第零層 プロローグ
初投稿 のんびりやっていきます
「この仕事ってさ。四時から六時まで働くだけでいいから皆から『人生勝ち組!ラッキーな職場!』なんて言われてますよね?」
飛び交う怒号の嵐。
「ついでに僅か二時間足らず働いただけでサラリーマンの年収の倍貰える訳で、うちの親なんか『俺、働く意味あるのかな』って哀愁漂う台詞を縁側で吐いてたんですよ」
夕日にギラギラと輝く日本刀の群れ。
「確かにそれだけしか働かないなら楽だよなー、とか思わないでもないんですよ?けど…」
ぼやく少年の前に立つは街中に時代遅れな落ち武者による五千人で構築された一個軍。そのどの武者も赤く半透明な【亡霊】と呼ばれる脅威が彼らの前に差し迫っていた。
「これを何とかしろとか危険手当て貰っても割りに合うかチクショーーーッ!!」
「叫んでいないで対処するぞ。このままだと交通に支障が出るからな」
「久信が叫びたい気持ちも分かるのう。こんな少人数で相手をするような数ではないわ」
少人数、それは僅か三人で血の気の多そうな落ち武者千人近くを相手にしなければならないのだから報酬額が正当なのか疑いを持つのも無理はない。
叫ぶ少年、笠梨久信を他所に大柄の丸刈りな男は淡々と準備を始める。
「救援要請はしてある。最も来るのは明日になるがな」
「うげっ、じゃあ本気で今日はコレを三人で相手にするんですか?」
「しかもあいつらの消える六時までぶっ続けの耐久レースじゃのう」
楽しそうに笑うは幼女に見える年齢不詳な女。ボーイッシュに決めた髪を揺らしながらその目は既に諦めの極地に至っていた。
「っくそ、僕の時間を返せバカ野郎」
「金を貰う以上責任は発生する。覚悟を決める事だな」
三対千の無謀とも呼べる戦いに身を投じようとする者たちとは思えない余裕を見せる。彼らにとってこれは日常だった。
時には巨大な獣を倒し、時には数多の者を倒す彼らは現代において間違った世界を正す裁定者。第二十六特務霊装部隊、通称【黄泉送り部隊】と呼ばれる国直轄の部隊である。
彼らの仕事は【霊隔】を用いて時代遅れの亡霊たちの討伐を生業とする。四時から六時まで現世に現れる彼らを消滅させるだけの簡単な仕事だ、と世間的に知られている。
「ああ、あの頃に戻りたい」
「ぼやかない、ぼやかない。わしだって昔に戻れるなら戻っておるしの」
「…………それ何十年前だよ」
「あん?何か言ったかボーイ」
「なんでもありませんマムッ!!」
「遊んでいるな。出来る限り討伐するぞ」
「「りょーかいでーす」」
しかしそれも二時間程度の仕事と考えるのと、二時間強の連続戦闘との差は限りなく大きい。いかに短い労働で済もうと全力疾走を二時間毎日やれと言われてやりたいと思う者は少ないだろう。
「行くぞ【第一深層領域解放】」
丸刈りの男は身の丈に合わせた様な大柄な大剣を一振り虚空より生み出すと両手で構える。
「明日の為にも様子見はしておかんとのう【第一深層領域解放】」
年齢不詳の幼女は一本の両先端部がネジ曲がった白杖を生み出して構える。
「下手したら討伐に一週間くらいかかりますよこれ【第一深層領域解放】」
久信は一本の刀身が濡れた様に赤い日本刀を片手に、折れそうな心を踏ん張りながら前を向く。
ギラつく落ち武者たちの狂気を一身に浴びて涙を浮かべながら気合いを入れる。
「やってやるよ【亡霊】どもッ!!」
明日来る応援に期待しながら久信たち、第二十六特務霊装部隊は二時間しっかりと戦い抜くのだった。