ド・ローン太郎とド・ローン子ちゃん
タジルたちと別れてしばらく森を進んだところで、オレは足を止めた。
「ウズメさん、今ポイントはいくつになってる?」
『10094ポイントですね』
「じゃあ、またポイント交換、よろしく」
『はい。どんなものがお望みでしょう?』
「まずは、ド・ローン之介と同じドローンを1機」
『了解しました』
転送されて来たドローンをド・ローン太郎と名づけると、オレはピラミッドの探索に解き放った。
『2機目が“太郎”なのには、何か意味が?』
「いや、なんとなく・・・」
『そうですか・・・』
「あと、護衛向きのドローンって、あるかな?」
『武器を内蔵してるタイプという事で、よろしいですか?』
「うーん、武器は武器でも、非殺傷武器を内蔵してるのが良いなぁ」
『また、めんどくさい事を言いますね。例えば21世紀でいうスタン・グレネードの様な物を使うタイプは、どうですか?』
「夜間なんかに、接近して来るものを追い返せるだけでいいんだ。いちいちスタン・グレネードを使うのは大袈裟だろ? 音波なんかで、そういう事が出来ない?」
『なるほど、分かりました。今から製作しますので、2~3時間待ってもらえますか?』
「そんなに速く作れるんだねー。で、ポイントはいくら必要?」
『特殊な機能を付けますので、5000ポイントですね』
「うわ、高いな。じゃあ、残りは4094ポイントか。剣は、何ポイントで作れる?」
『ああ、タジルさんに剣をあげてしまいましたからね。では、カモシカの角を材料にして、3000ポイントで1振り作りましょう』
「悪いね、ウズメさん」
その場で植物採集をしたりコーヒーを飲んだりしているうちに、新しい剣と護衛用ドローンが仕上がってきた。
剣は、タジルにあげた物より少し長くなった。剣身は白く、質感は骨っぽい。カモシカの角が材料とは思えないぐらいに、ちゃんとした剣の形を成している。
『切れ味も頑丈さも最初の剣に引けを取りませんが、重量は少し軽くなっていますので、取り扱いにご注意下さい』
振ってみると、確かに少し軽い。が、頼りないほどではない。むしろ、攻撃速度が上がりそうだ。
そして、問題の護衛用ドローン――――。
『指向性スピーカーと発光装置を兼ねた、伸縮式のワイヤーアームを4本装備しました。これにより、指向性を持たせた音波と強力な光による撃退、それと映像と音響の三次元的投影が可能となっています』
「映像と音響の三次元的投影って?」
『実際に試してみましょう』
ウズメさんがそう言うと、護衛用ドローンから長さ50センチほどのワイヤーアームが、スルスルと伸びる。
と、オレの目の前に、突然真っ白な猫が出現した。
立体映像。そう分かっていても、本物の猫にしか見えない出来映えである。しかも白猫は、オレの顔を見上げて、可愛く「にゃ~」と鳴いてみせたのだ。
「うわ、映像から鳴き声が聞こえた」
『立体映像と立体音響。すなわち、映像と音響の三次元的投影です』
「なるほど、そういう事か。囮としては、最高だね」
護衛用ドローンをド・ローン子ちゃんと名づけると、オレのすぐ頭の上を飛ばしたまま、移動を開始。いずれ、火器を内蔵したドローンもそろえるべきだろうが、とりあえずド・ローン子ちゃんがいれば、安心して旅が続けられる筈だ。
となれば、ド・ローン之介は、本来の哨戒任務に戻ってもらうべきなのだが、オレは別の任務を指示した。
「ド・ローン之介は、大きな水場を探せ。そう遠くない所に、湖か何かあると思う」
一気に森の上まで上昇し、水場を探し始めるド・ローン之介。
『今日のキャンプは、湖畔の予定ですか?』
「それも良いけど、気になる事があってね」
『と、言いますと?』
「さっきの蟹たち、ちょっと不自然だったろ? 地球の常識に当てはめるべきじゃないかも知れないけど、蟹が大群で移動するのは、産卵の時だ。そして、蟹が卵を産むのは水の中だよね? ピラミッドみたいな石造りの建物を目指す訳がないんだ」
『つまり?』
「つまり、この近くに蟹たちの本来の産卵場がある筈だけど、そこに蟹たちを脅かすものが存在するせいで、蟹たちはピラミッドまで逃げてきたんじゃないかと、そう思ったんだ」
『なかなかの名推理ですが、今はそこに近づこうとしてるのですか? それとも、遠ざかろうとしてるのですか?』
「それは、ド・ローン之介のもたらしてくれる結果によって決めるよ。果たして、対物ライフルが通じるかどうか・・・」
ド・ローン之介が飛び立ってすぐ、蟹の産卵場らしい湖は見つかった。森の中にポツンと存在する、周囲1キロメートルほどの澄んだ青い水をたたえた湖だ。
その水に半身を浸し、岸辺や水中の生き物を貪り食っている怪生物が5体。その大きさは10メートル近く、地球でいうトリケラトプスに似ていた。が、見かけは似ているが、まともな生物とは思えない禍々しい雰囲気を漂わせている。なんだか、ただの穴ぼこの様な虚ろな目をしているのだ。頭部の捻くれた角も、不気味な雰囲気に一役を買っていた。
「いやな感じの生き物だなー。出来れば関わりたくないけど、思いっきり進行方向だしなー」
オレは湖が見通せる位置にまで近づくと、地面に身を伏せ、対物ライフルによる狙撃の態勢に入る。
怪生物まで100メートルも離れていない。この程度の距離で、あんなデカブツに仕掛けるのは、かなり怖い。見通しの悪い森にいるのでなければ、もっと遠距離から狙い撃ちしたいところだ。
「対物ライフルの威力を確かめるんなら、せめて半分ぐらいのサイズから始めたかったなー。しかも、5体だもんなー。追いかけられたら、忍術Ⅰで振り切れるかなー」
『慎重過ぎてドローンばかり増やすからですよ。他の惑星の被験者は、もっとイケイケでしたよ』
「強力な武器を先に手に入れたって事?」
『そうです。ハンドミサイルとか』
確かに、いずれ強力な武器も欲しいとは思うけど、元々無差別に狩りを行う気はないのだ。
これが本当のゲームなら、経験値稼ぎにウサギだろうとアルパカだろうと手当たり次第に狩りまくるのだけど、現実である以上、無駄な殺生はしたくない。だから、武器をゲットするのは後回しにして来たのである。
しかし、この怪生物たちを放置すれば、いつまでもピラミッドが蟹や他の生き物に襲われる結果になりかねない。あの村で自分の子どもが生まれる可能性があるのなら、少しでも脅威は減らしておくべきだ。
今も怪生物たちは、湖の蟹や魚を旺盛な食欲で食べまくっている。
湖の生き物を食らい尽くしたら、奴らの獲物は森の生き物となり、やがては村人たちが犠牲者になるに違いない。
一番岸辺に近い個体に狙いを付けると、オレは静かに引き金を引いた。
轟音とともに、怪生物のこめかみに着弾。
弾丸は怪生物の脳髄を粉砕しながら、反対側に抜けていく。
怪生物といえども、脳を破壊されては一溜まりもないらしい。がっくりと膝を折ると、頭部を水中に突っ込んだまま動かなくなった。
おお、さすが対物ライフル! って、21世紀の対物ライフルよりはるかに強い?
「まあ、いいや。奴らに通用するんなら、文句はないや」
仲間の1体が倒れた事に怪訝な様子の他の個体に、照準を移す。
こちらの位置を知られないうちに、1体でも多く倒さねば。
引き金を引く。
2体目が沈む。
照準を移動。
引き金を引く。
3体目が倒れる。
照準を移動。
うわ、残りの2体が動き出した。
こっちに来る!
居場所を気づかれたか。
迫って来る1体に、引き金を引く。
ちっ! 肩に当たった。
ちょっとよろけたところに、もう1発。
眉間に命中。
横倒しになる4体目。
最後の1体に照準。
ち、近い!
1発で仕留められないと、恐らく踏み潰される事になる。
あー、1発撃つごとに、位置を変えるべきだったのかな。
なんて事を考えていられる状況ではない。
怪生物の凶悪そうな顔が、もう目の前だ。
ド・ローン子ちゃん、頼む!!
正面から強烈な光と音を浴びせられ、怪生物の動きが一瞬止まる。
ただ一度きりのチャンス。
オレは、コトリと引き金を引いた。
○アメノ・タケル
◇所持ポイント:1094
◇スキル:【剣術】Ⅱ 【格闘術】Ⅰ 【射撃】Ⅰ 【忍術】Ⅰ 【サバイバル】Ⅰ 【再生】Ⅰ 【マップ】Ⅰ 【レーダー】Ⅰ 【ガイリーン地方公用語】Ⅰ
◇アイテム:【偵察用ドローン】×2(new) 【護衛用ドローン】×1(new) 【シャモーの剣】×1(new) 【ハンドガン】×1 【対物ライフル】×1