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13 暴走の跡地へ

 13 暴走の跡地へ


 魔法使いらしい人を見ると、馬車に身体を預けて少し息が荒い。そりゃあの数の魔物に追われながら魔法を撃ち続けていたらきついわな。MP切れというのはないけど、脳をたくさん使った後のような疲労感がきついんだよな。


「大丈夫ですか、よかったらどうぞ」


 鞄からイスを取り出し座らせる。コップに疲労回復の効果がハーブを水出ししておいたものをいれる。砂糖を多めに溶かしているので飲みやすいはずだ。


「ああ、ありがとう………」


 短髪で丸めがね、ちょっとおでこ大きめの感じ。学者というよりなんか疲れたサラリーマンみたいだななんてことを思いながらコップを渡す。一口飲むと、ちょっと驚いたように目を開き、緊張でのどが渇いていたのかごくごくと一気に飲み干していく。


「ぷはー! なんだいこれ美味しいね!」


 ポーションのような劇的な効果はあるわけではないけど、元気になるなら良いかと思っていると、周りから視線を感じる。おっちゃんたちが空になったコップを見てうらやましそうな目をしている。予備の飲み水などはあるだろうけど、妙に美味しそうに見えたのかな。


「ちょっと待ってくださいね」


 鞄からやかんを取り出し、濃い目になるよう多めにハーブをいれる。この人数だとおかわりするだろうしヤカン2つ分は必要かな。魔法で熱湯を生み出し中に注ぎこむ。蒸らしている間に、人数分のコップを出していく。


「お、おい」


「はい、ちょっとまってくださいね」


「いや、いいのか?」


「ん?大丈夫ですよ。魔獣の心配もいりませんよ、ほら」


 指を差した先ではルフ様が身体に風魔法をまとっているのか、低空飛行をしながらどんどん魔獣を上下真っ二つにしていっていた。おっちゃんたちは口をあんぐり開けている。


「な、なんだありゃ」


「おおおお」


「すげー」


「うわ、棍棒ごと切った」


 おっちゃんたちがびっくりしている間に、お茶の蒸らしが終わったので砂糖を投入。あとは一気に氷魔法で多めに氷を入れて冷やしておく。


「できました。どうぞー」


 やかんを持つと、なぜかおっちゃんたちがコップを持って自分の前に並んでくる。商人のおっちゃんもいつのまにか並んでいるけど。ひとりずつ冷えたハーブティーを入れてあげる。なぜ皆両手で持っているんだ?可愛いなこのおっちゃんたち。あ、魔法使いのおっちゃんもいつの間にか並んでいる。馬車の補修作業中の人の分も入れて、近くに置いといてあげる。


「ああ飲んでいいですよ。どうぞ。」


 全員に行き渡ったところで声をかけると、おそるおそる一口飲んでから皆一斉に飲んでいる。そんな一気飲みしなくとも…


「おかわりもあるんでどうぞご自由に」


 ヤカン1つ半分は残っているので大丈夫だろう。我先にとヤカンを奪い合っている人たちを横目にルフのほうをみると、ちょうど終わったみたいでこちらに向かってきた。


「おつかれさまです」


 …? 頷いているので特に問題はないって意味だろうけど返事がない。あ、そうかすっかり忘れていたけど喋る動物イコール聖獣だもんな。自分はともかく、このおっちゃんたちには自分が聖獣だってことを知られたくないんだろう。ヤカンをじっとみているので飲みたいのかな?


「えーと、朝飲んだハーブティーを冷やしたものですが飲みますか?」


 頷いているので深いお皿に入れて、近くに置いてあげるとちゃぱちゃぱと器用に飲んでいる。

 おっちゃんたちも落ち着いたようで話を聞いてみると、商隊の行き先もおれと同じデメーテルだそうだが、途中で急に魔獣の群れに襲われて、急遽引き返してきたとのこと。

 行き先が一緒と言うことでお礼も兼ねてぜひ一緒にデメーテルに向かって欲しいということになった。馬車は車輪と車軸の留め金部分が一部破損した程度で、すぐに修理できるようだ。


 オークの死体はものすごい数があるので、破損がひどいものは魔法で穴を掘り、その中に投げ入れてまとめておく。油を少しいれて魔法で一気に焼き払っておく。そのまま放置してしまうとそれを目当てにまた魔獣が寄ってくる可能性が高いからだ。

 状態が良い物は山分けとなったが、ほとんどがメルとルフのコンビが討伐したためかなりの数を分けてもらった。メルの魔法袋と違い商隊のもつ魔法袋はは時間経過があるので多くを持ち帰ることが難しいのも理由のひとつであろう。

 ちゃちゃっと魔法で作業をしているとその後ろで魔法使いのおっちゃんは呆然としていたらしい。


 片付けが終わると、前の馬車に乗り込むと改めて挨拶をする。

 商人のおっちゃんがクベラさんで、その部下がエヴァンさんというそうだ。さっき話した不精ヒゲの冒険者が護衛のリーダーでアロスさんというそうだ。後ろの馬車にはさっきの魔法使いのおっちゃんと仲間の冒険者が3人乗っているそうだ。

 クベラさんが魔法鞄持ちなので、馬車は最低限の積荷しか積み込んでいない。ルフ様は馬車の屋根の上に立ち、監視役になってくれている。


 クベラさんはデメーテルに拠点となる店舗を持っていて、そこを中心に行商をしているそうだ。今回はエクアダで仕入れが終わり、戻る途中で今回のスピンダードに巻き込まれてしまったそうだ。アロスさんの冒険者チームも同じようにエクアダを中心に活動していて、よく護衛を頼んでいる関係なのだそうだ。


 話をしているうちに、魔獣に襲われた地点の近くに到着する。念のため馬車のスピードを緩めて、周囲の警戒を高める。クベラさんに許可をもらってから馬車前方の従者席に繋がる出入り口から外に出て、そのまま従者席の脇で前方の確認をする。魔素探知では特に近くに魔獣の気配を感じないのでとりあえずは安全なのはわかるが、安心はしない。


 ルフ様が屋根から頭を下げ、何か言いたそうな動きをしている。

 馬車の主柱につかまりながら立ち上がり、風魔法で従者やほかの人に聞こえないようにしつつ、小声で会話をする。


「どうしました」


「近くに魔素が消費された残香を感じる」


「残香?」


「おそらくは魔素決壊の原因だろう。念のため確認したい」


「はい、わかりました」


「む、あのあたりだ」


 指し示す方向を見てみると、街道から少し離れたところにおそらく馬車だったであろうバラバラになった木の部品などが散乱しているのが見えた。

 ゆっくり馬車のスピードを落としてもらうよう説明する。馬車が街道の端に停車したことを確認すると、ひらりと馬車から飛び下り、アロスさんと一緒に確認に向かう。やはり馬車が大量の魔獣に攻撃され、踏み荒らされたような状態だった。死体は見当たらないが、血のりがついた装備品や千切れた洋服の布片もところどころにあり、だいぶ薄まったようだが死臭が漂っている。

 顔をしかめながら残っているものを確認していくと、おそらく荷物として積んでいたであろう木箱がバラバラになっており、その中に割れた白い石が大量に混じっているのが見つかった。おそらく使用済みの魔石だろう。近くに元はどんなものだったのかわからないが魔道具らしき残骸もあった。


「おそらくこれが原因かな。なんらかの魔道具が暴走して、近くにあった魔石が反応して魔素が溢れ出たんじゃないのかな」


 推測だがな、と言いながらアロスさんが魔石だった白い石を、指先で砕く。魔力を暴走させたために本来の赤黒い輝きを失った魔石は、軽石のように脆くなってしまい、その様子から『魔骨』と言われている。そんな魔石だった石が何十個と散らばっている。確かにこれだけの数の魔石に含まれている魔力が開放されれば、付近の魔獣に影響を与えるのは間違いないだろう。


 そのまま周囲を探ったがほかにめぼしいものはなく、危険はないようなのでそのまま放置しておくことにする。馬車に戻り、そのまま乗り込んで改めて出発する。アロスさんと見つけたものをクベラさんに報告しながら旅路を急ぐことにする。

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