経験値稼ぎ
本日、2話目となっております。
翌朝、日が昇ると早々に目覚めたオレは、荷物を畳んで移動を開始した。
ド・ローン之介が、遠く離れた森の中に建物らしき物を発見したので、そちらに向かってみることにしたのだ。
朝食はコーヒー1杯のみ。
肉体労働者としては朝からガツンと食べるべきなのだろうけど、ポイントの残りが38しかなかったので、ついついケチってしまった。
せっかくのファンタジー世界なのに、冒険出来ない小心者のオレである。
とか考えてたら、やっぱりお腹が減ってきた。ウズメさんに朝定食でも頼もうかなぁ。でも、本当にポイントがないしなぁ。
ちっちゃなことに頭を悩ませながら歩いていると、ド・ローン之介が何かを発見した様子。
視界を共有してみると、草原の真ん中で日向ぼっこをしている様な大きなトカゲの姿が見えた。
やばい! デカい! 体長が優に2メートルを超えている。コモドオオトカゲより大きくない?
「これは、剣1本で勝てるのか?」
オレはゆっくりと、直接視認出来る距離までオオトカゲに近づいた。
姿勢を低くしながら回り込み、オオトカゲの尻尾側のポジションを確保。観察を開始する。
「むぅ、大きなトカゲと言うよりは、小型の恐竜って言いたくなるね」
『ちなみにポイントは1200になりますが、無理をしないことをお勧めします』
「1200か。あれでカニの40倍って数値は、多いのか少ないのか・・・」
オオトカゲの体色は、緑と茶の迷彩模様。
4本の脚も尻尾も、やけに太く見える。
脚の太さは頑丈さの現れで、尻尾の太さは攻撃力の現れだろう。コモドオオトカゲの尻尾で叩かれたら、人間の手の骨ぐらい簡単に折れると聞くし。
「剣術スキルがあったら、あいつを一刀両断に出来たりする?」
『スキルレベルがⅣあれば、可能ですね』
「Ⅰじゃ、まるで歯が立たない?」
『斬るのではなく刺すのなら、十分ダメージを与えられるでしょう』
やってやれない訳じゃないのか。
でも、あんまり気が進まないのも事実だ。ただ日向ぼっこしてるだけのトカゲに、いきなり剣を突き刺すのって、ちょっとねぇ。レベル上げの為にモンスターという名の動物たちを虐殺するなんて、現実でやったらただの危ない奴だわ。
『タケルが優しい人間だとは分かりましたが――――』
「なんだよ? オレは基本的に動物好きなんだから――――」
『オオトカゲが、タケルを獲物として認識した様です』
「んなっ!?」
体臭なのか音なのか、何を察知されたのかは分からないけど、要するに、不用意に野生動物に接近し過ぎたのが原因なのだろう。
オオトカゲはコマ落としのように素早く反転すると、オレに向かって疾走して来た。
速い!
短い四肢を猛然と回転させながら、瞬く間にオレの目前に達してしまう。
そこで、再反転。太く長い尻尾が、鞭の様にオレの足に振るわれる。
跳躍!!
尻尾での攻撃を予想していたオレは、食らったら骨折間違いなしの一撃をヒラリとかわし、オオトカゲの背中に着地した。尻尾も牙も届かない安全圏だ。
そのまま流れる様に剣を抜き、オオトカゲの首に突き立てる。
粘土にでも剣を刺したかの様な感触。
背中に怖気が走ったが、構わず剣に体重をかけ、より深く刃を潜らせていく。
結局、オオトカゲを狩る羽目になってしまった。
カニやヘビを殺した時もいい気はしなかったけど、大型の動物を手にかける忌避感は格別だ。
これでも、脳内物質の分泌量の調整で、イヤな気分は抑えられているんだのだろう。素のままだったら、吐いてしまっていたかも知れない。
「まあ、慣れるんだろうね。こういうのも」
『今すぐ慣らすのも可能ですが?』
「そんな事でポイントを使いたくないよ」
オレはオオトカゲの骸に手を触れると、ウズメさんに転送した。
これで1200ポイント獲得。
「同じ種類のトカゲを狩ったって、もうポイントにはならないんだよね?」
『いえ。使い道はいくらでもありますから、10%のポイントは提供します』
「なるほど。120なら少なくはないけど、同じ動物の乱獲を求められてるって訳でもないんだな」
『そこまで血生臭い要求をする必要はありませんので』
「必要があれば、血生臭い要求もするってか?」
『もちろんです』
「・・・」
『ただ、それを実行するかどうかは、タケルの意志次第ですから』
「了解。なんにせよ、精神的にタフになる必要はありそうだね」
足元の雑草で血糊を拭うと、一度で剣はピカピカになった。51世紀の特殊なコーティングのおかげだろう。
オレのイヤな気分も、これぐらい簡単に拭えてしまったらいいのにと思う。
昼食は、ウズメさんお手製のラーメン。カニ入り、白ご飯付きである。
ウズメさんはオオトカゲの肉を使いたがったけど、それは断固拒否させていただいた。あのオオトカゲはいかにも肉食っぽかったし、肉食動物の肉って臭そうだろ? ワニの肉は美味しいって聞いた事があるけど、オオトカゲも同じ様に美味しいとは限らないしね。
でもおかげで、夕食用の食材を調達しなきゃならなくなってしまった。
で、ド・ローン之介が見つけてくれたのは、カモシカみたいな動物の群れ。おおよそ30体ぐらいいるだろうか。
1体1体の大きさは、頭の高さがオレの胸に来るぐらい。ちなみに、オレの身長は175センチの筈だ。
集団で草を食べている姿は、いかにも典型的な草食動物の群れに見える。
「でも、あの角は何だ?」
本来なら、自分が食べる為に、無害な草食動物の命をいただく事に罪悪感を覚えそうな場面なのに、カモシカたちの額から前方に伸びている刃物のような2本の角が、カモシカたちの無害さを完全に消し去っていた。
『成体の角は、どれも血糊と肉片がこびり付いていますね』
「草食動物だよね、あいつら?」
『他の惑星でのデータによると、魔力が存在する環境では、食べる為ではなく魔力を奪う為に、生物同士が殺し合うケースが往々にして見られるそうです』
「動物たちも、当たり前に経験値稼ぎしてるの? じゃあ、見かけは同じなのに、中にはとてつもなく強い個体がいたりするの?」
『保有魔力の多寡が、どの程度肉体に影響を及ぼすのかは、完全に不明です』
「あー、魔力はウズメさんに検知出来ないんだもんね」
『残念です』
「魔力の件は置いておくとして、あんなのに手を出したら、寄ってたかって切り刻まれちゃうんだろうな。別の獲物を探すか」
『お言葉ですが』
「うん?」
『もう気づかれています』
「えーっ!?」
やけに身に覚えのあるパターン!
群れの中でも特に大柄な個体が、額の角をオレに向けたまま、すでに突進を開始していたのであった。
身体を投げ出してカモシカの突進をかわすと、オレはカモシカの細い脚に剣を叩きつける。高速ですれ違っていくカモシカに背後から剣を振る形となったが、ぎりぎり剣先がその後ろ脚を切り裂いた。
バランスを崩し、倒れ込むカモシカ。
オレはすかさず走り寄ると、カモシカの首筋に剣を走らせる。ビュッと赤い血が噴き出し、カモシカは哀れな声で鳴いてから、地面に身を横たえた。
「お。思ったより上手くいったぞ」
『1体だけでしたら、そうですね』
「へ?」
イヤな予感がして振り向くと、カモシカの群れ全体がゆっくりとこちらに動き始めたところだった。
「あれ? これは、もしかして・・・」
『ちなみに、走って逃げるのは不可能です』
「ですよねー」
カモシカ1体目、1500ポイント。
残りの29体、150×29で4350ポイント。
はい。誰が何と言おうと、虐殺者の仲間入り。