05 爺ちゃん結婚するってよ
05 爺ちゃん結婚するってよ
「へ? ケコン? どゆこと? は?」
おれは混乱して開いた口から「は?」「へ?」という言葉しかでない。
まずはゆっくり話をしようと言うことで工房の奥に案内される。素焼きの陶器でできているようなマグカップに、お茶が出される。
この世界では、お茶と言えば紅茶が一般的だ。このあたりの地域では肉体労働者が多いためか、お茶っ葉を濃く煮出して、砂糖を多く入れているようだ。
ゆっくりと飲み込むと、その香りと甘さで混乱した気持ちが徐々に落ち着いてくる。
「まず、紹介するぞ」
ということで改めてお互いに挨拶をする。
ドワーフ族の女性はエリーさんというそうで、この鍛冶屋「鋼鉄の蛙」の一人娘。
ドワーフ族らしく背が低めで、ロリ体型だけど筋肉質。髪の毛の量が多く、あたまのてっぺんで団子状にまとめている。やさしげな顔立ちで、雰囲気としては若女将って感じだ。
エリーさんの両親が爺ちゃんの昔からの知り合いだったようだけど、6年前に二人とも流行り病で他界。彼女は炎・鍛冶の神であるウゥルカーヌスの祝福を持っているそうで、子供のころから両親に鍛えられており、周りの手助けもあって細々と両親が残した店を続けていたのだそうだ。
知り合いの子供っていうことで、爺ちゃんもおれを育てる前から気にかけて定期的に様子を見に来ていたそうだ。
それが何で結婚なんて話に?
疑問が顔にでていたのか、爺ちゃんが説明してくれる。
エリーさんの両親のこともあって、爺ちゃんは最初は保護者のような気持ちでいたそうだ。けど今回久しぶりに会って、一緒に道具の整備とか作業をしながら話しているうちに、その一緒にいる心地よさとか安心とか、そういう気持ちがあることに気づいたらしく、結婚を申し込んだんだそうだ。
エリーさんも最初は見守ってくれる気のいいおじさんみたいな感じだったそうだ。結婚も、お店のことでいっぱいいっぱいで考える余裕がなかったそうだけど、一緒に店をやってくれるという話をされて、それも良いかなーと思ったそうだ。
20歳の差があるけど、もともと長寿種族はそんなに年齢差を気にしないみたいだ。
話を聞いていて惚気以外の何者でもなく、砂糖を吐きそうになった。身内の恋模様なんて聞いていて恥ずかし過ぎて、悶絶しそう。
顔の筋肉が引きつりながら、羞恥心に堪える。
ん? 一緒に店をやる?
「爺ちゃん!渡りをやめるの?!」
「ああ。わしもずいぶん自由に生きてきたからの」
渡りという仕事は前世のイメージだと流れの職人に近い。爺ちゃんは鍛冶仕事だけでなく、錬金術や生薬精製も出来るので食いっぱぐれが無いというか、拠点を持たなくても生きていける器用さがある。
旅の道中で薬草採取や魔獣駆除をしていたら素材は集まるので、街中ではそれを露天を出して直接売っても、ギルドや市場で買取してもらっても結構なお金になる。
モンスターを倒したりしてお金が稼げるってRPGの世界だよな。
「実はの、わしも孤児で、育ての親も渡りでなあ」
爺ちゃんの育ての親もずいぶんチートだったらしく、おれみたいに渡りとして生きていく技術や魔法なんかを教えてくれたそうだ。
「ちょうど、メルも来年で成人となるし、もう渡りとして教えることは全部教えた」
「爺ちゃん・・・」
「うむ、今まで考えもしなかったが、最近はメルのおかげで、鍛冶や錬金術もいろいろと出来ることが増えてきたからの。腰をすえてないと出来ないこともあるからいい機会じゃと思っての」
「・・・そっか」
「での、メル。おまいに頼みがある。」
「ん? なに?」
「おまいの人生じゃ。これからどう生きていくかっていうのは自由じゃ。わしも色々と教えたので渡りとしてはもちろん、鍛冶師でもなんでもおまいならやっていけるじゃろう。ここで一緒に店をやってもいいからの」
「うん」
「ちょうどあと1年で成人じゃ。その1年だけ、今後どうやって生きていくかを考えつつ、腕試しも含めて、渡りを続けてくれんかの。1年たったらここに戻って来い。そん時におまいの成人祝いと結婚式をついでにやろうと思うんじゃ」
「ああ、なるほど」
この世界では成人式や結婚式っていっても、王族貴族でない限りは、身内で集まってお祝いするっていうのが一般的だからね。
「わしも渡りとしてお世話になったやつら、知り合いもいる。わしも直接挨拶に行きたいが、店の準備やらここの生活を整えることあるからの。ついでといっては何じゃが、わしが結婚するっちゅうことやらおまいのことやら手紙に書くからの、そいつを何人かに届けてほしいんじゃ。変なやつもいるが、気のいいやつらばかりなんで、心配することはない」
おれは爺ちゃんの目を見ながら頷く。
「まあ、手紙を書いたり、準備やらですぐ出発ってわけじゃない。あとはわしがメルのアイデアや魔法に影響されたみたいに、そいつらの刺激になりゃいいかとは思っているがのう」
「そんなたいしたことしてないと思うけど」
おおっと、爺ちゃんそのあきれた視線とため息はなんだ。メリーさんはきょとん顔ですな。
「エリー、こいつはメルが作ったもんだがな」
と爺ちゃんはマジックバッグから「鍋」を取り出す。以前ほかの街の鍛冶屋を借りて作ったものだ。
「ん?これは・・・」というエリーさんの目は真剣そのものに。
いやそんな急に本職のひとに品評されると緊張するっていうか、なんですか、普通の鍋だと思いますよ。
この世界では調理用の鍋は大きさとかデザイン、材質は違うけど種類としては土鍋、片手鍋、両手鍋、フライパンがある。おれが作ったのは両手鍋だけど・・・
「焦げ付きにくいように材料は均質で丁寧なつくりね・・・ 形はシンプルで使い勝手よさそう。蓋が独特ね、普通は木製の蓋なんだけど・・・」
エリーさん、目が怖いっす。
「そうじゃ、メルはだっちおーぶんと言っておったが、蓋をフライパンのようにも使えることも出来る。蓋と本体がぴったりとくっついているので、短い時間で火が入り、ふっくらとした調理が出来るんじゃ」
「これをメルくんが?」
「うむ」
??
何ですかエリーさん、目が怖いっす。ちょ、近い近い。
「すごい!これすごいわ!ああ悔しい!!何で思いつかなかったんだろう!!」
両手で肩をつかんで揺さぶらないでくれませんか。ちから強い強い!
「こりゃ、エリー、落ち着かんか。」
「だってこれすごい便利よ!煮る焼く蒸すが出来るのはもちろんだけど、おそらく熱も通りやすい素材でしょ!煮物も短い時間でできるんじゃない?!」
ああ、野外キャンプと言えば【ダッチオーブン】だろと思って、旅でも使えるように多機能さを求めて作ってみたんだよね。
「あ、あと上の蓋に炭火を置けるからパンを焼いたりもできるよ」
「---!? そっか、蓋の形状がこうなっているのはそのためなのね!」
おおう、大興奮ですな。
ん?どっかにありそうな形状だと思ったけど無いの?そういや、街中の道具屋とかでも見たことなかったかも。
「野外はもちろん一般家庭でも使えるじゃろ。こういう考えかたで作られた鍋というのは今まで無くての」
「はあ、そうなの?」
「はあ、そうなの、じゃないわバカタレ。エリーや、こいつはの、これに限らず魔道具や魔法のアイデアってのがたくさんあっての。突拍子もないが、なんとも面白い。」
「ほええ」
エリーさん目が飛び出そうですよ。クチも開いたままですよ。
「いくつか商業特許もとっているし、その売り上げも旅の資金としてちゃんと残している」
「え、別に爺ちゃんにあげてもいいのに」
「ばかもん、そんな子供にたかるような真似は出来んわ」
「えー、親孝行というか爺ちゃん孝行だと思ってたのに」
「気持ちはうれしいがの。今までいくつかとった特許もメルの名義になっているからの。今度商業ギルドに確認してみい」
「はーい」
「話を戻すがの。知り合いっていうのに魔道具専門の鍛冶師もいれば、魔術師もおる。いろいろ教えてもらえれば、おまいの勉強にもなるじゃろ」
おお!確かに!
さっそく明日から旅の準備かな!
本日より1話ずつ投稿します。ぜひブックマーク、評価お願いします。