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21 手紙をパン屋に届ける

 21 手紙をパン屋に届ける


 午後からは爺ちゃんから頼まれた手紙を渡すため、中央通りから3区画ほど歩いたパン屋に向かう。場所は商業ギルドで確認済みだ。

 庶民街になると、建物は2階建ての木造が多くなる。窓枠に洗濯物が干してあり、平和に風景に庶民派の自分としてはほっとする。


 目当てのパン屋は庶民街のなかでも大きな通り沿いにあった。店先に丸いパンを模した木製の立て看板があり、分かりやすい。看板には「青空の羊」という店名がレリーフ状に彫られていて、文字部分が水色に着色されていた。


 お店に入ると部屋の半分位の位置でカウンターとなっていて、その後ろにある棚にはたくさんのパンが並んでいる。奥のほうが調理スペースとなっているようだ。左右のスペースにはクッキーなど焼き菓子がガラスケースの中に並んでいる。ちょうどお店の繁忙時間を過ぎたくらいなので、タイミングよくほかのお客はいないようだ。クッキーの種類はプレーンタイプだけでなくバターが入って黄色いもの、ナッツ入りと種類があり、そのほかにもスコーンや砂糖をまぶしたラスクもあり、見ているだけで楽しい。

 カウンターの白いエプロンをつけた女の従業員らしき人に声をかける。


「いらっしゃいませ。ご注文は?」


「あ、注文はあとでしたいと思っていますが、キャドラングルさんにお届けものを頼まれて来ました」


「キャドラングルって父の名前ですね。ちょっとお待ちください」


 後ろの棚に向かって「おとうさーん、おきゃくさーん」と呼ぶ。って、このひとキャドラングルさんの娘さんか。店の奥から返事が聞こえ、しばらくしてからバタバタと出てきたのは、またもエルフの男の人だった。エルフ族のパン屋って珍しいなと思いつつ挨拶をする。


「はじめまして、メルクリウスといいます。祖父のグラディウスより手紙を預かっています」


「これはご丁寧に。キャドラングルです。グラディウスは元気かな?」


「はい、元気です。あ、これ爺ちゃんからです」


 爺ちゃんから預かった封筒を手渡す。

 ペーパーナイフで開けて手紙に目を通すとにやにやとした後に、笑い出す。笑い方も美男子というか王子様みたいで絵になるなあと思う。


「ああ、すいません。時間はありますか、良ければお茶でもいれましょう」


「はい大丈夫です」


 そのままカウンターの横から店の奥に通される。調理場は大きな竈やオーブン、作業用の石の板でできたテーブル、冷蔵庫のような魔道具などが設置されている。調理場のさらに奥に、休憩用と思われるテーブルとイスが置いてあり、そこに座るよう案内される。


「あのグラディウスが結婚とはね。めでたいことだ」


「はい、自分も急に言われたのでびっくりしました」


「ははは、そうだろうね。ぼくもびっくりさせてもらったよ。それに、メルクリウスくんは養い子だそうだね、君のことも書いてあるよ」


「あ、そうなんですか。なんて書いてあるんですか?」


「えーっとね… ――人族の子供を拾って育てた。渡りとして、職人として、人間としてできる限りのことを教えたら、規格外になってしまった。勝手に自由にやっていくだろうから、色々教えてやってくれ――だってさ!あはは!」


 手紙をピラピラと見せながら笑っている。爺ちゃん、もうちょっと良い説明の仕方はなかったのかと思いがっくり来る。苦笑して肩を諌めていると娘さんが香茶とクッキーを出してくれる。お礼を言うとそのまま店番に戻っていく。


 キャドラングルさんはエルフ族で、ハーフエルフの奥さんと結婚して、奥さんの故郷のこの街で、奥さんの実家のパン屋を営んでいるそうだ。奥さんは今は配達中で、あとで少しで帰って来るとのこと。

 爺ちゃんとは奥さんと出会う前に一緒に旅をしていた仲だそうだ。


「で、メルくん。君は料理も得意なんだって?」


「そうですね、得意と言うか、趣味ですね」


「ははは。趣味か。手紙には――あとは、メルの料理が美味い。そして新しい。何か作ってもらえ――って書いてあるけど」


 苦笑していると、奥さんが帰ってきた。ハーフエルフということだったが、ほぼ人族に近い見た目だが、美人で若々しい。大学生っぽいというか。


 ちなみに、保守的な単民族国家もあるが、この国では異なる種族の混血、ハーフへの差別は少ない。ハーフエルフはエルフと人族の種族特性を半分ずつ引き継ぐらしい。

 エルフ族は魔力が高く、長命で、繊細な木工作業が得意、精霊魔法を使用できるといった特徴がある。それに比べると、人族の種族特性と呼ばれる特徴や得意分野は少ないが、逆に言うと苦手も無い。つまり、『ギフト』を習得する能力に長けており、成長や努力をする才能を持っていると言われている。

 その中間となると、器用でそこそこ長命でギフトの習得もしやすいというスペックになるわけだ。


「ただいま。お客さんかしら?」


「おかえり。友人の孫であるメルクリウスくんだ」


「はじめまして、妻のソフィアです」


「お邪魔しています」


 うーん、美男美女の組み合わせで、芸能人カップルみたいだなーと内心思うが、パン屋の格好でエプロンもしているのでギャップというか違和感が半端ない。


「そうだ、メルクリウスくん。今ちょうどクッキーなんかの焼き菓子の試作をしていたんだ。よかったら手伝ってみないかい?」


「楽しそうですね。いいですよ。」


 調理場に移動すると、これから下ごしらえを始める予定だったらしく、小麦粉や卵、砂糖などが用意されている。


 小麦粉は全粒粉だ。というか、この世界では全粒粉しか見たことがない。確か全粒粉というのは小麦の表皮、胚芽、胚乳をすべて粉にしたもので、栄養価も高い。白い小麦粉がないかをキャドラングルさんに聞いてみると、王族のパーティーで出されるくらいの高級品だ、と言われる。


 まあいいか。キャドラングルさんはクッキーを作る予定だということで何を作ろうなーと考えていると、大豆があったことを思い出した。

 水につけておいたので、十分水を吸っている。そのまま大鍋の中で風魔法を使ってすり潰し生呉の状態にする。それを別の鍋で沸かしておいたお湯の中にいれ、吹きこぼれないように注意しながら煮込んでいく。

 とはいっても魔法で時間短縮できるので、あっという間だ。煮あがった呉を火傷をしないように注意しながらこし布にで分離させる。搾り出した汁が豆乳で、布の中に残った物がおからとなる。

 出来上がった豆乳を冷やして、興味深そうに見ていたキャドラングルさんと味見をする。


「ほう!これは面白いね!大豆の香りはするが、動物の乳と比べると癖がないね」


「そうですね、健康にもいいですし、いろいろと応用もできると思います」


 本当は豆腐を作りたいが今日は時間がないので余った豆乳はそのまま保存しておく。おからは布の上に広げて冷ましておく。冷えたおからに砂糖、小麦粉、卵を混ぜて、生地が滑らかになるよう豆乳も混ぜていく。生地は麺棒を使い、平たく伸ばして、包丁で四角くカットする。あとはオーブンに入れて焼くだけだ。

 配合や手順は違うが、同じような材料にベーキングパウダーを加えて、カップケーキやパウンドケーキの生地も作って焼き上げていく。


 てきぱきと作業をしていると、奥さんのソフィアさんが目と口を開けているがなんだろう?


「ふはは、ソフィア、気にしたらだめだよ。規格外なんてグラディウスが言うくらいなんだから」


 爺ちゃんも過去に色々やらかしていそう発言だな。あとで聞いておこう。

次回投稿は7月24日です。

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