11 お風呂
11 お風呂
話をしているうちに時間も遅くなってきたのでそろそろ寝る準備をしなくてはいけない時間だ。《浄化》の魔法でもいいが、日本人なら風呂だろ!ということで早速新たに作った魔道具を取り出す。
「…なんだこれは」
「露天風呂です!」
猛禽類が驚くとこんな顔になるんだなーと思いつつ、魔石を起動させる。携帯風呂と名づけたが、湯船は火喰亀という魔獣の甲羅をひっくり返したものを加工し脚を取り付けたもので、保温機能がある。そのほかにもシャワー付き、追い炊き機能あり、防音、防臭、排水機能ありというハイスペック露天風呂だ。風呂がない宿屋でも使用できるかと思い作ってみたのだ。
魔法で湯船にお湯を生み出し、念のため手を入れて温度を確認する。
「風呂は知っているが、こんな場所で…? しかもこの甲羅は………」
なんかぶつぶつ言っているようだが。
「よければ入りますか?気持ち良いですよ~」
「む、そうか」
水浴びもすることがあるのでお風呂に入ることは問題ないとのこと。
「ああっ!ちょっと待ってください」
いきなり湯船に入ろうとしたのであわてて止める。お風呂にも作法があるので、と言って介助することに了承をもらう。
2畳くらいの広さがあるスノコのようになっている足場を広げる。浄化、排水の機能があるのでこれでお湯が地面にこぼれることはない。普段から洗濯などの水洗いなんかの作業でも使うことが出来るので地味に便利だ。シャワーからお湯を出すとゆっくりと足元からかけていく。一度全身の汚れをお湯で洗い流すイメージかな。
「おお、なかなか心地よいな、愉悦だ」
「かゆいところはありませんか~」
なんか非日常すぎて変なテンションで楽しくなってきた。石鹸もあるけど、動物の場合はあまり毛皮から脂成分を取りすぎると良くなかったはずなので今回はやめておこう。聖獣なので問題ないかもしれないけれど。
毛の流れに沿って指の腹で揉みこむように洗い流していく。羽も片方ずつ広げてもらい、丁寧に流していく。ルフ様は気持ちよさそうに眼を細めて、されるがままだ。
無防備すぎるけど、信頼されているのかな? あるいは、おおらかな性格なのかな? まあいいか。洗い終わったので湯船に入ってもらうことにする。ひらりと湯船の淵に飛び乗ると、片足からゆっくりと入っていく。
あれ?考えてみると鳥って長時間お湯の中にはいれるのか?羽根が水をはじいたり、浮いたりするんじゃないのかな?
「お、おお~」
出るよね声。わかるわかる
いろんな疑問は出てくるけど、本人から何も言ってこないということは大丈夫なんだろう多分。なんとなく雰囲気で上機嫌なことはわかるので、楽しんでもらっている間に食器を《浄化魔法》で綺麗にして、コンロなどほかの道具と一緒に鞄に収納していく。
片付けが終わったタイミングで堪能し終えたのかルフ様が湯船から出てきた。そのままブルブルっと水を切ったあと、風魔法を使って羽を乾燥させている。何気なく魔法を使っているが、魔素の流れや効率のレベルの精度が高いのがわかる。参考になるなあ。
乾かしながら寝る場所はどうするかを聞く。テントの中を薦めたが、止まり木があればいいとのこと。たしかに鳥類は立って寝ることできるから大丈夫なんだろう。鞄から適当に丸太、木の枝を取り出してTの文字のような形に固定する。脚の下部分は倒れないように丸太に突き刺すような形状にしておく。高さはイスより少し低い位。簡単な加工なので数分で終わった。雨ざらしになるのもなんなので、タープを張っておく。これは魔道具ではないが、薄手の防水布になっていてすぐに建てることができるので使い勝手が良い。
「こちらへどうぞ」
「うむ、ありがとう」
羽を広げふわりと止まり木に降り立つ。近くにテーブル代わりに丸太を置いておく。果樹水を深いお皿に出しておく。
「のどが渇いたでしょう、これどうぞ」
「うむ」
「自分は風呂に入った後は寝ますので」
「そうか、結界もあるので大丈夫だと思うが、わたしも感知魔法があるので心配することはない」
「そうですね、ありがとうございます」
お、見張りもしてくれるってこと?ラッキー。
さっさと風呂に入ってしまおうということで装備、服を脱ぎ、少し追い炊きをしてお湯を暖めなおしておく。シャワーからお湯を出してさくさくと石鹸で髪の毛、身体を洗っていく。全身をシャワーで洗い流し、湯船に肩までつかる。
「ほふ~」
温度がじんわりと体の芯にしみこんでいくようだ。肩、足を中心にお湯の中で筋肉を揉み解していく。一通りマッサージを終えると、淵に頭を乗せゆっくりと息を吐き出す。夜空に落ちてきそうな星空が広がっている。最高だ。
身体が温まったところでのぼせないうちにさっさと出ることにする。風魔法で身体を乾かし服に浄化魔法をかけて着替える。
テントに向かう途中でタープの中をチラッと見ると眼を閉じて動いていないルフ様が見える。そのままぺこりと頭を下げて、テントの中に入る。すぐ動けるようにするために、靴に浄化魔法をかけてそのまま入る。
魔道具のランプがあるのでそれに火をつけて、枕元近くに置いておく。湯冷めしないよう下半身だけ寝袋にはいりこむ。枕元に大きいクッションを出してポスンと背中を預ける。
手帳とペンを取り出し、日記代わりのメモをとっておく。水分補給のために水を飲みながら、今日の出来事はもちろんだが、新しい魔法のアイデアや、ヒントとなるようなことを箇条書きで書きとめていく。
ある程度まとまったところで眠くなってきたので手帳とペンを鞄に仕舞い、のそのそと肩まで寝袋に入り込み瞼を閉じる。テントの外で草木が風で揺れる音が聞こえる。
子守唄代わりに聞いていると静かに意識が沈んでいった。




