一息吐きながら
『ずいぶんな大物ですね。ポイントは、15000にしましょうか』
「お、そんなに?」
オレは、目の前で力尽きた怪生物に手を触れると、ウズメさんに送りつけた。
「じゃあ、早速ポイント交換したいんだけど」
『15000ポイントでは、さほど強力な武器と交換は出来ませんね。残り4体を合わせて20000ポイントオーバーでしたら、ロケットランチャーがありますが』
なぜか、ウズメさんはオレを武闘派にしたいらしい。ばんばん大型の生物を倒して、貴重なサンプルを集めて来いって事だろうか。
「いや、また別のドローンを――――」
『は!?』
ウズメさんが、明らかに不機嫌な声を出した。
「ほ、ほら、て、転送用のドローンをさ・・・」
なぜか、しどろもどろになってしまうオレ。
『亜空間転送装置付きのドローンですか? 12000ポイントいただきますよ?』
「た、高いな」
『それは、亜空間を利用する技術は、51世紀でもまだ発展途上な分野ですからね。手軽に放出する訳にはいきません』
「でも、ライフルとかで遠距離の敵を倒しても、オレ自身がそこに行かないとサンプル回収を出来ないのは、効率が悪いだろ?」
『ご心配なく。ポイント交換しないとは言ってませんから』
ウズメさんが渋々という感じで送ってくれたドローンをド・ローン太夫と命名し、早速残り4体の怪生物の死体を回収させてみる。
結果は上々。湖に沈みかけている死体もあったので、わざわざオレ自身が湖に入らなくて済んだのは、とてもありがたい。
普段は、ド・ローン太夫にもド・ローン子ちゃんと組んで周辺警戒をやらせておけば、オレの生存率も上がる事だろう。
その日は、時間は早いけど湖畔にテントを張って、寛ぐ事にした。ド・ローン太郎のピラミッド探索が終わっていないので、それを待つという意味もあるけど、湖の綺麗な光景を見て、のんびりしたくなったのだ。
「ウズメさん、釣り竿はある?」
『単分子カーボンの――――』
「いやいや、この惑星で手に入る素材でできたのがいいんだ。リールもいらないし」
『つまり、竹の竿に、馬の尻尾の毛の釣り糸が良いと?』
「その通り」
そして、ウズメさんはぼやきながらも、古式ゆかしい釣り竿を作り上げてくれた。交換ポイントは300。竹も馬の尻尾もなかったので、オレが採集した植物の中の竹っぽい物と、カモシカの毛を紡いだ糸で代用したとの事だ。釣り針は、質が悪いものの金属製。餌の代わりは、木製の海老を模した擬似餌。それらが10セット付きである。
『こんなポイントの無駄使いを・・・』
ウズメさんが何か言っているが、きっぱり無視だ。
湖の岸に立つと、釣りを開始。
ついさっきまで、体長10メートルの怪生物が5体もうろついていただけに、魚はかからないかと心配したけど、思いの外すぐに食いついてきた。
「おっ、来た!」
竿のしなりを利用して引き上げると、釣れたのは、日本の渓流に普通にいそうな魚だ。ウグイっぽいかな。よく知らないけど。
とりあえず、1匹目の釣果は、ウズメさんに献上する。毒だの寄生虫だのの有無を調べてもらうためだ。
その1匹が無害だとしても、この後に釣れる魚の全てが無害だという事にはならないが、最低限の目安にはなるだろう。少なくとも、最初の1匹が毒を持っていたり、寄生虫をわんさか抱えている様なら、この湖の魚を食べるのは遠慮したいと思う。
『特に、毒はありませんでした。寄生虫も大丈夫です。調理されるなら、内臓はきちっと取り除いて下さい』
「了解!」
ウズメさんの検査結果が出たところで、オレは本格的に釣りに取りかかった。
現実には数える程しか釣りをした事はないけれど、オンラインゲームの中では、新しいエリアに踏み込むごとに釣りをしては、何が釣れるか楽しんでいたのだ。ゲームの気分そのままに、ワクワクしてしまう。
と言っても、ゲームと現実は違う。
わざと釣り竿も原始的なものにしたせいもあり、その後釣れたのはウグイっぽいのが2匹だけだった。
それでも、食べるには十分だ。
焚き火を作ると、ウグイ(仮)の鱗と内臓を取り、拾った木の枝を口から刺して、塩焼きにしてみる。
サバイバルスキルのおかげで最低限の知識はあるので、初めての野外料理ではあったけど、まあまあ上手く焼けた様だ。
熱々のウグイ(仮)はホクホクで、塩味が効き、とても美味かった。
お腹がいっぱいになるとテントの中で横になり、ド・ローン太郎のピラミッド探索の映像を検証。
ピラミッドの中は真っ暗だったが、誰もいる様子がなかったので、煌々とライトを照らしながら探索をした様だ。実際、石造りの壁面には、あちこちに文字や絵が残されており、暗視装置による映像だけでは、それらを満足に読み取れなかったであろう。
しかし、せっかく綺麗な映像が撮れても、オレの頭の中にある言語知識では、その文字を全く解読出来なかった。
「これ、ウズメさんには読めるの?」
『読めますよ。タケルも、ガイリーン地方公用語のスキルレベルを上げるか、別の言語スキルを取れば、読める様になるかも知れませんね』
「むう。でも、言語スキルは必要に迫られない限り、取る気にはなれないなぁ」
『私としても、今は戦闘用スキルや武器にポイントを使っていただきたく思います』
「ウズメさんは、ブレないねぇ」
結局、ピラミッドの中には宝物もなかったので、ド・ローン太郎を引き上げさせる事にした。
収穫は、壁に書かれた膨大な文字と絵だけだ。オレには無意味なものだったけど、ウズメさんにはそれなりに役に立ったんじゃないだろうか。
ピラミッドの外では、タジルを初めとして村中の人間が鉄甲蟹の死骸の後始末を行っていた。ミルヒや村長の奥さんの姿も見える。
どうやら、死骸は欠片一つ残さずに村に運ぶ様だ。食料と素材が大量に手に入り、ウハウハなのだろう。皆、とても楽しそうだった。
任務の完了したド・ローン太郎だったが、オレの進路上を大きく蛇行しながら付いて来させる事にする。マップの製作範囲を広くするのと、調べるべき場所がないかを探る為だ。
ド・ローン之介は、オレが進む先を重点に調べさせる予定なので、合わせるとかなりの範囲の調査が出来る筈である。それでも、この惑星の表面積からすると、微々たるものなのだろうけど。
とりあえず、オレはウズメさんのシナリオ通りに大学都市とやらに向かう気でいる。名前からして、知識の収集には都合が良さそうだし、元々大学生だった記憶があるだけに、大学都市という名称に惹かれてしまったのだ。
可愛い女子大生がいっぱいいるといいなぁ。
『大学と言っても、21世紀の日本の大学とは、かなりイメージが違いますよ?』
「えーっ、女子大生はいないの?」
『女子の学生は、いますよ。ただ、年齢は10才程度から50~60才まで大きなバラつきがありますけどね』
「へえ、中学や高校みたいな区切りはなくて、学校即ち大学って事なのかな?」
『そうですね。もっと分かりやすく言えば、個人経営の塾の様なイメージですね。それらが無数に集まった場所が、大学都市です』
「ええっ、そんなの、自分の所属先はどうやって選んだら良いの?」
『そこは各大学ごとに宣伝もしてますし、修学ガイドの様な商いも盛んだそうですから』
「なるほど。行けば、なんとかなるって事か」
横になったままウズメさんと会話をしていたオレは、いつの間にか眠りに落ちていた。
良い夢が見れた。
○アメノ・タケル
◇所持ポイント:9824
◇スキル:【剣術】Ⅱ 【格闘術】Ⅰ 【射撃】Ⅰ 【忍術】Ⅰ 【サバイバル】Ⅰ 【再生】Ⅰ 【マップ】Ⅰ 【レーダー】Ⅰ 【ガイリーン地方公用語】Ⅰ
◇アイテム:【偵察用ドローン】×2 【護衛用ドローン】×1 【転送用ドローン】×1(new) 【シャモーの剣】×1 【ハンドガン】×1 【対物ライフル】×1