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18 商業ギルドで

 18 商業ギルドで


 試食会は盛況で、レシピが広まれば製品も売れるということでクベラさんたち


 はものすごく張り切っていて上機嫌だった。まあ、ここで製品が売れれば結果


 的に仕入先の一つである爺ちゃんの店も儲かるので良しとしよう。



 翌日は早速レシピの登録のため、商業ギルドに向かうことにする。

 ルフは念のためこのあたりの魔素異常がないか確認してくるということであっという間に城壁を越えて飛んでいったのでほっとこう。

 ギルドはクベラさんのお店があるメインの大通りのちょうど真ん中あたりに建っている。3階建てで非常に大きく、今までおれが見た商業ギルドの中で一番だ。1階は半分位が市役所の受付のような感じで、朝一番で来たのにすでに何人も人が並んでいる。


 商業ギルドといってもいくつかの部署に分かれており、その用件によって受付の窓口も異なる。今回は用事があるのは「開発・特許部」だ。ここでは魔道具や製品、アイデアのの開発や企画、斡旋を行い、また特許を誓約魔法で管理している。ほかにも「製造・販売部」「経理部」「物流・情報管理部」「人事・派遣部」などがある。もっと小さな都市では部署が少ない場合もあるらしいが。


 目的の「開発・特許部」はほかの受付と比べ混み合っていなかったのですぐに順番が回って来た。受付は若い男性で、赤っぽい茶色で短髪、水色の目をしている。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」


「あ、はい。特許申請をお願いします」


「特許申請は初めてでしょうか」


「いえ何件か出しています」


「畏まりました。まずはそちら確認いたしますのでギルドカードを確認させていただきます」


 ギルドカードを出すと、職員の男性はカウンターに置いてある箱状の魔道具の上にカードをかざすように薦めてくる。カードを魔道具の上に乗せると、職員は近くに設置している水晶を見ながら別紙に文字をメモしている。おそらくそれで個人情報を確認しているのだろう。


「それでは確認してまいりますので、少々おまちください」


 受付の奥にはパーテーションがあり、男性職員は奥のほうに足早に向かっていった。やることもないので、カウンターの木目を撫ぜたり、ほかの窓口に並んでいる商人の服装をこっそりと、ぼけーっと観察していると、さっきの男性職がまた足早に戻ってきたが、なぜか少しさっきより慌てている様子だ。


「グラディウス様が祖父、メルクリウス様でよろしいでしょうか」


「はい、そうです」


「畏まりました。それでは2階のつきあたりにあります会合室でお話伺いますのでどうぞ」


 そのまま2階の会合室に招かれる。受付の男性はそのまま「それでは担当者は現在至急準備させていただいておりますので、少々お待ち下さい」と丁寧に一礼して会合室から出て行くと、入れ替わりで女性の職員がお茶を運んできてくれる。いやー、さすがこれだけの商人ギルドだと対応も丁寧で、無駄がないなーと感心する。お茶も高級な味がする、ような気がする。

 扉向こうからバタバタとした足音のあとにノックの音。


「メルクリウス様、大変お待たせいたしました」


 入ってきたのはちょっと小太りで丸いメガネをかけた男性だった。先ほどの受付担当の人と比べると服装が少し華美な印象だ。


「わたくし、開発・特許部で本部長をしております、レバノンと申します」


「はじめまして、メルクリウスといいます。ちなみに、こちらでは本部長がわざわざ特許申請を行っているのですか?」


 上職が急に来たので、すこしびっくりしたが聞いてみる。


「いえいえ、メルクリウス様に失礼があってはいけませんので」


「はあ、そうですか」



 実は商業ギルドにとってメルクリウスは最優先となる上客の一人である。商業ギルド内部で非公開で共有されている最上位顧客リストがあり、貴族、王族含めて50人ほど登録されているが、この最上位顧客リストが更新されたのは36年ぶりで、しかもその中では最年少での登録となっており、その話題性でいま商業ギルド職員では最も有名な人物となっている。しかし残念ながらメルクリウス本人はそのことは知らない。


 商業ギルドの会員登録したのはメルクリウスが11歳のときである。メルクリウスが趣味で作った魔道具や製品だけでなく、日常のなかでの雑談をメルクリウスの祖父が保護者として本人の名義で特許登録するためだ。その後、本人も特許登録をこまめに行っているが、その特許数は小さい内容も含めると3桁を超え、そのためギルドに入る手数料も莫大な収入となっていた。

 安価な紙の製造法や書類形式の規格化、インデックス化、付箋の開発は商業ギルドの運営に革命をもたらし、いまでは国営業務でも採用されている。またスライムを素材とした速乾インクや人工塗料の開発、接着剤、ビニールもどきの開発によってさらにそれが加速し、より安価で効率的な業務が行えるようになり、一部の職員からは神聖化されてもいる。


 本人が現在気付かないのは2つ理由がある。

 膨大な特許使用の許可があるため、途中で面倒くさくなりわざわざその詳細を確認をしていないことと、ギルドからのお金を引き落しに関しては日常的に行なっているが、前世の銀行と違い、残高照会のシステムはあるが引き落し時にはそちらは告知されないことになっているからだ。


 本人の気付かないうちに中規模な国家の1年間の国家運営費よりも残高があり、いまも増えていく一方なのだった。


「本日は特許申請ということでいくつかまとめてきましたので確認いただければ」


 ダッチオーブンの特許はすでに取得済みなので、それに関するレシピと、実演販売のアイデアを書面でまとめていたのでそれらを提出する。書式は同じような申請の経験があるので間違いは無いと思う。

 レバノンさんはふむふむと読み進め、確認してもらう。レシピに関しては専売を防ぐために特許料自体は低額にし、自由に閲覧可能で、レシピを基本として応用して使用可能としてもらう。実演販売に関しても同様に行なうが、パフォーマンスをドラマチックに魅せることで購入者の購入意欲を刺激するという考え方自体がレバノンさんには刺激的だったらしい。


「例えば、服飾店でのマネキンなどの使ったディスプレイも同様ですね」


「マネキン?それは何でしょうか」


 と言われたのでハンガーやマネキン、ウィンドウディスプレイなどを効果的に使った販売店での展示方法を紙に図解で描きながら軽く話したところ、それも特許申請して欲しいと言われる。おうふ、仕事増やしてしまった…


 マネキンは構造としてはシンプルなので、設計図を用意する。あとは商会のほうで形にしてくれるということでそのまま提出する。

 この世界ではハンガーはあるが、まっすぐな木の棒の真ん中に、ずれ落ちないよう紐を巻きつけているシンプルな構造のものしかないので、これも申請しておく。

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