12 魔獣討伐
12 魔獣討伐
瞼の裏に朝日を感じ、ゆっくりと意識が覚醒する。自分がテントの中にいることを思い出し、身体を起こし腕を上に伸ばしあくびをする。寝足りないというわけではないがなんとなくフワフワした気分だ。
寝袋から抜け出し、浄化魔法をかけてから魔法鞄にしまっておく。テントから出るとすでに目が覚めていたのか、ルフ様と目があう。
「おはようございます、昨晩は魔獣はどうでしたか」
「うむ、おはよう。結界と魔獣除けが効いているのか1匹も出なかった。問題ない」
「そうですか、ありがとうございます」
朝の挨拶と確認をしながら朝ごはんの用意をすることにする。
コンロを出し、角兎の燻製とスライスしたパンを軽くあぶり、レタスのような葉野菜と一緒に挟んでサンドイッチにする。あとは作り置きしておいた出汁と具材をいれたスープでいいかな。
作りながら横からじっと視線を感じるので、ちゃんと2人分用意する。
「はい、出来ました~」
「おお、うまそうだな!」
餌付けしている気分になるが、深くは考えないようにしておく。まあ、美味しそうに食べてくれるのはうれしいのでいいんだけどね。
最後に砂糖を多めにいれたハーブティーを飲んで出発の準備だ。魔道具は浄化魔法をかけてから魔石に魔力を流して畳んで、どんどん鞄にしまっていく。いやー魔法って便利だわ~。
野営地から出発し、街道に出てどんどん進んでいくことにする。
歩きながらではあるが、魔素溜まりに関して聞いておこう。
「ここから半日位歩いたところだ。」
「魔獣の規模はどのくらいですか」
「はっきりとはわからんが、オークが多かったな。集落になってはいないので、20体程度だろう」
魔獣でも集団行動をとるものはいる。特にオークは集落になるくらい多くなると高濃度の魔素環境で進化してハイオークになり、更にそれがオークキングとなってしまう。オークキングがいる集落となると200体以上いることを想定しないと言われている。またオークは前世の知識通りだったが、異なる種族の女性を苗床として繁殖するというくっころさんの天敵で、見つけ次第出来る限り殲滅する、あるいは冒険ギルドへの報告が暗黙のルールとなっている。
「ハイオークはいますか?」
「いや先週確認したときはいなかった」
「その程度なら通常冒険者で対応出来るくらいの規模だと思うのですが」
「そこはちょうど対応できる街と街の中間の位置でな。普段からある程度魔素が溜まりやすいというのはあるが、定期的に魔獣を討伐すれば問題ないが、まれに魔素決壊が起こるのだ」
「魔素決壊?」
「魔素というのはこの世界を循環しておる。地上の魔素は川の流れのようなものだと考えれば良い。湾曲している川には淀みが起こる。なにかの拍子に洪水のように水量が増えてしまうと、川の土手が崩壊し氾濫してしまう。」
「スタンピードですか」
「そうだ。ただ、魔素が氾濫するほどの異常事態になることは極稀なので安心す………」
「………?」
なんだ?じっと進行方向を見つめているけど。なんだかすごくいやーな予感がする。
「どうやら、異常事態が起こったようだ」
なんですとー!!
「少し急ぐぞ」
「はい!」
急いで身体強化魔法をかけ、街道を猛スピードで駆けだす。ルフ様は自分より少し前の上空で先行して飛んで行く。歩いて半日くらいの距離ということだったので、この調子なら30分程度で到着するだろう。あせる気持ちを抑えつつ、速度を維持することだけに集中する。というかルフ様はその位の距離で魔素の異常を感知できるのか、すごいな。
周りの樹が今までよりも徐々に太くなり植生も変わって来たような印象になったところで、道の先にこちらに向かっている馬車が2台見えてきた。それがちょうど自分の魔素感知の範囲500メートルに入ったところで、ルフ様が異常と言った意味がわかった。
馬車に向かって大量の魔物が向かってきていたのだ。おそらく後ろの馬車に護衛が乗っており、時々弓矢や魔法で攻撃しながら猛スピードで撤退してきていた。腕は良いようで攻撃の精度が高く、危なげなく魔獣を打ち落としていっているようだが、数と言う物量で徐々に押されている印象がある。
走りながら攻撃のイメージを作っていく。
火魔法は、森を焼いてしまうのでまずい。水魔法も影響が大きい。ということは、土魔法かな。
自分の頭の上に堅牢な黒い石がいくつも浮かび上がり、銃弾となり敵となる魔獣を撃ちとっていくイメージ。魔法を行使すると。ガトリング砲のように連続した発射音。いくつもの空気を切り裂く音が馬車を飛び越え、魔獣の頭を撃ちぬいていく。
馬車の従者もこちらに気付いたようだが、逃げることに必死の形相だ。魔獣はかなりの数を減らしたはずだが、感知した限りまだ100体程度はいるかな。これなら何とか安全確保しつつ撤退しながら殲滅出来そうかなと思っていると、前に走っていた馬車の挙動がおかしい。蛇行してしまうのを何とか制御しているような状態だ。相当無理をして走ってきたようでこのまま走り続けるとおそらく事故を起こす可能性が高い。風魔法を使い、大きな声で叫ぶ。
「安全を確保する!一度馬車を止めろ!」
念のため風魔法で馬車に向かって逆風を起こし徐々にスピードを下げさせる。鞄から急いで四方結界杭を取り出し街道のそばの地面に突き刺し、馬車が結界内に入ったことを確認したところで、急いで結界を作動させる。こちらに向かってくる魔獣が結界に衝突するが、オーク程度では結界を通りぬけることは出来ないのでまずは一安心かな。
メル様はおれが土魔法を撃つタイミングで、上空に舞い上がり飛んでいった。おそらく遊撃の役割で、ちらばった魔獣の各個撃破をしているのだろう。
馬車は徐々にスピードが落ち、ちょうど自分の5メートル前くらいで停止した。馬車からは護衛と思われる人間がひらりと飛び降りて、こちらを見ると少し目を見開いて驚いた顔をする。動きやすい革鎧など装備しており、茶色の短髪で無精ヒゲが生えているいかにもベテランの冒険者って感じの人だ。
「助かった! ありがとう、だがひとりか?」
「ひとりと1匹です」
首をかしげるヒゲ面のおっちゃんは可愛くないな。安心させるよう少し笑顔になりながら、結界の外に指をさす。そこでは空を自由自在に黒い塊が飛びながら、風魔法で魔獣を殲滅しているのが見えた。
「な、なんだあれは… 従魔か…?」
「いや、知り合いです。敵ではないので安心してください」
「そ、そうか。」
おっちゃん少し顔が引きつっているよ。
「それより怪我人は?」
「いや大丈夫だ。消耗してはいるが」
話している途中で馬車から商人らしき身なりの人、ほかにも何人かの護衛の冒険者が降りてくる。
おそらく魔法を使っていたのは杖のような装備をもっている人かな。一人だけ痩せ型でローブを着ていて不健康な学者っぽい見た目だ。あ、魔法の使い過ぎか少しよろよろしている。
「怪我がなくなによりです。結界はオーク程度では破られることはないので心配しないでください。あ、あとその魔道具は触らないでくださいね」
「おお助太刀感謝します!本当にありがとうございます!」
商人っぽい人は、少し太った感じの口ひげのおっちゃんだった。おじさん率高いな。考えてみれば自分も見た目は若いけど、前世の記憶がある分だけおじさんだし。ちょび髭のおっちゃんは涙目で両手でおれの左手を握りしめてくる。
「先頭馬車の動きがおかしいので、危ないと思い止めさせていただきました。大丈夫でしょうか」
「ああそうですね確認します、おい!」
声をかけると馬車の中から商人のチョビヒゲおっちゃんの部下らしい20歳くらいの若い男がでてくる。手馴れた様子で馬車を固定し、補修部品や工具を取り出したりしている。馬車にはこういうときのために車軸や車輪など補修用の部品があるはずなので大丈夫そうだな。