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第二十層 魔王VS勇者①

 「勇者がこの程度で終わりじゃないでしょうね」


 遠くで蠢く勇者たちを目視した千勢は舌なめずりをして獰猛に笑う。


 「ふふふ、それでこそ勇者ね。今からしっかり殺してやるわ」


 水竜を従えながら進む姿はさながら魔王。身も心も悪魔へと染まった千勢に手加減も思いやりも気遣いも一切なかった。

 このまま千勢を放置しておいていいわけもない。

 暴走している千勢に久信は声を掛ける。


 「千勢さ」

 「うっさいわね。あんたも殺されたいの?」


 目が笑っていなかった。

 裏切られた理由など聞かなければ良かったと後悔しているのか、やけになった千勢は久信の言葉に耳を傾ける気など毛頭なくなっていた。


 「あんたは見ていなさいよ。私があいつらを殺す所を」


 それだけはダメだと訴えたいのに言葉が出ない。

 今の千勢に気押されている久信ではどのように伝えたとしても分かるものではないだろう。  

 

 「邪魔したら殺すから」

  

 勇者の元へと駆けて行く千勢の背中を久信は眺めているの事しか出来なかった。



 

 ・・・



 もう、どうでも良かった。

 突き付けられた事実の重さも、奪われた勇者のメッキも、気付かぬ内に汚してしまっていた手の醜さも、全てがどうでも良かった。

 私は魔王だった。

 逆にそれだけで救われる。

 魔王なら世界を壊しても侵しても殺しても仕方のないもの。魔王である事を自覚し、魔王であった事を喜び、魔王がここに再誕した事を狂喜乱舞して祝うべきなのよ。


 「ああああああああああっ!!」


 冒険者の青年の刃が千勢の首に目掛けて振るわれる。

 リック、貴方には感謝してる。貴方は一番長く私の側にいて常に私の後ろに立って援護を送ってくれていたわ。でも、今思えばあれは本当は私の背中を斬り付ける隙を伺っていたのでしょうね。だけど私には通じない。


 「ぐぅっ…」


 剣を振るわなくても水竜が自動でガードを果たす。刃を水が覆ってリックの動きを封じた。

 軽く撫でる程度の力で剣を払えば水竜もそれに従ってリックを投げ捨てる。ただしその勢いはトラックに轢き殺された様に激しく地面を駆ける。

 こうなると分かっていたから攻撃して来なかったのに昔に比べて頭が弱くなったわね。しょうがないからその頭を去勢して賢くしてあげる。


 「ファイア・ブロー!!」


 リックに追撃を入れようとした千勢に対し、神父の火球による魔法が妨害した。

 ルーネル、貴方にも感謝してる。貴方の魔法でこれまでも沢山の援護をしてくれていたわ。でも、貴方の魔法は私の力と相性が悪くて何度も消してしまっていたわね。こんな風に。

 ジュー、と生み出された火球は水竜がお菓子でも貰うかの様に口の中へと放り込まれ消火されてしまう。


 「他の魔法も使えば良いのに。でも無理よね?ルーネルにそんな才能は無かったもの」

 「がぁあああっ!」


 水竜をルーネルへと向ければ必死に魔法で対抗しようにも全てが火の魔法であり圧倒的水量に消されてリックと同じ様に地を這った。

 

 「リック、ルーネルさん!」

 「ああ、そう言えば回復させる相手に近付かないとダメだったわね」

 「ひっ…」


 聖女が重傷を負った二人を癒すべく近寄ろうとするもその間を千勢が通行止めとする。

 ライン、貴方にも感謝してる。旅の仲間の中でも唯一女同士。色々と話し合って楽しかったわね。でも、貴方は自分の弱さに付け込んで私の弱点を探っていたわね?ほら、弱点を狙ってみなさいよ。


 「きゃぁああああああああああっ!!」


 近付く事さえ許さず、容赦なく襲う水圧がラインを飲み込む土砂と一緒に流し飛ばした。

 武術を習った事のない私なら近接戦では負けるかも、なんて話していたわよね。その前にこの水で全てを飲み込むわ。

 

 「このっ!」


 狩人の矢が連続で千勢の背後に放たれる。

 ロング、貴方には感謝している。貴方の細かいサポートのお陰で長い旅もやって来れたわ。でも、あの時は気付かなかったけれど食事に毒を盛ったり、リックと同じ様に背中から狙っていたわね。効くと思った?

 

 「うわあああっ!」


 全ての矢が水に包まれ、矢じりに仕込まれていた毒も浄化していく。リヴァイアルの生む水の循環があれば毒の無効は無意識に行われた。

 水が全てを飲み込む。ロングもまた適当にあしらう程度の水で押し流す。 


 「あ、さっきの毒を飲ませても面白かったかしら」

 

 今度はそうしよっと呟く彼女の残虐性は時間が経つ毎に増していた。

 彼女の思う絶対的な悪がこうであるべきと突き動かすからか、殺すと叫びながらも致命傷に至る傷はまだ誰にも付けていなかった。


 「遂に本性を表したか」


 魔女はただ傍観していた訳では無い。

 彼らが時間稼ぎをしている間に様々な準備を施しており、その手には一本の黒い剣が用意されていた。


 「本性?別にどうでも良くなっただけよ。私は魔王だもの。好きにしたっていいじゃない」

 

 だから殺すのは自由。それに相手は【亡霊ノルス】。世界の異物である彼らを殺すのは千勢の本来の役割でもある。ならどう殺そうが関係なかった。

 しかしそれをされる方は堪ったものでは無い。

 魔女は内心冷や汗を掻いていた。

 何せ前回のあれは全て千勢の前世であるリリアーナをおびき寄せて万全な状態で戦ったからこそ勝てたもの。それも仲間であった者たちの裏切りと騙し討ちがあって初めて成立したのだ。

 今回はそれがない。裏切りはバレているし土地に対する仕掛けもないのだ。

 所詮【亡霊】であり、命の勘定をしなくていい分マシなのかも知れないが開き直った千勢の力は既に前世の頃より強い。

 何より前の時にはあんな竜はいなかった。

 絶望しかない戦いに身を投じなければならない魔女の苦悩は想像を絶する。


 「そう言えば」


 千勢の一挙手一投足に身体を強張らせる魔女は千勢の言葉に注意を傾ける。


 「貴方の名前って聞いていなかったわよね?私はずっと貴方を魔王だと思って呼んでいたから」

 「………」


 まだ攻撃する気のない千勢でありながらも緊張からか魔女は喉を鳴らす。

 これはあの世界にいた者たち全てへの弔いだ。

 同じ過ちを繰り返さない。その為に今ここに自分はいるんだと魔女は高らかに己の名を鼓舞する様に叫ぶ。


 「私の名はアレスティア。アレスティア=クロイツ=ブロイライン。貴様により滅ぼされた国、ブロイラインの姫だ!!」

 

 まるで本物の勇者だ。 

 臆さず絶対的な力を見せても立ち向かうその姿勢に千勢は歓喜の声を上げる。


 「アレスティアね。覚えたわ、しっかりと覚えたわよ。私(魔王)を殺した勇者の名前。だから今度は私が踏み潰すように殺してあげるわ!!」


 激突する二人の姫。

 互いに走り出しての剣から発せられる激突音は今からが開幕だと告げる鐘の音の様に重く激しいものだった。


 「へぇ、その剣」


 千勢はぶつかり合って始めて気付いた黒い剣の力。

 その剣は千勢のリヴァイアルとぶつかった瞬間に剣の水を吸った。その量は一瞬だが千勢の水竜が形を維持出来なくなる程貪欲なものだった。


 「これはベヒモルス。あの時はこの剣が吸った物が吐き出せなくなるから遠慮したが今回は違うぞ」

 「なら私のリヴァイアルとそっちのベヒモルス。どっちが上か試しましょうか」


 剣を押し戻して距離を取る千勢は高く剣を振りかざす。


 「リヴァイアル・バースト!」


 対してベヒモルスを地面に突き刺して防御の構えをするアレスティアは全ての水を飲み込む気なのか。自信を持ってそこに居続ける。


 「ベヒモルス・グ・リード!」


 剣から生まれる大きなワニの口模した様な黒い(もや)がアレスティアの前に展開される。

 リヴァイアル・バーストの生み出す水圧が地面を削り上げ、土砂と一緒にアレスティアを襲い掛かるが黒い(もや)が全てを受け止めて飲み干した。

 が、その負担はアレスティアが思う以上に想像絶する疲労となって返って来た。


 「ぐっ、この程度で」

 

 膝を着くアレスティアだが千勢は敢えて攻撃の手を止めた。


 「ふーん、その剣大分使い勝手が悪いみたいね。もしかして私のリヴァイアルとは違って剣に拒絶されてるの?」


 そう彼女の持つベヒモルスは千勢の様に千勢の身体から袂を別れて出来た剣ではない。

 この剣はアレスティアが水を奪った元凶として最初に目をつけた剣であり、苦節の末に手にしたが結局お蔵入りとなった使い勝手のすこぶる程悪い剣である。

 ベヒモルスは使い手の指定した物を飲み込む仕様であるが飲み込んだ物体を吐き出す様には出来ていない。

 ならば飲み込んだものはどうするか。

 使い手であるアレスティアに消化の魔力を要求するのだ。

 飲み込んだものがどれだけの力を持つか、またその体積がいかに大きいかで消化に必要な魔力を持って行く。これだけ使い勝手の悪い剣を使えるのはそれこそアレスティアの様に莫大な魔力を持つ者にしか扱えなかった。

 しかしそれでもリヴァイアルの物量と魔力を兼ね備えた攻撃を喰らい切るには燃費が凄まじく悪い。

 アレスティアとしても一度喰らった程度で膝を着かされるなど思いも寄らなかっただろう。肩で息をする彼女はこの剣の相性の悪さを実感する。

 

 「気にするな。これはまだ想定内だ」

 

 アレスティアは息を整えながら剣を支えに立ち上がる。


 「この剣はこうも使える」

 

 剣を横に振るアレスティアは黒い靄を周囲に散布した。


 「目くらまし?この程…っ!!」


 ギンッ!強烈な金属音が千勢の剣から発せられる。

 金属音を奏でた正体はアレスティアの持つベヒモルスそのものだった。

 急に千勢の眼前へと現れた剣に驚くも、その驚きは更なる衝撃を持って返される。


 「このっ、ぐっ、何で!?」


 弾いた剣は消え去り、すぐ傍にいたアレスティアもまた眼前から姿を消した。

 瞬間移動の類?そんなものあの世界には無かったのにどうして?

 そんな思考もアレスティアの猛攻により遮られてしまう。


 「やはり近接戦では脆くなるな!」


 リヴァイアルの自動防御に頼ろうにもアレスティアの動きはゲームのバグの様に消えたり現れたりして機能を果たさなかった。

 何故こんな変則的な動きを可能とするのか。それはベヒモルスの剣の性能そのものにあった。

 ベヒモルスの能力は任意の物を喰らい尽くす悪食にあるが認識さえ出来れば空間そのもの(・・・・・・)まで喰らう力がある。

 空間を喰う事で相手との距離を食い潰して目の前に現れる事を可能とし、同時に空間を復元しようとする世界の持つ修復能力により元の位置へと戻る事が出来る。

 

 「この!」

 

 千勢は闇雲に剣を振るうがアレスティアには当たらず、リヴァイアルの力を使おうにも標的が動き過ぎて狙いが定まらなかった。

 アレスティアの猛攻は更に続く。


 「どうした魔王リリアーナ!」

 「舐めんじゃないわよ!」


 相手は前方にいるのだ。狙わずに兎に角水圧で薙ぎ払ってしまえばいい。

 そう考えて剣を振るうも、またしても千勢にとって想定外な事態が起こる。


 「きゃっ!」


 突如起こった地割れに千勢は足を取られる。

 リヴァイアル・バーストの影響で地盤が脆くなった?違う。やったのはアレスティアだ。 

 アレスティアが空間を移動した時の置き土産に千勢の足元に残した魔法の力が時限式に発動した結果だ。

 ベヒモルスだけが能ではない。むしろ今までお蔵入りにして来た分、本業は魔法使いなアレスティアにとってこの程度出来て当然だった。


 「はぁああっ!!」 

   

 ベヒモルスの剣が千勢の頭上より迫る。

 このまま剣をリヴァイアルの出している水竜だけでガードすればたちまちベヒモルスに喰われ、千勢の頭から切り裂かれてしまう。

 万事休すと思われた千勢。だが意外な事に彼女は笑っていた。


 「残念ね」

 「え?っ、きゃぁああああああああああっ!!」


 水竜が全方位に弾けたのだ。それもアレスティアにとって喰い切れない程の魔力を込められた状態で。

 いつでもベヒモルス・グ・リードを展開出来る様にしていたアレスティアだが流石にこの攻撃は読んでいなかった。

 まさか防御を捨てて来るなんて想像していなかったアレスティアは空間が戻るよりも早く飛ばされてしまう。


 「これで仕切り直しよ」


 千勢はアレスティアが裏切者たちの所に狙い通り飛んで行ったのを確認するとゆっくり近付いた。


 「どうライン?皆の傷は癒せた?」


 まるで仲間に声を掛ける様に話す千勢は全て狙っていたのだ。


 「リックも剣は折れてない?ロングは矢が足りてるかしら?ルーネルは魔力をちゃんと温存してる?」


 アレスティアと戯れている間に全員が万全の状態に戻る事を。

 

 「魔王退治はまだまだこれからよ。皆頑張りましょう」


 千勢はそれぞれの裏切者たちににっこりと微笑みを浮かべる。

 粛清の時間はたっぷりあるとそう言外に語る彼女の瞳だけはやはり笑ってはいなかった。



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