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22 自家製粉工房

22 自家製粉工房


「おお~、上手くいったな」


 焼きあがった豆乳クッキーとパウンドケーキ、カップケーキをお皿に乗せる。

 キャドラングル夫妻と娘さんと試食をすると、皆満面の笑みで幸せそうだ。

 娘さんはハムスターのように口いっぱいになって奥さんのソフィアさんに「はしたないわよ」と怒られている。ソフィアさん、両手にクッキーとカップケーキを持っているあなたが言っても説得力がないと思うんですけど…


 豆乳クッキーは砂糖少なめでこの世界では珍しいらしいが、薄めでカリカリとした食感だ。甘いものが苦手な人も食べれるだろう。なんとなく食べたことのある味だなと記憶をたどっていると、きな粉餅だった。確かに材料は大豆なのでなんとなく納得。

 ケーキは形が違うだけで、味はほとんど同じだが、小麦粉だけのケーキと比べるともっちりとしている。同じく甘さ控え目だが、ジャムなんかを添えると美味しいかも。


 キャドラングルさんは目を瞑って、うんうんと頷きながら食べている。及第点かな。だったらいいな。


 多めに作っておいたので、いくつかはお土産にもらって、残りは差し上げますよと説明すると、物凄い勢いで振り向かれ、満面の笑みで喜ばれた。


「でも、これ小麦粉自体が凄く美味しいですね」


「そうだろう! いやーそこをわかってくれるのはうれしいね」


「この辺りの地域で採れる小麦なんですか?」


「そうだよ、でもそれだけではないよ」


 と言ってキャドラングルさんが立ち上がり、是非見て欲しいということで案内される。

 ちなみに娘さんはまた始まった、と言わんばかりの表情で、ソフィアさんはしかたないわねえというちょっと呆れた表情で、付き合う気はないらしい。2人は焼き菓子が湿気ってしまわないように油紙に包んで、蓋つきの容器の中に保存しておくそうで、いそいそと準備をしている。


 案内されたのは店の裏から出て、少し歩いたところにあった倉庫のような石造りの建物だった。キャドラングルさんの自家製粉工房で、出入り口は大きい両開きの2枚の扉を左右に分けてスライドさせるタイプになっている。

 建物は密閉されないよう大きな造りになっていて、建物中央に直径1メートルくらいある石臼が鎮座している。石臼の土台は腰くらいある高さの、足が丸太で出来ている大きなテーブルのようなものに置かれている。石臼の上部では回転させるための魔道具と軸、歯車が組み合わさっている。その近くには階段と作業用の足場があり、おそらくあそこから製粉していない小麦を石臼の中に入れるのだろう。分厚い石の円盤がゆっくりと回転し、外側の石の隙間からザラザラと薄く茶色い粉が出てきている。石臼の周りに小麦粉が溜まっていくが、勾配があるので下にセッティングした空袋を特定の箇所にセットすると、そのまま製粉を終えた粉が空の麻袋に流れ込むようになっているようだ。


 何人かの作業員がてきぱきと働いていて、頭と口元にタオルを巻いている。袋を入れ替えたり、出来上がった小麦粉の袋にタグをつけて別の場所に運んでいる。


「わあ、すごい迫力ですね」


「そうだろうそうだろう、製粉用の工房を見るのは初めてかい?」


「はい」


「ここで製粉をしているので、好みの小麦粉に製粉してもらうことも可能なんだ」


 なるほど。

 すでに製粉された小麦粉を仕入れるよりも、自分で調整できる製粉のための工房をもつことで他のパン屋と比べて差別化出来るというのは大きな利点だ。勿論、その分だけ苦労もあるだろうが、キャドラングルさん曰く、品質の高いパン専門店としての小麦粉としてブランド化して販売しているそうで、その収入でこの工房も収益を得ているらしい。


 実際に製粉済みの小麦粉を見せてもらうと、他の都市で購入したものよりも品質が高く、香りも強い気がする。クッキー用などきちんと使い分けもしているようだ。

 しかし、栄養もある全粒粉も美味しくないわけではないが、他の小麦粉を使った料理も作りたいので、白い小麦粉を是非手に入れたい。錬金術で分離することもできるが、量が多いと時間がかかり過ぎる。おそらく白い小麦粉が高価というのは、魔法で分離するしか方法が無いからだろう。

 ぐるりぐるりと回転する石臼を観察していると、石臼の中ですり潰される力が中心部と外側で均一でないことに気づく。均一に小麦を粉砕することが出来れば、一番柔らかい胚乳が1番粉がとなり白い小麦粉になるはずだ。


 となると、ローラーでの粉砕作業が必須になるだろうけど、かなり大掛かりになってしまう。うーん…

 悶々と悩んでいると、キャドラングルさんが心配してくる。


「どうしたんだい? 変な顔をしているよ」


「えーっとですね、製粉するときに白い小麦粉と、そうでない小麦粉に分離できないかと思いまして」


「ん?どういうことだ?」


「全粒粉を大量に製粉するにはこの方法でいいと思うんです。」


「ふむ」


「錬金術で分離することは出来ますが、錬金術師を多く雇わなくてはいけないので費用がかかりすぎると思うんです。なので、この製粉の段階で分離することができればいいかなと思いました」


「なるほどな、でもどうやって?」


「ローラーを使えば出来ると思うんです」


()()()()?」


 紙に簡単な図を描いて説明する。横に寝かせた円柱のローラーを縦に並べて設置すれば、上から落とした小麦がローラーの間を通るたびに圧力がかかり粉砕されるようにする。最後に粉ふるいのようなものがあれば、ごみや外皮を取り除き、白い小麦粉が出来るだろう。


 大まかな図を見せると、難しい顔をしながらあごに手を当てて思案してる。


「確かに大掛かりではあるが、この装置があれば実現は出来そうだが・・・」


「でしょう?」


「外皮のみ残されてしまうと、それのみ小麦粉にすると質は落ちてしまうのではないかい?」


「あ、()()()のことですね。栄養はあるので、逆に調理を工夫して安い値段でお金が無い人に売ると言う選択肢もありますよ。家畜のえさとしても優秀ですし」


「なるほど! 購買層や用途を広げればいいのか」


 ここ最近小麦は豊作続きらしく、保存期間が長いと言うこともあって市場での価格も落ちてしまっているとのことだ。用途別に、白い小麦粉の高級品と栄養満点の茶色の小麦粉として売り出せばニーズはあると思う。

 白小麦粉だけでなく、小麦自体の違いで薄力粉や中力粉といったものも作れるだろう。そうなるとうどんや中華麺、中華料理用の生地も作れる。個人的に製粉させてもらえるなら、そのあたりの融通も利くだろうから、工房の設備に個人資金から出資してもいいかな。

次回投稿は7月26日です。


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