ゲームの序盤は植物採集から
「それで、もうゲームは始まってるの?」
『タケルが意識を取り戻した時点で始まっていますよ。
まず、最初に100ポイントが与えられていますので、何かと交換してみますか?』
「現状のステータスって見られるのかな?」
そう口にした途端、オレの視界内に日本語の文字列が浮かび上がった。
○アメノ・タケル
◇所持ポイント:100
◇スキル:【剣術】Ⅰ 【格闘術】Ⅰ 【サバイバル】Ⅰ 【再生】Ⅰ 【ガイリーン地方公用語】Ⅰ
やけに、すっきりとしたステータスだ。
所持スキルが表示されてるだけじゃないか。ゲームに特有のSTRとかAGIとかの数値化は、さすがに無理らしい。
でも、生きて行くのに必要最低限の能力は、最初から与えられているのが分かる。
「剣術や格闘術があるのは嬉しいけど、全くの素人だったオレにどうやって覚えさせたの? 知識を注入しただけ?」
そう言いながら腰の剣を抜いてみると、びっくりするぐらいに手に馴染んだ感触があった。
軽く剣を振ってみたが、自分で言うのも何だけど、その動作がピタリとキマる。ピウッという風を切る鋭い音が、耳に心地良い。
少なくとも、初めて剣を振ったぎこちなさや恐怖感は、まるで感じられない。それこそ、もう何年も剣を振り続けてきたような一体感があるだけだ。
『スキルがダウンロードされると、それに関連した知識が注入されると同時に、必要な筋肉や神経が強制的に強化され、何年も鍛錬を続けてきたのと同等の肉体を得る事が出来ます』
「うわっ、なんちゅう便利な・・・。でも、それってスポーツの意味がなくなるね」
『もちろん、この技術は厳重に管理されていますし、そもそも体内に専用のナノマシーン製造デバイスを有する者にしか使えません』
「そうか。でも、最強の兵士をいくらでも量産出来るって事だよね」
『それは、正解です』
「オレの持っているスキルは、みんなⅠになってるけど、ⅡやⅢがあるの?」
『最高はⅤです』
「ふむ。5段階ね。まだそれだけ強くなれるってことか。ちなみに、剣術をⅡに上げるには、ポイントはいくつ必要?」
『10000です』
「おい! いきなり多いな!
じゃあ、拳銃は何ポイント?」
『一番廉価なハンドガンで3000ですね』
「3000か。で、その性能は?」
『装弾数が12発のオートマチックピストルで、タケルの感覚からすると大きなサイズではありませんが、性能が21世紀とは比べものになりませんので、威力的にはクマとも渡り合えるものです』
口径がどうのと説明されてもオレには意味が分からないので、ウズメさんのフワッとした説明で十分だった。クマとやれるのなら、性能的には十分だ。
まずは、3000ポイントを目指すとしようかな。
「あ。じゃあ、銃撃とか射撃とかいうスキルもある?」
『射撃スキルが存在します。Ⅰの習得には1000ポイントが必要です』
くっ。合わせて4000か。なかなか厳しいな。
でも、取りあえずやるしかない。
まずは歩き出すところからだと思い、ここで愕然とするオレ。
あれ? どっちに進んだらいいんだ? オレがいるのは見渡す限りの草原で、遠くに森や雪をかぶった山脈が見えているだけだ。文明的な痕跡は、まるで見受けられない。
「ウ、ウズメさん、どっちに向かえばいい?」
『お好きな方へ、どうぞ』
「一番近い街は、どっち?」
『そのような質問には、お答え出来ません』
「くっ」
ウズメさんが厳しい。
「地図か航空写真でもないの?」
『1000ポイントでマップというスキルがありますが、これはタケルを中心とする半径100メートルの地形が自動的に記録されるというものです。あと、やはり1000ポイントで監視及び観測用のドローンが交換出来ます』
「そのドローンがあったら、上空からの映像が見られる?」
『もちろんです。また、監視モードにしておけば、タケルへ接近するものを感知し、警告を発してくれます』
「それ! それが欲しい! ポイントを稼ぐには、どうしたらいい?」
『まずは、植物や小動物、それに土壌等のサンプルを集めていただきましょうか』
「ラジャー!」
オレは第1目標をハンドガンからドローンに変更すると、猛然と周囲の植物の採集を始めた。
種類の違う植物があれば、片っ端から掘り返し、ウズメさんに送りつける。なお、転送はオレの体内の亜空間通信デバイスによって、行われた。
手で触れるだけで飛んで行ってしまうのだから、便利なシステムだ。なお、亜空間を使った転送は、意識を持った知性体には使えないらしい。
「で、植物1種類につき、ポイントはいくつ入ってるの?」
『10ポイントです』
「ぐ・・・」
ウズメさんの答えを聞いてめげそうになったけど、10種類集めれば100ポイントになる訳だ。それを思えば、手近な植物だけでも、そこそこ稼げることになる。
オレは少しずつ移動しながら、次々と植物を転送させて行った。
「お。木が生えてるぞ」
いかにも若木っぽい灌木を見つけ、走り寄るオレ。
「これも、根っこから掘り起こした方がいい?」
『出来れば、そうですね。無理でしたら、幹か枝から切ってもらって構いませんよ』
「もちろん、やり方によってポイントは変わるよね?」
『その通りです』
「ですよねー」
オレは最初から支給されていた背嚢の中に、頑丈そうなサバイバルナイフを見つけ、ザクザクと灌木の根元を掘り始める。
背嚢の中には、他にも便利そうなグッズが入っていたけど、チェックはまた後だ。
土を掘っていると、ミミズやムカデみたいな小動物も姿を現して来た。
「お、ポイント、ポイント」
虫程度なら問題なく亜空間転送出来るので、ホイホイとウズメさんに送りつける。
なんとか灌木を根っこから引き抜き、転送を完了したところで一度休憩。
「今、ポイントはいくつになった?」
『680ポイントです』
「おー、稼げるもんだねー。なんとか明るいうちに1000いけるかな」
背嚢と一緒にあった水袋に直接口を付け、水を飲む。
「あれ? 水が冷えてる」
『見た目は動物の膀胱で作った水袋に似せていますが、保温と浄水機能を備えています。表面には特殊なコーティングがされていますので、そう簡単に破れることもありません』
「なんという便利グッズ・・・」
背嚢の中には、ブロック状に加工された栄養食品もあったので、口に放り込んでおく。
ついでに、背嚢の中身を点検。
「ふむふむ。これは? あ、テントか」
驚く程コンパクトに畳まれた1人用テントが、ワンタッチで組み上がる。中に入ってみると、スイッチ1つで4本の支柱が発光する上、びっくりすることに超薄型のエアコンが布地に貼りついていた。
「おお、未来的! でも、電源はどうなってるんだ?」
『背嚢の布地が光発電機能を持っており、背嚢内の物が自動で充電されるようになっております』
「ほほー」
あらかじめ用意されている物は、どれも外見はこの惑星の文明レベルに合わせていながら、中身は51世紀の超科学技術が散りばめられている様だ。テントも、外見的には大きな葉っぱを張り合わせた物にしか見えない。
「じゃあこの剣も、実は高周波ブレードになってたり?」
『刃こぼれしにくく、切れ味が落ちにくいコーティングは、されています』
「それだけ?」
『それだけです』
オレは黙って、また植物採集に戻った。