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第六層 あれ、またですか?

 その筈だった。

 事の始まりは【亡霊ノルス】を討伐し終えた帰り際。明日の【亡霊】の出現に関して確認を取り合い終了の筈が自体は久信の思わぬ方向に転がっていた。

 待て、とツッコミを入れた所で決定は変わらないのでどうにもならないが神様の手のひらで弄ばれている様な感覚に久信は世の中の不条理を嘆く。


 「明日からツーマンセルで【鬼姫騎士】と【亡霊】を倒せってどうしたらそうなるんですか?」


 【鬼姫騎士】の外見しか知らない者ならご褒美だと騒ぎ立てるビックイベントと化すのだが、生憎助けたのに胸ぐらを掴まれてバカーーー聞くものが聞けばやはりご褒美だろうーーーと言われた久信には苦行の二文字が浮かんでいた。 

 

 「この洞窟町で【亡霊】の出現箇所が複数観測された。上の判断で【鬼姫騎士】の救援の続行、及び俺たちが二組に別れて対処するのが決定となった」

 「決定となった、って言われてもあの破壊力を前に僕が組む必要あるんですか?」


 三人でモタついた【亡霊】を僅か一瞬の内に終わらしてしまったあの【鬼姫騎士】に果たしてパートナーがいるか?

 疑問が湧き上がるのも無理はない。そもそも千勢自身が今まで特定の部隊として動く事なく一人で【亡霊】を片付けていたのだから今更パートナーとなって動けと言われても理解し辛い判断である。

 そんな疑問を浮かべる久信に明確な答えを持つ六角は自慢の胸筋を張りながらタブレットに目を落とす。


 「正直に言えば上の見解では一人で行動さえ続けるのは危険だと常々思っていたらしく誰か都合の良い者はいないかと思案していたらしい」

 「その話ですと僕に白羽の矢が立ったっぽいんですが」

 「ぽい、ではなく立ったのだ。今回のお前の行動は漏れなく上に伝わっている。その結果だろう」

 「いやいやいや」


 何がどうしてそうなるやら。ただ打ち漏らした【亡霊】を倒しただけ。それが評価に繋がる理由が久信には分からなかった。

 タブレットを太い指で操作する六角はとあるコメント欄を読み上げ始める。


 「『いやー目の前で大量の水出す人の隣りは無理っす。活躍云々抜きに死ぬっす』ペンネーム、舎弟に生きるさんより」

 「いや僕も無理ですって」

 「『おーほほほほ、わたくしの精神が崩壊してしまいますわ』ペンネーム、マリー・メリーさんより」

 「僕の精神はどうでもいいと?」

 「『俺には無理だ。俺には妻と子が、妻と子がいるんだ!!』ペンネーム、マッスルキングダムさんより」

 「それ絶対隊長が書いたでしょ!と言うか本当に何を読んでるんですか!?」


 これだ、とタブレットを回して久信に見せるとそこには『【亡霊】掲示板』と書かれた社内ネットであった。

 本来の使用用途は【亡霊】の討伐アドバイスをし合えるようにと設置されたものだが活躍の場は専らただの交流ツールとなり、先に読まれたスレは『【鬼姫騎士】の隣りは俺だ!どうぞどうぞ』である。

 

 「これを参考にされるケースもある。ちなみにお前の事は俺が書いておいた」

 「ちょっ、何て書いたんですか!?」


 六角よりタブレットを奪い取り内容を確認して行く。


 『今日【鬼姫騎士】と戦場にいた』マッスルキングダム

 『乙ー』トカゲ王国

 『乙です』清楚の宮

 『初めて見たがびっくりした』マッスルキングダム

 『その気持ち分かるっす』舎弟に生きる

 『目が点になりますわよね』マリー・メリー

 『ああ、前に出たら死ぬな』マッスルキングダム

 『実際あれは災害と同じですからね』清楚の宮

 『数も質も関係なしにザバー』トカゲ王国

 『だが俺の部下が前に出た』マッスルキングダム


 『!』舎弟に生きる

 『!』トカゲ王国

 『!』マリー・メリー

 『!』清楚の宮

 『!』部長

 『その話kwsk』大盛たくわん


 『ギャラリーが増えたな。簡単に言えば【鬼姫騎士】が【亡霊】の落ち武者五千人を一掃→討ち漏らしが一体→【鬼姫騎士】に迫る刃→前に出た部下が一閃して助ける→そして胸ぐらを掴まれた』マッスルキングダム

 『どうしてそうなったwww』大盛たくわん

 『それよりも【鬼姫騎士】の力を見た後に前に出られた部下の方が変態です。ひょっとしてドMでしょうか?』清楚の宮

 『ひょっとしなくてもドMですわね。おそらく胸ぐらを掴まれて喜んでいたに決まってますわ。私と相性ピッタリですわね』マリー・メリー

 『お似合いのカップル成立っす。おめでとうっす』舎弟に生きる

 『ありがとうございますわ。顔も見たことないので写メ送って下さらないかしら』マリー・メリー

 『ほれ。動画のオマケ付きだ』マッスルキングダム

 『さらしキターーー!!!』トカゲ王国

 『と言っても所詮は【亡霊】討伐の資料ですので探せば誰でも見れますが』清楚の宮

 『おお、凄いなこの少年』部長

 『勇気あるっすねー』舎弟に生きる

 『下手したら自分も水に流されるのにwww』大盛たくわん

 『顔も好みですわね。いい声で鳴きそうですわ』マリー・メリー

 『新しい世界の扉が今開かれた』トカゲ王国

 『ほどほどで頼む』マッスルキングダム

 『しかしそうか。あの【鬼姫騎士】の前に出られる奴がいるのか』部長

 『ん?』マッスルキングダム

 『はい?』清楚の宮

 『まさか?wkwk』大盛たくわん


 『今後の【鬼姫騎士】のパートナーはこいつだ』部長


 『うひょーーー』トカゲ王国

 『グッバイ兄弟。まだ会ったこともないっすけど』舎弟に生きる

 『あの地域で特殊な数値が出ているしな。正式な文章として出すか』部長


 以下、千勢の転勤や久信の変態性について語られる。

 

 「って、何を語ってるんですか!?完全に煽ってますよねこれ」


 タブレットから顔を上げた久信が自分の語られている内容を一切無視して六角に詰め寄る。究極の受けとか書かれていてもそっちより重要な事だ。

 いつの間にか繰り広げられていたお話自体履歴を見れば四時ちょっと過ぎ。つまり千勢の活躍により一瞬で終わった討伐後の時間を持て余している間に全てが暴露されており千勢と久信はチームを組む事となっていた。

 

 「それにこれとか悪口じゃないですか!特攻バカ、片道切符、歩くMとか完全にバカにしてますよね!!」


 グイグイと顔に押し付ける様にタブレットを返す久信は別の意味で怒りが頂点に達していた。

 もはや謂れのない中傷を記載され続ける掲示板など普通の運営ならアカウントも消しに掛かるレベル。しかしこれはあくまでも社内ネットワーク。運営さんなど枕を高くして居眠りしてしまっているのだ。


 「まあ待て。その辺りは確かに全員が悪ノリし過ぎた所はあるが実際問題お前がチームを組むと不安要素が解消されるんだ」

   

 六角は顔に押し付けられていたタブレットを手に取り、適当に操作してこの洞窟町の地図を久信に見せる。

 

 「これは?」

 「この町じゃの。それがどうしたと言うのじゃ?」


 蚊帳の外であったノエルが久信の後ろからタブレットを覗き込む。

 話にあまり興味のなかったノエルだが時間までは待機が原則である為二人の話を聞きながらゲームに勤しんでいたのだ。


 「そうだ。これは洞窟町の地図だが明日からの【亡霊】出現傾向はこうなっている」


 六角はタブレットを横にスライドさせる。

 そこにはあからさまに有ってはならないドクロマークが地図の中に幾つも点在していた。


 「わーい何この不謹慎な絵。花火の為の火薬置き場かな?」

 「現実逃避するでない。どう見ても【亡霊】の分布図じゃろうな。ちと多いがの」

 

 ちと多い、のレベルをかなり越えていた。

 本来【亡霊】は特定の区域に出やすい傾向があるが、それでも週に二、三回。一つの町に対しては一ヶ所がせいぜいである。しかし六角の見せた地図には驚く程にあちこち【亡霊】の出現反応が見られ、日本中の【亡霊】が一ヶ所に集まったのではと思えてしまう。一応【亡霊】が出現する予定の場所に関しては過去に【亡霊】が出た事のある箇所である為セオリーから完全に外れたとは言いがたいのだが。


 「これを一つのチームで処理するのは不可能だ。ならばこちらもチームを分ける必要が出る訳だ」

 「なら隊長が組めばいいじゃないですか」

 「言っただろ?俺には妻と娘がいるんだ。滅多な事では死ねん」

 「我が身可愛さで部下を売るなよ!僕だって死にたくないですって!」

 「安心しろ。過去に【鬼姫騎士】の被害に遭ったのは調子に乗ったヤンキーが一人だけだ」

 「被害者いるじゃないですか。危険ですよね」

 「あれは行き過ぎたナンパの末だ。【亡霊】ごと水の中を漂って全治二ヶ月で済んでいるから問題ない」

 

 それは問題あるのではなかろうか。そんな相手と組まされる久信は己の危機にアラームが鳴りっぱなしである。

 何とか決定を変えたい久信だが上からの命令を変えられる程に久信は偉くない。そもそも入って二ヶ月そこらで意見出来る筈もなかった。


 「でも助けて胸ぐら掴まれるんですよ?明日一緒にやって『さあ今日も頑張りましょう。きゃるーん』って感じになると思ってるんですか」

 「いや久信よ『きゃるーん』ってなんじゃよ?どう考えてもあれのキャラではなかろうて」

 「そこは気分の問題ですよ」

 「だが久信が今更何を言おうと決定は変わらない。諦めるんだな」


 六角の最後通牒に久信の肩を落とす。

 せめて明日は平穏である事を願いながら久信は帰路へと着くのだった。

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