04 チートな爺ちゃん
04 チートな爺ちゃん
爺ちゃんは187歳。
ドワーフ族の寿命は400年くらいだそうだ。口調は年寄りっぽいけど、人間でいうと30~40歳くらいなのかな?
ドワーフ族っていうのは10歳くらいで成人して、ひげが生えて大人扱いになるけど、肉体的に衰えるのが遅くても300歳くらいかららしい。
つまり実際には「爺ちゃん」という年齢でもないのだけど、ドワーフ種族特性で見た目がヒゲもじゃだから、おれはずっと「爺ちゃん」とよんでいた。
本人もそう呼ばれることに対してはまんざらで無いようで、だからおれの中ではずっと「爺ちゃん」だった。
風来坊のような生き方で、ドワーフ族としてはかなり変わっていると自分でも言っていた。
爺ちゃんの過去に関して話してくれることは少なかった。なのでそんな暮らしをしている理由は、おれからははっきりと聞いたことは無かった。
単独で『渡り』として生きていけるほど、戦闘能力は高いし、鍛冶も凄腕だ。たとえば、街の有名な武具店で以前爺ちゃんが作ったっていう小型の銀製のナイフが、ほかの同じような素材のナイフの10倍の値段で売られていたことがあった。
びっくりして爺ちゃんに聞いたら、教えてくれた。
ドワーフ族のなかで、鍛冶の腕に対して格付け《マスタークラス》があるのだそうだ。これは練成できる素材で変わるのだが、爺ちゃんはその中で一番上位であるS級だそうで、これは世界に10人くらいしかいないらしい。
S級の鍛冶職人だけが、作品に銘を入れる事ができるらしく、銘が入った作品はある種のブランドで、高値で取引されるんだとさ。
特に爺ちゃんは『渡り』のため、ほかのS級のドワーフの作品より手に入りにくいためプレミアがついているらしい。
ただ爺ちゃんは武具だけでなく、庶民向けの日用品の鍋とか包丁を、わざと銘を入れないで、高品質で安く作っていたりもした。
「誇りやこだわりは重要だが、地位や名前のためにもの作ってるわけではないからのう」
と言ってハンマーを振るっていた爺ちゃんの横顔はすげーかっこよかった。
あとは、おれが突拍子も無い魔道具のアイデアとか、新しい魔法の使い方をだしても、どんどん実践して、取り入れていた。
考え方が、柔軟と言うか合理的で、新しい事にチャレンジするっていうこと自体が好きみたいだ。
この世界で14年生きてきて、爺ちゃんの多彩な能力や多岐に渡る知識はもちろんだけど、その筋が通っているけど、何より自由であろうとする生き様に一番影響を受けたと思う。
前世では漫画を読んだりするのが趣味な、どちらかと言うとインドアで人見知りで保守的な性格だったんだけどなあ。
しばらくは爺ちゃんと一緒にいろんなところに旅をしながら生きていくんだろうなと漠然と思っていた。けど、そんな爺ちゃんとの旅暮らしは唐突に思っても見ない形で終わりを迎えた。
―――大陸の中央部にある鉱山産業都市『エクアダ』―――
近くの鉱山からの採掘とその金属の精製、加工までを担う工業の街。
おれは初めてだけど、爺ちゃんは何度か立ち寄ったことがあるそうだ。
街につくとおれと爺ちゃんはいつものように一旦別れる。
おれは採取した薬草や、討伐した魔物素材をギルドや市場で売り払う役目だ。
そのあとは市場で珍しい食材を買い込んだり、屋台で飯を済ませたりするのがいつもの流れだ。
爺ちゃんは素材の売却と一緒に、工房の一角を借りて持ち歩いている日用品や武器のメンテナンスもするっていう役目。通信魔法っていう便利なものがあるので知らない街で分かれても問題ない。
通信魔法っていうのは、個人のもつ魔力の波長がわかれば、街の中くらいの距離であれば、連絡を取り合えるという音声メールのような魔法だ。
工房ってのは鉱物や魔物素材を加工した武器や、鍋なんかの日常道具を作るところで、小さな村にも1軒は必ずある。
ここエクアダにはそんな工房が数十軒と立ち並んでいる。昼はカンカンガンガンとハンマーの音と、夜は酒飲みの喧騒が途切れないっていう賑やかさで、『騒音通り』なんて言われているらしい。
串焼きを食べながら歩いていると「おーいメル、ちょっと来てくれんかー」と爺ちゃんに通信魔法で呼び出された。
説明にあった騒音通りの奥にある蛙マークの看板の工房を見つけた。
「すいませーん、爺ちゃん、いるー」
店の中に入ると爺ちゃんはドワーフ族の女性とニコニコと一緒に立っていた。
珍しく上機嫌な爺ちゃんは、同じくらいの背丈のドワーフ族の女性の肩を組んで言った。
「わしこの子と結婚することにしたから」
はああああ?!
本日5話投稿します。これは5話目です。