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未来のテントとカニ定食

 全長は、やはりキロメートル単位のスケールだろう。

 見かけは、平べったい胴体と細長い尾からなるエイそのものだ。

 ただその背中に、尖塔を持つ石造りの建造物が並んでいる。イメージとしては、小島が丸々修道院や軍事施設で埋め尽くされたモン・サン・ミシェル。

 いや、行ったことはないけどね。

 だが、写真とかで見た雰囲気が、やけに似ている気がした。

『確かに、個々の建造物の形は違いますが、狭い範囲に石造りの建造物が密集した様子は、似ていなくもないですね』

 ウズメさん、微妙な同意をありがとう。


「あれが、この惑星の文明レベルを表しているとしたら、ずいぶん進んでると言えるんじゃないの?」

『そうですね。地球の文明とは違う方向ではありますが、決して野蛮なレベルではないと言えるでしょう』

「オレの時代の感覚からすると、独自の文明や文化は、それを維持するために出来るだけ干渉すべきではないって意見が出てきそうだけど」

『51世紀にもそういう考え方は存在しますが、人類の入植を最優先とする以上、場合によっては異星文明そのものを滅亡させるケースも珍しくはありません』

「うわっ、極悪非道・・・。母船にアクシデントが起きてこの惑星に来れなくなったのは、オレにとっても朗報だったのかもな」


 アクシデントを起こしたという母船に、どれだけの地球人が乗っているのかは知らないが、この惑星にたどり着けなくなったということは、また数百年、数千年の航海が必要になったということだろう。

 それを考えれば、アクシデントが起こって良かったなどと言ったら、人類の敵認定されても不思議じゃないところだ。ウズメさんに叱られるかと思ったけど、特に何も言われることはなかった。でも、ウズメさんの心証が悪くなっても困るし、発言には気をつけることにしよう。





「ところで、エイにしろ、朝に見たクジラにしろ、どういう理屈で空を飛んでるんだろね? 見た目と違って、無茶苦茶軽いのかな?」

『魔法で飛んでるという話ですよ? 残念ながら、私のどんなセンサーでも魔力というものを検知出来ませんが』

「魔法? 魔力? そんなものまであるの?」

『人類にとっては予想外でしたが、現在までに発見された異星文明の半数近くで魔法の存在が観測されています』

「へぇ、そうなの? もしかして、この惑星だとオレも魔法が使えるの?」


 ますますゲーム染みてきたぞ。魔法が使えるんなら、次のポイント交換は魔法スキルとかで良いかも知れないな。

『この惑星上であれば、タケルにも魔法が使える筈です。しかし残念ながら、魔法スキルはポイント交換出来ません』

「えー? 拳銃より魔法をもらおうかと思ったのに」

『魔法が科学的に解明出来ていない以上、スキルとして供与することは不可能なのです』

「そっかー。じゃあ、魔法は自力でマスターするしかないんだね」


『ただ、タケルが魔法のデータを収集してくれれば、呪文をダウンロードすることは可能となるでしょう』

「つまり、どんなにややこしい呪文でも、一発で憶えられると?」

『そうです。もちろん、ポイントと交換で』

「あはは。それは、もう承知済み。頑張ってポイントを貯めさせていただきますよ」

 魔法! 心が踊るね。





 空中都市とでも言いたくなる巨大エイの姿が小さくなると、ド・ローン之介がキャンプ地に戻ってきた。

 なるほど。もう日が傾き始めている。

 ド・ローン之介は近くの灌木の枝に付属のアームでしがみつくと、周囲の警戒態勢に入った。夜間は光発電が行えないので、飛行を止めて節電モードになるらしい。内蔵バッテリーに充電がされているので、必要であれば夜間飛行も行えるそうだけど。


 夕食は、10ポイントを払い、ウズメさんにカニ定食を作ってもらった。

 ご飯、味噌汁、漬け物、小魚の天ぷら、茹でたカニの脚という豪華セットだ。味噌汁と漬け物には、昼間にオレが採取した植物も使われている。恐る恐る食べてみたけど、ちゃんと美味しかった。ウズメさん、まじ有能。

 なお、米や調味料はどれぐらい備蓄があるのか心配になったけど、必要な動植物はプラント内で生産しているので、オレ1人分ならなくなる心配はないらしい。


 そして、食後のコーヒーを飲み始めたオレは、日が暮れたにも関わらず、空が暗くならないことに気がついた。

 見れば、夜空に薄く光る川のような流れがある。

 天頂の方にはほとんど光がなくて普通に星が瞬いているが、地平線に近くなるに連れて、その光が強くなっている様だ。

「ウズメさん、これは何の光?」

 オーロラみたいなものかも知れない。光は色々な色を放っていて、とても美しいのだけど、初めて見る現象は不安をかき立てる。


『やはり、タケルにも光の川が見えるのですね?』

「そりゃ、これだけ光ってたら、オレにも見えるよ・・・って、え? ウズメさんには見えないの?」

『私には見えません。この惑星の住人の会話から、空に光る川が存在することは承知しているのですが、どんな観測機器を通しても、それは検知出来ないのです』

 これだけ明るい光を放っているものが見えないとは、どういう事だ? ん? 何か似たような話を聞いたな・・・。


「・・・つまり、あれは魔力の川?」

『その可能性が強いですね。この惑星の大気中には魔力が漂っていて、暗くなるとその光が視認出来るようになるのでしょう』

「川のように見えるのは、惑星の自転の影響?」

『そうなのでしょうね。地平線付近の方が明るく見えるそうですが、赤道に近くなるほど遠心力が大きくなって、魔力がより多く集まっているのでしょう』

「土星の輪っかみたいなイメージかな?」

『そこまでくっきりとはしていませんし、惑星表面から遠くもないでしょうが、そういうイメージでも不都合はないかと思われます』


 その例えは、あまりウズメさんのお気に召さなかったようであるが、オレは呆けたように空を見上げ続け、そして気づいた。

「そう言えば、空がこんなに明るいのに、地上に全く照り返しがないね。地上は真っ暗なままだ」

『それこそが、その光が魔力である証拠なのでしょう。純粋な魔力のままでは、物質に全く影響を与えないのだと思われます』


 なんか、小難しいな。

「それが見えるってことは、オレの身体が魔力に反応してるってこと?」

『そうなのでしょう。この惑星の人間は、他の生き物を殺すことにより、強い魔力を使えるようになったり、精密に魔力を感知出来るようになるという話です。カニやヘビを殺したことにより、タケルも魔力を見ることが出来るようになったのでしょう』

「へぇ、モンスターを倒して経験値を得るのと同じなんだ。これは、ポイントを稼ぐのと魔力を増やすのと、二重の意味で狩りをしないといけなくなったね。その為にも、次は拳銃ゲットを目指さないとな」


 とりあえず今後の方針が決まったところで、オレはテントに潜り込んで横になった。

 中は、超が付くほどの快適さだ。

 テントの骨組み全体が発光するおかげでどこにも影は出来ないし、特殊な布地は外に光を通さず、動物たちの注意を引くことはない。布地と一体になったエアコンが温度と湿度を快適にコントロールしてくれるし、極め付きは、マットや寝袋がなくても平気なぐらいに、テントの床部分の寝心地が良いのだ。


 明日は、早朝からまたサンプル集めである。

 出来たら、少しぐらい大物を狩って、ドカンとポイントを稼ぎたいな。

 勝手な皮算用をしながら、オレは程なく眠りに就いた。





 ○アメノ・タケル


◇所持ポイント:38


◇スキル:【剣術】Ⅰ 【格闘術】Ⅰ 【サバイバル】Ⅰ 【再生】Ⅰ 【ガイリーン地方公用語】Ⅰ


◇アイテム:【偵察用ドローン】×1(new)


 

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