粉のもの。ある程度大きな街には、区画に1軒ずつ必ずパン屋があって、皆そこからパンを買っている。もちろん田舎でパン屋がなかったり、趣味で自分で焼いている人もいるけど。

 外側の皮が厚めで少し固いけど、よく噛むと小麦の香ばしさがあってこれはこれで食べ応えがあっておいしい。

 竈で軽くあぶってくれているようで焼きたてのような歯ごたえと香ばしさが食欲をそそる。シチューにつけて一緒に食べるとより味が膨らむ気がする。


 サラダはシンプルで、レタスのような葉野菜と刻んだトマトだ。塩と酢、油を混ぜた味付けで、さっぱりと口直しできる。



 和やかに談笑しながら食事を終えると、爺ちゃんがマジックバッグから壷を取り出して持って来た。レンガ色で注口が3センチくらいにすぼまっている形状だ。


「デラム市で買うた土産じゃ。メル、おまいも一緒に呑もう」


 アルコール度数を低くした薄いぶどう酒やエールを水代わりに飲むこともあるので、この世界では未成年者の飲酒に関しては寛容だ。

 容器の上部は魔獣の薄い皮が藁で縛られていて、蓋の役目をしている。

 ぐるぐると藁をほどくと、部屋にふわっと麦の香りが広がる。この世界に蒸留技術はある。味としては癖の強い麦焼酎って感じかな。ぐい飲みのような形の木のコップをエリーさんが出してくる。


 せっかくなので、おれもおつまみを用意する。

 旅の途中で採取したクルミや松の実のような木の実や大豆を、空炒りして塩を軽くふって味をつけているもの。

 途中の農村で買ったヤギの乳で作られたシェーブルチーズ。地球で言うと白カビタイプで、思ったより癖が無く気に入って結構な量を買ったんだ。

 最初はちょっとしょっぱい印象だったけど、こまめに熟成をさせているので柔らかくてクリーミーでマイルドになった。


 あと何があったっけな・・・

 あ、あれも出すか。爺ちゃんも好きだったし。


「お!さけとばか!」


「だいぶ食べて少なくなってきたけど、せっかくだしね」


 そう、川が近くにある街にいったときにちょうど鮭の季節だったということでこれまた大量にゲットしたのだ。

 赤色というよりピンクに近いが、現地では赤マスと呼ばれていた。その地域では長期保存を目的として、塩水で洗った後に乾燥させたシンプルなドライタイプの干し魚が作られていた。

 もちろんそれも購入したが、塩が強く鮭の身も硬く感じた。なので塩分薄めにした塩水に更にハーブやスパイスを加えたソミュール液に漬けたあと、塩抜き、乾燥、燻製の一手間をかけたセミハードタイプの特製「スモークさけとば」を作ったのだ。

 そのまま食べて美味しく、お酒に合うということで爺ちゃんもお気に入りの一品だ。

 こちらの世界では「鮭」という名称はないのだがおれが「鮭とば~」といいながら食っていたら爺ちゃんが「酒飛ばし」=「酒が飛ぶようにあう食べ物」の意味だと勘違いしてそのまま「さけとば」と呼んでいる。


「へ~、たしかにおいしそう~」


 お皿にだしつつ説明するとエリーさんも、お酒とおつまみに目をキラキラさせている。爺ちゃんが3つのコップに、とくりとくりとお酒を注いで渡してくれる。

 用意が出来たところで、それぞれに杯を掲げて乾杯をする。

 こちらの世界での乾杯の礼儀がちゃんとある。目の前にカップを掲げるのは親愛の乾杯で一般的に行うものだ。どちらかと言うと食事前の礼儀という感じ。カップをぶつけるような乾杯は、飲み比べをするときにやるもので、それをやると注がれた酒はすべて飲み干さなくてはいけないというもので、書いて字のごとく「乾杯」となる。


 一口含むと、蒸留されたアルコール独特の喉が焼けるような感覚。舌の上で転がすと、麦独特の癖のある味がする。それをこくりと飲み込むと、その印象は薄まり、舌の上には芳醇な穀物の香りが残り、鼻から抜けていく。

 爺ちゃんの晩酌に付き合ってここ2年くらいでいろんなお酒の味を覚えてしまった。ただしまだちょっと濃いので、こっそり魔法で水を生み出して加水しておく。うんちょうどよくなった、とチビリチビリと呑む。


 これまでの旅をしてきた街のこと、道中の笑い話、エクアダの街の歴史など話のネタは尽きない。時々爺ちゃんとエリーさんで微笑みあっているのを見ると、なんだか照れくさくなって、おれもごまかすように笑ってしまう。

 さすがドワーフ族で、目の前で2人してカッパカッパとハイペースで飲んでいるので、ロマンチックという風情はない。それがまたなんとなく面白くて笑ってしまうのだった。

1日1話ペースで投稿します。

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