表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/25

大学都市アガシャ

 蜘蛛型戦車ことクモは、どうやら本物の巨大蜘蛛の身体を改造して、大型の魔槍を取り付けた上で、人間が乗り込める戦車として利用しているらしかった。

 その1台のハッチを探り当て、中を覗くと、2人の革鎧姿の女性が、意識を失っていた。1人は操縦士で、もう1人は射撃士なのだろうか。片側の脚を4本とも吹っ飛ばしたせいで、3メートル近い高さから横倒しになり、そのショックで気を失ってしまったのだろう。


 全てのクモを調べると、やはり2人ずつの人員が乗っていた。

 意識のある者は麻痺銃で眠らせ、とりあえず全員をクモから引っ張り出す。

『巨大生物の肉体を改造して利用する技術とは、興味深いですね。戦車には25000ポイント出しましょう』

 ウズメさんが太っ腹な発言をしてくれるものだから、ホイホイと全てのクモを転送していく。問答無用でオレを殺そうとしてくれたんだから、これぐらいは許してもらおう。


 6台のクモを回収し終わると、オレはアイシス嬢のパワードスーツを調べにかかった。

 麻痺銃の効果の持続時間は、平均20分。急がないといけない。アイシス嬢なら、もっと早く肉体機能を取り戻しそうだ。その前に、パワードスーツをいただかねば!

『パワードスーツのポイントは、18000ですよ~』

 ウズメさんが急かす急かす。

 分かったから、もうちょっと待って!


 まずは、パワードスーツをアイシス嬢から脱がせる必要がある。

 てか、パワードスーツという言い方をしているが、抵抗があるな。ファンタジーな世界観がぶち壊しだ。

 実際のところ、パワードスーツは美麗な金属鎧にしか見えない。真っ白な地肌に金色の象嵌(ぞうがん)が施され、美術品としても通用しそうな美しさである。

 胴体、そして肩から肘まで、股関節から膝までは、普通の鎧とあまり変わらない大きさ。それに比して、肘から先、膝から先が、とても大きくなっている。


 胴体部が普通の鎧と同じ大きさなのは、人間が着て操作する必要があるからだろう。中の人間と関節の位置が合っていなければ、手足を動かす事も出来なくなってしまう。

 頭部はアイシス嬢が剥き出しになっているが、頭部を守るヘルメット状のパーツもあって、それはすぐ近くに転がっていた。

「つまり、ばらせるんだよな・・・」

 金属鎧の脱がせ方なんか知らないぞ。愚痴りながら、パワードスーツの表面をいじくり回す。


 そうしているうちに、肩の装甲が外側にスライドするのに気づいた。肩を開くと、アイシス嬢の身体を引きずり出せそうだ。

「って、これって・・・!」

『裸ですね』

 パワードスーツの中に手を突っ込み、アイシス嬢の脇に手を回して引き抜いてみたら、アイシス嬢はなぜか素っ裸だった。やはり不自然なほどに白い肌と、意外に豊かな胸。オレの心臓が激しく高鳴る。


『パワードスーツを操作するには、皮膚から直接信号を伝える必要があるのかも知れません』

 そう言われてみると、パワードスーツの内壁は、生体組織を思わせる柔らかな素材になっていた。

「それはそうと、裸のまま置いてはおけないよな」

「だったら、魔動鎧の背中の収納部に私の服が入っている。それだけでも、残しておいてくれないか?」

「ああ、なるほど。確かに服や剣が入ってるね・・・って、おい! 起きてたのか!?」


 涼やかな声に思わず当たり前に返事をしてしまったオレだったが、声の主はアイシス嬢だった。まだ身体が自由にならないのか、鋭い視線だけをこちらに向けている。

 自分の裸の肢体が無防備にさらされている件について、大いに言いたい事がある筈だ。ごめんなさい。

 オレは慌てて収納部の服を取り出すと、アイシス嬢の身体にかけた。ついでに、剣も置いておく。


「良いのか、武器まで返してくれて?」

「剣もなしに街まで戻るのは、危ないだろう?」

「ほお。私たちの身を気遣ってくれるのか? お前を殺そうとした相手なのに」

「殺されかかった事は腹立たしいけど、あんたたちはこの辺りの治安維持に貢献してて、街の人たちにも信用されてるんだろ? そんな組織を潰す訳にはいかないよ。

 でも、腹は立っているので、これはもらっていくけどね」


 オレが手を触れると、アイシス嬢のパワードスーツ――――魔動鎧が音もなく消え去った。アイシス嬢が驚きの表情を見せる。

「それは魔法か? 呪文も唱えず、魔法円も顕現させずに・・・」

「もうすぐ、身体は動くようになる。あんたの部下たちも同じだ。ユニコーンも含めて全員無事だから、安心してくれていい」

 アイシス嬢の疑問には答えず、言いたい事だけを言い切ると、オレは姿を消した。





『美しい隊長相手に、ポイントを稼ぐチャンスでしたのに』

「それは、身動き出来ない女性を手込めにしろって事か? 仮にもウズメさんは女性型のAIだろうに、よくそんな事が言えるよな」

『私には、不必要な倫理観はありませんので』

「こえーよ! 絶対、ウズメさんの言いなりにはなれないわ!」

『剣を向けられてまで、不殺にこだわる気が知れませんが』

「別に不殺にこだわってる訳じゃないよ。必要のない殺しは、したくないだけさ」

『必要、不必要のラインを、はっきりさせていただきたいですね』

「はいはい、そのうちねー」


 ウズメさんの小言を聞きながら、オレは大学都市アガシャに向けて走っていた。

 白聖騎士団には、まだユニコーンが残っているのだ。後を追われれば、簡単に捕捉されてしまう。もう一戦やるのは馬鹿らしいし、追いつかれる前にアガシャに潜り込みたいところだ。

 Ⅱまで上げた忍術スキルを駆使し、オレは先を急ぐ。

 ステルスマントで身を隠したまま小一時間も走ると、やがてアガシャの街が見えてきた。


「これは、美しいな」

 街道からアガシャの街を眺め、オレは感嘆の声を漏らす。

 アガシャは、巨大な湖の中にある島を城壁で囲って造られた都市だったのだ。もちろん、先にド・ローン之介によって偵察済みだったのだが、実際に目にした時のインパクトは、カメラ越しで見た印象をはるかに上回っていた。

 青い水面に浮かぶ真っ白な城塞都市。その完璧な佇まいは、絵葉書にしたいぐらいだ。


 湖岸からアガシャまでは、300メートルほどの1本の橋のみによって結ばれていた。

 少なくとも、陸上から攻め込むのは難しいだろう。

 大角山羊の引く箱車が4台並んで通れそうな橋の上には、街への入場手続きを待つ人たちの列が作られている。城壁は橋の両側に大きくせり出していて、人々の列を3方から囲む形になっていた。街門を破ろうとする者は、3方向から弓矢や魔槍で狙い撃ちにされる訳である。


 オレはステルスマントで姿を消したまま、入場を待つ人たちの先頭に向かう。

 そこには10人を超える兵士がおり、入場しようとする人たちの荷物を改め、その種類や量によってお金を徴収していた。同時に入場者の人相や風体にも目を光らせ、不審者を選別している様だ。

 しかし基本は、規定のお金さえ払えば、街に入れるらしい。各人の身元を証明する手形や書類等は存在しない様なので、何も身元を保証する物を持たないオレでも、街で不審者認定される心配はないだろう。


 オレは申し訳なく思いながら、姿を消したままで街門を突破した。

 ガーツ氏に釣り竿を売ったお金で、入場料ぐらいは払えたのだが、列に並んでいる間に、白聖騎士団の人間に追いつかれたくなかったのである。

 そして。

 街門の中に広がっていたのは、石造りの真っ白な街並みだ。

 さすがに石畳は土の色に汚れているが、2階建て、3階建ての建物は、眩しいほどに白い。


『大理石の一種の様ですね』

 大理石? 大理石って、黒い模様が入ってるんじゃないの?

『真っ白な大理石もありますよ? ちょっと、その辺りの壁を削っていただければ・・・』

 そのうちな。人目のない所があれば、やってみるよ。

 とりあえず騎士団に目撃された服を、どこかで着替える事にしよう。

 

 オレは姿を消したまま、白い街に足を踏み出して行った。





  ○アメノ・タケル


◇所持ポイント:66436


◇スキル:【剣術】Ⅱ 【格闘術】Ⅰ 【射撃】Ⅱ 【忍術】Ⅱ 【サバイバル】Ⅰ 【再生】Ⅰ 【マップ】Ⅰ 【レーダー】Ⅰ 【立体映像】Ⅰ 【立体音響】Ⅰ 【ガイリーン地方公用語】Ⅰ


◇アイテム:【偵察用ドローン】×2 【護衛用ドローン】×1 【転送用ドローン】×1 【シャモーの剣】×1 【ハンドガン】×1 【麻痺銃】×1【対物ライフル】×1 【ステルスマント】×1


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ