14 魔道具の暴走と聖約魔法
14 魔道具の暴走と聖約魔法
「冒険者の装備品が極端に少なかった気がします。魔石を運ぶ商人がそこをケチるというのは考えにくいです」
「ふむ、わたしも同意見だ。私が知っている限りではこのあたりの商人ではそんなヘマをするやつはいない。おそらくほかの都市から来た商人だろう」
「あくまでも推測ですが、残った魔骨と魔道具の形状から魔道具の種類は魔獣避けだった可能性があります」
「そうなのか?」
アロスさんがこちらを見ながら聞いてくる。
「もちろん詳しくはわかりませんでしたが、魔獣避けの魔道具が暴走してしまった場合というのは、近くの魔石と誘発しやすい性質があります」
「へえ!そうなのか? 初めて知ったぞ」
「はい。もちろんそうならないために通常は何重かの安全策を講じた仕組みを組み込むのですが、魔道具の残骸からはそれを感じることができませんでした。もちろん破損しているのではっきりとはわかりませんが…」
「へえ~」
「護衛を多く雇わなかったのもそれで辻褄が合います。結果として、それが引き金となって魔力が暴発し、魔獣を引き寄せたのだと思います」
「なるほど」
「しかし、それに巻き込まれたクベラさんたちは不運でしたね」
「いやいや、そんなことはありません」
クベラさんはニコリと笑いながら答えると、それにアロスさんが片眉を上げて聞き返す。
「どういうことだ? はっきり言ってかなりやばかったぞ」
「もちろんです。ただ、今私たちは一人も欠けることなく生きています。メルさんに出会い、助けられたことは幸運です」
おれはきょとんとした顔をしていると、アロスさんが笑い出す。
「はっはっは!クベラの旦那!その通りだ俺たちゃ幸運だな!」
なんとなく照れくさくなり、頭の後ろを掻いていると、隣に座っているアロスさんに肩をバンバン叩かれる。そのままごまかすように、デメーテルの話、商売の話をしながら馬車は街道を進んで行った。
クベラさんは中堅の商人といった感じだが、デメーテルで堅実に商売しているようで信頼も高そうだ。部下のエヴァンさんも、もともと丁稚からの叩きあげで、しっかり教育を受けているようで真面目な印象だが、クベラさんを実の父のように慕っているようで、それだけでクベラさんの人柄が伺える。
アロスさんたち冒険者チームは同じくデメーテル近辺の護衛や採取を主に活動しているそうで、冒険者という名前のようなアドベンチャーな要素は薄いが、その言動の印象としてはノリの良い、気の良いおじさんたちって感じだ。なんとなく前世で建築現場のバイトで一緒に仕事をした土方のおじさんたちを思い出す。
そのまま何事もなく、夕方には途中に宿場町に到着し、次の日には野営場で1泊となった。明日、3日目の昼前にはデメーテルに到着する予定となっている。付近はなだらかな平原になってきていて、見通しが良く魔獣の心配をすることは少ない地域らしい。
街道沿いに何軒か掘っ立て小屋が建っており、聞くとこの付近では羊の放牧をしているそうで、その休憩場所としての役割がある。またそこでチーズや農作物を販売することもあるらしい。いわゆる直売所だ。みちの駅みたいだな、と心の中で突っ込みをいれる。通常の販売ルートでは税金や、商人への中間手数料が引かれてしまうが、この直売ではそれがないため微々たる金額なので農家のちょっとした小遣い稼ぎとして、役人も目こぼししているらしい。おれも途中でチーズをいくつか購入した。農家ごとに味が違うらしく楽しみだ。食事はお礼も兼ねて一緒にご馳走になったし、宿場町での宿代もだしてもらい、一人部屋を用意してもらったので非常に快適な旅路だ。
ルフ様は従魔扱いで、道中特に問題は起こらなかった。というのも、猛禽類は神様の使いとして神話の中に登場するし、鼠などを捕獲してくれる実生活に役立っている益獣として認識されているのが大きな要素だと思う。
魔素溜まりの件は、ルフ様がなにも言ってこないので、問題は解決したのだと思う。けど念のためこっそり野営場のテントの中で経過を聞いてみることにした。
「うむ、魔素溜まりは解消されたので、今度十数年は問題ないだろう」
「そうですか、よかったー」
爺ちゃんとエリーさんがいるエクアダの近く起こったことだったので、問題がなくなって何よりだ。ほっとした。
「それはそうと、ルフ様これからどうするんですか?」
「どうとは?」
「おれはこれからデメーテルで何日か過ごして、そのあとニューソスに向かう予定ですが。」
「魔素溜まりだが、実は早急に対処が必要な場所は多くないのだ」
あ、そうなんだ。
「メルよ、お前はなかなか面白い」
「え、そうですか? なんですか急に」
「見たこともない魔道具を作り出し、魔法の威力も精度も非凡だ」
ほめているのだろうけど、真面目な眼でこちらをじっと見てくる。
「料理に関しては長く生きてきた私も食べた事がないものばかりだ」
「はあ、ありがとうございます」
「思慮深いように見えて、軽薄な部分もある。おぬしはどこかちぐはぐだ」
「ちぐはぐですか」
「そうだ。何よりその発想、というより思考が異端だ。お主は私に何者かと言ったな。」
「ああ、はい」
「お主こそ何者なのだ?」
サファイアのような青い眼がこちらを射抜く。話をごまかすことも出来るかもしれないが、なんとなくルフ様だったらいいかなという気がする。爺ちゃんには近すぎて言うことはできなかった。けどなんとなく爺ちゃんはおれが普通じゃないということには気付いている気がするけど。
「実は…」
前世の記憶が10歳のときに蘇ったことや、爺ちゃんと一緒に旅をしてきてスパルタで育てられたことを説明する。その間、ルフ様は何も言ってくることはなかったが、じっと自分の眼を見ていた。
「……というわけで、確かに自分がほかの人に比べておかしいというのは自覚しています」
「なるほどな。やはりそうか」
「やはりというのは?」
「前世の記憶を持つ人間と言うのは極稀にいるのだ。異世界からの生まれ変わりというのは珍しいと思うがな。」
あ、そうなんだ。
「まあ、前世の記憶があろうがなかろうが、おれはおれです。精一杯、自由に生きていくだけです。なにかあれば全力で逃げるだけです」
メル様はきょとんと眼を見開いたあと、クックックと楽しげに笑い始めた。
自分も話した言葉に少し照れくさい気がしてごまかすように笑う。
「気に入った! 精一杯自由であろうとすることか。ふふ、どんなにそれが難しいことか!」
その通りだろう。自由でいるためには力や知恵が必要であるが、なによりも難しいのはその心の持ちようだ。自由を得るために力や富、名声を得てもそれと引き換えに自由であることを失ってしまうこともあるだろう。
「よし、面白い。契約してやろう」
「………はい?」
契約ってなんだ?
「わたしとは従魔契約を結ぶことはできないが、聖約魔法というものがある。従魔契約が主従関係のための契約だとすれば、聖約魔法は親愛の誓いのようなものだ。制限されたり強制されるものではないので心配するな」
「えーっと、契約することによって何が起こるのでしょうか」
「まずは魔素感知が届く範囲では念話が使える。ちなみにわたしの魔素感知の範囲はここからニューソスを超え、海まで届く位だ。」
ええ!!
ということはこの大陸の4分の1くらいをカバーできる範囲だってことじゃん、すごすぎるでしょ。
「あとは、どちらかが死にかけているときなどに感知する事が出来る。」
「虫の知らせですか」
「虫? 良くわからんが、勘のようなものではないぞ。契約によって魔素の結びつきが作られ、片方の体内魔素の異常を感知して知らせる仕組みになっている」
なるほど。
聖約魔法や契約と聞くと仰々しいが、聞いた限りだと仲が良い同士で行う連絡先交換のようなものらしい。ちなみに、この聖約魔法は聖属性の魔法に習熟した聖獣や一部の聖職者しか使うことが出来ないのだ、と自慢していた。
特にデメリットのようなものも感じないし、聖獣が自分を騙すということもないだろう。
快諾すると、すぐ近くに座るように言われる。
次は少し屈んで、嘴とおでこをくっつける。何か詠唱とかあるのかなーとワクワクしていたら、自分の周囲に漂うフワフワとした魔素の流れの中にパイプが通ったような感覚。
<きこえるか>
<え、あ、はい、これが念話ですか>
パイプに意識を向けることで念話できるのか。便利だな~。
というかすんなり終わったな。赤外線通信で連絡先交換するのとあまり変わらんな。
<うむ問題ないな。契約を交わしたのだ。わたしのことは呼び捨てでかまわん>
<え、いいんでしょうか>
<その話し方もしなくていいぞ、堅苦しいのは苦手だ>
<じゃあせめてルフさんとかルフくんとか…>
<…待て、ちょっと待て>
<…?>
<…わたしは雌だぞ>
<………>
<………>
ええええええ!!なんかすいません!!
いちおう、これで第1章終わりとなります。
2章はデメーテル編となります。
7/15(日)から投稿します。
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(ちなみに、ルフを美少女にする予定はありません)