26 過去の転生者
26 過去の転生者
夜は日記を書く。思いついたアイデアをまとめて、Todoリストも作っておく。
日記を書くのは最近になってから始めた習慣だ。前世でも小学生の夏休みに書いたことがあったくらいだ。そんな飽きっぽい自分が書くことになったきっかけは、ある町の古道具屋に、魔道具師の日記が古本として販売してあり購入したことだ。
日記は解読不明な文字で書いてあり、そのため二束三文で売られていたが、おそらく自分と同じような前世の地球で過ごした記憶がある人間のものだった。
工学系の大学を出た後に、ホームセンターで働いていた男性だったらしい。
前世の記憶から作り出した便利な魔道具を作って販売しているうちに『魔道具の父』『天才』『異端の魔道具師』『マスター』と呼ばれこの世界でかなりの資産家となり、しかもそのお金で職人学校を作り魔道具職人の教育に尽力したという偉人だ。
日記の内容は、おれと同じように『祝福の儀』で前世の記憶が蘇ったことから始まり、道具屋の一人息子としてこの世界では存在しなかった水洗トイレ、魔道ランプ、魔道ポンプなどの日用品の開発をした経緯や苦労が綴られていた。その売り上げや人脈を使い、現在のギルドの業務の要である『ギルドカード』とその管理のための『情報管理システム』の魔道具を発明したそうだ。今後の夢として魔道具専門の学校を作ると語っており、日記はそこで終わっている。
後で爺ちゃんに聞くと有名人だそうで、200年くらい前に亡くなったそうだが、いまもその学校は存在し、世界一の魔道具専門学校として有名だそうだ。
実際の文字は日本語とローマ字、英語を交えて書かれていて、おれも読み解くのに苦労した。
作者は魔法の体系や料理などに自分以外にも異世界からの生まれ変わりがいた可能性が高いことを示唆しており、今後同じような境遇の人間に少しでも役立つかもしれないということで日記を残したそうだ。
幼馴染と名家のお嬢様、元気な猫型の獣人族の奥さんが複数人いるという、一夫多妻のハーレム野郎だったそうで、時々ノロケを書いてあるのに殺意を覚えた。
半分くらいは、成功者としての自慢も入っている気がするけど、学校を作ったりするエネルギーや姿勢そのものには感銘を受けたので、自分も忘れないうちに記録しておこうと思ったのだ。
ただしおれは長い文章を書くのが苦手で、日記といっても今日の出来事の整理と言うより、思い出したアイデアを書き出しているメモ帳のようなものだ。ただし、あとで読み返すと役に立ったりすることも多いので重宝している。
それとは別にスケッチブックも持っていて、時間があるときに風景や町並みをスケッチしている。こういうのを後世に残して置くのも大切だとは思っているが半分は趣味みたいなものだ。本当は写真を撮影できる魔道具が欲しいが、写真の原理は分かってもそれを再現する薬品が検討もつかなくて頓挫している。
実際に知識としてはなんとなく分かっていても、それを一から再現することは難しいし、それだけに時間を割くこともできない。これは食材、調味料ではよくある。
ウスターソースなんて原材料が何か、どうやって作るのかなんてあまり気にしたことがなかったし。醤油に関してはたまり醤油が手に入ったけど、量が無いので自分の食べる分だけ確保している状態だ。
似たようなものでいうと、シャンプーやリンス、化粧品もそうだ。もちろん時間をかければ、この世界でしかない魔素を含んだ材料で効果も期待できるけど。誰かに研究を任せるのも手かな。
ちなみに転生者の日記では、同じように転生した日本人がいたであろう理由のひとつとしてマヨネーズとリバーシの存在が挙げられていた。
リバーシは、加工も難しくないため、今も老若男女楽しめる娯楽として人気が高く、今も広く普及している。
マヨネーズに関しては新鮮な材料が必要ということで普及が難しかったようだ。
マヨネーズの材料は油とお酢と生卵だが、この世界では養鶏は普及していないので新鮮な生卵を手に入れることが難しい。
ただし、一部の魔の森で鳥系の魔獣が多く生息しているらしく、その近隣の都市ではマヨネーズが作られていて名物になっているらしい。一度は行ってみたい。
ちなみに俺は魔法鞄に溜め込んでいるので、自分が食べる分の卵は確保している。一番美味しいのはコカトリスの卵で、次点でジャイアントドードーだろう。
コカトリスの卵はラグビーボールくらいの大きさがあり、普通の鶏の卵5個分はある。オレンジ色の黄身で
非常に美味だ。ジャイアントドードーというのは翼が退化した巨大な鳥のことで、ダチョウよりも大きくずんぐりとした体型だが俊敏な魔獣だ。肉も旨味が強くて高級な味がする。魔法鞄にはそういうコッソリ食べる高級な食材ばかり溜まっている気がする…
魔法鞄の中を整理することも日記にメモしておこう。
なんか容量無限だとなんとなく何かに使えそうとか思ってしまい溜め込んでしまう癖がある気がする。もちろん、ギルドや市場に卸してはいるけど、出せないものは溜まっていく一方だ。
定住地を持たない「渡り」は、普通は物やお金に対して執着がなく、飄々としているそうだが、おれは楽に保存する方法があるのでそれに頼ってしまっている気もする。
悪いことではないとは思うが、健全ではないかもな。なにか考えよう。
反省も含め、明日からの予定を組み立てつつ、ゆっくりと眠りについた。




