17 試食とレシピの活用法
17 試食とレシピの活用法
「美味しい!」
「うお!うまい!」
「何だこれ、初めての味だけどなんかほっとするな」
牛肉の赤ワイン煮込みはワインや野菜の酸味と甘みが凝縮されている。しっとりとしながらも牛肉独特のコクがスープと交わりなんとも贅沢な味わいだ。
ポトフの角猪は高級な豚肉っぽい味で、脂身は甘みとコクがあるが、さらりとしてくどさがない。ほろりと軟らかく煮えた根菜と交互に食べるとシンプルな塩味なのでどこまでも食べ続けられそうな気がする。
ホワイトシチューは乳製品のコクとやわらかい口当たりがうれしい。牛乳を使ったスープもレシピとしてはあるが、小麦粉とバターを炒めてトロミをつけているのは珍しいらしく好評だ。
ローストチキンは表面の皮がパリパリしているが、噛みつくと肉汁があふれだす。腹のなかに詰め込んだニンニクの風味がどこまでも食欲を刺激されてくる。
クルミとレーズンのパンは焼きたてのパンってだけで最高だ。手で割るとパリパリとした表面の皮が破れ、中は薄い茶褐色でもっちりとしている。噛み応えはあるが、それもどこか楽しく、噛めば噛むほど小麦の甘みが出てきて、顎が疲れる位だ。甘酸っぱいレーズンとクルミの歯ざわりがアクセントとなっている。
冒険者の人達は見た目どおり肉食系なのか赤ワイン煮込みとローストチキンがお気に入りのようだ。ロットくんはホワイトシチューを歳相応の笑顔で美味しそうに食べている。クベラさんはポトフを食べているが、真剣な目つきでスープを口に含むたびに目をつぶり、もごもごと味を分析しているようだ。奥さんのサリーさんはどこかきりっとした表情から一口食べるたびに笑み崩れて、また真剣な表情に戻るのを繰り返していてちょっと面白い。
ルフには全種類をちょっとずつ盛り付け、おすそ分けしているが、ひとつずくゆっくり堪能しているようだ。時々念話で『おお!』『うむ!』とか飛んでくるので気に入ったようだ。
「途中で香草の束ねたものを入れていたようですがあれは何でしょうか」
エヴァンさんが煮込み料理のスープを飲み比べながら聞いてくる。
「ブーケガルニですね。肉の臭みを消したり、スープの味を引き締める効果があります」
「これはセロリの葉とパセリ、タイム、ローリエですか?」
「セージも入っていますね、肉用なので」
「肉用?」
魔法鞄からブーケガルニを何種類か出し説明する。
「今回使ったのは先ほどの香草を乾燥させ、束ねたものです。そのまま煮込みの途中で入れればいいだけなので、こうやってまとめています。ホワイトシチューには逆にタイム、セージを抜いたものを入れています。シンプルな、野菜中心のスープにするときはこちらを使います」
また違う種類のブーケガルニを出して説明を続ける。
「ちなみにこれは魚用で、こっちはエスニックといって辛味を効かせたスープ用でバジル、オレガノが入っています」
そのまま渡すと、皆興味深そうに匂いを確かめている。
「なるほど、料理によって適した組み合わせのものがあるということですか」
「そうですね、あ、乾燥させているので長持ちはしますが、消臭効果もあるので玄関先などに置いてもいいですよ」
ん?説明している途中からエヴァンさんとその後ろにいるクベラさん夫妻の目がものすごいギラギラしているんだけど。
「メルくん、これ特許登録しているかい?」
「いえ、していません。ハーブを束ねただけの簡単なものですし、珍しいものだというのも今皆さんのリアクションで初めて知りました」
「なんて勿体無い!」
サリーさんがこの世の終わりのような嘆きにちょっとびくっとしてしまう。
「ええと、分かりました。特許登録の申請はしますが、独占を禁止するための登録として、特許料も安くして自由に使用できるよう申請します。」
「それは好条件だけどいいのかい」
「はい、レシピも同じように登録します。そうですね、このレシピとダッチオーブン、ブーケガルニも合わせて販売するのはどうでしょうか」
「レシピを販売?どういうことでしょう?」
エヴァンさんが少し首をかしげながら聞いてくる。
「あ、レシピの販売というか、このダッチオーブンなんですが使用方法が少々特殊なので説明が必要になると思うんです。ダッチオーブンを購入していただいたお客様にそういったことも含めた使用説明書とレシピをサービスで無料で配るんです。ブーケガルニは別途販売するんです。レシピに必要とあればついでに購入してくれるお客さまも多いと思うんです」
エヴァンさんとクベラさん夫妻は説明に納得したようでうんうんと頷いている。
「あ、あとは実演販売とかいいかもしれませんね、ははは」
「「「実演販売ってなんだい!?」」」
3人の圧力がちょっと怖いけど、実演販売の方法を説明する。実際に作って食べてもらえばきっと購入してもらえると思うんだよね。スーパーの試食やデパートでの実演販売をイメージして色々アイデアを出していくと、3人も納得したようで、具体的にメリットやデメリット、実現可能かを検討し始めた。
後ろのほうでは話についていけない冒険者のひとたちは料理をワインと一緒に楽しんでいる。ルフもロットくんからおかわりを貰って食べている。あ、ワインも貰っているようだ。まあ楽しんでくれているようなのでいいか。
説明に少し疲れたが、最後にデザートを作る。パン生地を薄く延ばしてピザ生地にする。底にフォークで穴を空けて膨らまないようにしておく。カスタードクリームを塗り一度このまま火をいれる。その後でベリーや木苺などの果物をトッピングしてまた軽く焼き上げる。仕上げに蜂蜜、炒って砕いたナッツ、ミントの葉を振りかけて完成だ。
甘い味付けのパンというのは珍しかったようでどうかと思ったが、サリーさんとロットくんは満面の笑みだ。古今東西、女性と子供が甘いもの好きなのは変わらないんだなーと思う。意外にもエヴァンさんも甘党だったようで感激している。
甘さ控えめにしたカスタードクリームとベリー系の甘酸っぱさを、土台のピザ生地が支えている。ナッツが良いアクセントとなって見た目よりサッパリしているかな。今度はりんごとレーズンで作ってみよう。シナモンがあればいいんだけどな。チーズと蜂蜜の組み合わせも試してみたいかも。
いろいろと作りたいもの、探しておくものを後でメモしておこう。