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15 商業都市デメーテル

 15 商業都市デメーテル


 ―――商業産業都市『デメーテル』―――


 衝撃から一夜明け、その日の昼前にはデメーテルに到着した。


 いま自分がいるこの大陸はクレータ大陸と言われ、大まかにいうと横長のひし形で右側が欠けているような形だ。複数の国家で形成されていて、大国家では南に「カリダーム」、北に「フリグス」、東に「サイカティオ」、西に「モイスト」とあり、そのほかいくつかの小国家で形成されている。


 大陸の中心に竜が住むと言われている大山脈があり、龍の背を意味するクイナドラコ山脈と呼ばれている。その周辺地域は大規模な森林地帯となっており、単民族国家としてハイエルフや竜人族などが隣接して住んでいる。

 クイナドラコ山脈を水源として流れる大河のひとつ、東に流れている川の扇状地がサイカティオ国家における穀物の一大産地となっている。

 その中で収穫された農作物の流通の拠点として発展したのがデメーテルという都市だ。物流で栄えた商業都市といったところだ。


 通常大きな都市には主要道路に沿って出入り口の門がある。門の前には小屋があり、門番が常駐している。そこで貴族と商業用、個人に振り分けられ入国審査としてギルドカードなどの身分証明書を提出して入国する。

 今回おれらは途中で商業用の馬車に乗り込んだので、クベラさんと一緒に入国する事ができ、個人用の入国審査よりスムーズだった。


 町並みは石造りだけど、気品がある雰囲気だ。お店や人の数も多いけれど、皆小奇麗で、活気にあふれているのがわかる。

 ルフは従魔獣としてわかるように首元に黄色い布を巻いてもらう。本人は魔素を抑えて、聖獣として振舞うことはしないと言っていたので大丈夫だろう。ちなみに、呼び方は紆余曲折あったけれど、呼び捨てにすることにした。


 そのままクベラさんの経営する「満開の蓮華」という建物に到着する。街の大通り沿いの一等地にある2階建ての白い石造りで、1階が店舗になっている。店の正面はガラス張りだが、大きな1枚ガラスはまだこの世界では生産がされていないので、木を格子状に組み、少し水色がかっているガラスが嵌め込まれている。雑貨や洋服、魔道具を販売しているとのことだが、見本として何点かディスプレイされていて、前世でいうと高級なセレクトショップのようだ。

 並んでいる商品を見ていると、2階の応接室に案内された。


 応接室も質の高い家具がシンプルに配置しており、上品で高級感がある。使用人から紅茶を出され、一口のむとオレンジのような香りと甘い風味が鼻に抜けていく。カップも乳白色のシンプルなものだが、白い陶器は高級品として扱われていることを考えると、このカップひとつでいくらの値段がするのは想像したくないな。

 こんな高級なお店の店主であるクベラさんがエクアダまで直接買い付けにいくのに違和感があったので聞いて見ることにした。


「実は、エクアダにいる担当者から面白い製品があるといわれましてね」


 聞くと、周辺都市に情報収集のためにネットワークを組んでいるようでその一人から来た情報が琴線に触れたらしく、直接それを見て判断するために多忙な中で出立したらしい。そのあたりの情報の鮮度を重視していることやフットワークの軽さは商人として一流であることが伺える。


「これです!」


 といって出した鍋を見て吹き出した。


「ダッチオーブンですか」


「知っているのかい?」


「はい。ちなみにこれはどこで?」


「ふむ、申し訳ないが仕入先を広めるのは商人の矜持に反するので話すことはできないのだ」


「ああそうですよね。こちらこそ申し訳ありません」


 鍋を見せてもらうと、その造りの丁寧さや、癖に見覚えがあった。


「もしかしたら鋼鉄の蛙で仕入れしましたか?」


 クベラさんは眼を見開き驚いている。おれは自分の準備や作業で気付かなかったが滞在中に爺ちゃんとマリーさんが量産にかかっていたらしく、すぐに店頭に並べられていたようだ。おれがそこでお世話になっていたこと、製品の開発者であることを話すと、ものすごい眼がキラキラしてくる。

 そこからはこの鍋がどれだけすごいものなのか熱弁される。とくに蓋がしっかり閉まることで圧力鍋のように時間短縮になることや、蓋をそのままフライパンのように使用できるお得感など鍋ひとつに多角的な付加価値が付随していることに感銘を受けたらしい。アイデアは前世の記憶のまるパクリなので過去の人がすごいのであって自分はすごくないと思っている。


 話の流れでこの鍋でどんな料理が作れるかの話題になり、是非作ってみて欲しいといわれた。もちろん材料費やレシピの代金は支払うとのことだ。

 デメーテルでどんな食材があるかも確認したいので、市場に行った後で夕飯を作ることを了承する。宿をとろうとすると、店舗とは別にすぐ近くにクベラさんの住居があり、客室もあるのでそこに泊まれば良いと言われ、それに甘えることにする。


 エヴァンさんが道案内も兼ねてついてきてくれるということで、一緒に店を出ると、店の前で冒険ギルドに到着の報告をしてきたアロスさんと鉢合わせした。

 料理を作ることになって買出しに行くことを説明すると、興味をもったようで夕飯を一緒にすることになる。まあエヴァンさんも大丈夫と言っていたので問題はないだろう。



 店先でアロスさんと別れ、大通り沿いに少し歩くと食料品を多く扱っている店舗が多くなってくる。近くには市場もあり、大通りにあるような店舗とは違い、屋根だけの作りだ。色とりどりの野菜や果物、肉などが木箱に入って大量に並んでいるのは壮観だ。エヴァンさんから案内されながら市場を歩く。虫などの衛生が気になるところだが、この世界では虫除けの魔道具というのがあるので問題ない。市場を管理している商業組合で設置管理をおこなっているとのこと。


「うわあ、にぎわってますね!」


「ええ、デメーテルで一番大きな規模の市場です。サイカティオで生産される農作物はもちろん、隣国の生産物も販売していますよ」


「あ、たしかに見たことのない調味料や乾物がありますね」


 エヴァンさんは若手の係長って感じで一見優しそうな雰囲気だが、この商業の街であるデメーテルはいわば飢狼の巣だ。そのなかでクベラさんと共に勝ち抜いているエリートなので知識量が広い。食材の種類や生産地、保存期間などなんでも知っているし、購入するときは鮮度や大きさなど目利きのコツも教えてもらう。



 大麦や小麦の種類も多く、そのほかにもアワ、キビなどの雑穀も種類が多い。また近くには牧草地帯もあるので羊や牛、鳥の肉はもちろん生乳や乳製品としてのヨーグルト、チーズも豊富だ。また大豆、小豆などもあるし、菜種やゴマなどから絞った植物油もあり、ここぞとばかりに買い漁ってしまった。もちろん個人的に購入したものには自分で代金を支払った。

 途中で西洋梨のような果実が美味しかったのでルフにお裾分けする。気にいったようなのでそれも箱で購入しておく。


 残念ながらお米や醤油は無かったが、(ひしお)と呼ばれる味噌っぽい調味料を見つけた。塩蔵の大豆から作られているようで、たまりから醤油もどきは作れるだろう。味噌は米か麦の麹と海水塩があれば作れそうだ。醤油は一から作るには材料が分かっても作り方が複雑で時間がかかりすぎる。


 少し割高だが海水塩があったので聞いてみると化粧水としてにがりも販売しており、これで豆腐が作れると一人喜んでいたら、ルフに怪訝な眼をされた。ふふふ、出来たての油揚げや厚揚げの美味しさを知ったらこの気持ちはわかるだろう。


第2章開始です。

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