02 祝福の儀と名前
02 祝福の儀と名前
トラックに轢かれて異世界転生なんて平凡な自分の人生のエピローグとしては唐突過ぎやしないふだろうか。
事実はネット小説よりも奇なりっていうところかな。
この世界で前世の記憶があるということに気がついたのは、10歳のときだ。『祝福の儀』で、唐突に前世の記憶がよみがえったのだ。
この世界は多神教であり、12の神様がいる。そしてこの世界のものはすべて神から祝福を受けていると言われている。
『祝福の儀』とは新年の行事の一つで洗礼とも言われる。教会に10歳になる子供が集められ、洗礼を受け、どの神から祝福を受けているのかを啓示される。それが終わると子供一人一人に名前がつけられる。
それまでは名前は簡易的なもので女の子はリル(小さな子)、男の子はショー(坊や)なんて呼ばれている。
祝福と名づけによって、その神様の加護を正式に受けることによって、『ギフト』を授かりやすくなるのだそうだ。
神様からの贈り物と呼ばれる『ギフト』とは、いわゆる魔法のことだ。
この世界では、ファンタジーな素材や魔法技術、神様の加護が多く存在し活用してされているので、経済や流通なんかは地球の中世ヨーロッパよりも発展しているイメージだ。
たとえば都市の城壁や主要な街道にも神様の加護があり保持と安全が保証されているという。魔法もさまざまな種類があり、一般人でも『洗浄』『着火』という魔法が使えるし、RPGのような攻撃魔法も存在する。
儀式では、子供一人ずつに神父が聖水を撒き、神聖魔法をかける。そうするとキラキラとその子の周りが光輝くのだが、その光の色の違いでその子の祝福の種類がわかる。
たとえばウゥルカーヌスという炎と鍛冶の神の祝福を受けていれば、赤黒く光り、鍛冶屋になる適正があるといわれている。狩猟・森林の神であるディアーナの祝福を受けていれば狩人への適正があるといわれており、黄緑色に光るのだそうだ。
ただし、祝福はあくまでもひとつの指針のようなものであり、炎と鍛冶の神の祝福を持つ農民もいれば、狩猟・森林の神の祝福を持つ騎士もいる。
親代わりに育ててくれている爺ちゃんは渡りの狩人だったが、軍神マールの祝福を持っており、狩人と言うには繊細さとは程遠い豪快な性格だった。
厳かな雰囲気のなかで儀式が進み、自分の順番となる。
希望と憧れを抱きながら、聖水が振りまかれると、淡い水色の光が瞼の裏に見えた気がした。
旅人、商人などの守護神であるヘルマの祝福であったことを思い出したが、その光は徐々に強くなり、気がついたときは教会の椅子に寝かせられている状態であった。
前世の記憶、今世の記憶が混濁して少し混乱したが、むしろ今の記憶が混ざり合った状態が自分の中で自然な状態のようにも思えてきて、現状を把握することが出来た。神父さんがいうには祝福が強いと、おれみたいに倒れてしまう子供はいるようで「珍しいことではない」ということで、ほっとした。
自分は古い言葉でヘルマを意味する「メルクリウス」という名前をもらった。神様が由来の名前をもらうのはごく一般的なのだそうだ。
本日5話投稿します。これは3話目です。1時間ごとに更新します。