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対物ライフル無双

 やたらとデカい対物ライフルが現れたのを見て、思わず硬直しかかるオレ。しかしその一瞬にも、巨大な鉄甲蟹が大挙して押しかけて来る。惚けている場合ではない。

 本来は地面に伏せて、がっちり安定した状態で使うべき対物ライフルを腰だめに構え、一番先頭にいた蟹に向かってぶっ放す。


 ドゴォッ――――!!


 拳銃の発射音が小鳥のさえずりに聞こえそうな轟音の割に、反動はさほど大きくはなかった。

 が、威力もそうかと思ったら、とんでもない。弾丸が命中した蟹の巨体が、バラバラに砕けて吹っ飛んだのだ。それも、1体だけではない。弾丸は数体の巨大蟹を貫き、貫くと同時に凶悪な運動エネルギーを撒き散らし、次々に破壊してしまったのである。


「うひぃ~っ」

 対物ライフルのあまりの威力に、言葉を失うオレ。

 そして、タジルたちは完全に腰を抜かしている。こんな大きな音は、雷ぐらいしか聞いたことがないに違いない。

 それは蟹の方も同じだった様で、一斉に前進を止め、固まってしまっている。

 なんにせよ、チャンスだ。腰だめのまま、対物ライフルを撃ちまくる。


 砕け散る鉄甲蟹の甲羅。

 飛び散る巨大なハサミと脚。

 完全にオーバーキルな威力である。

 サンプルも蟹肉も回収が出来そうにないが、気にしてはいられない。巨大蟹の動きが止まっているうちに、1体でも多く数を減らしておかなければ。


 ドゴォッ――――!!

 バゴン――――!!

 ズガン――――!!

 

 小気味よい反動とともに巨大蟹をぶっ飛ばしていたリズムが、不意に途切れた。引き金が引けなくなったのだ。

「うっ、弾切れ!?」

 装弾数も確認せずに、調子に乗って撃ちまくっていれば、それは弾切れにもなるだろう。元々、口径の大きい対物ライフルの装弾数は、そう多くなかった筈だ。

 巨大蟹の群れを前に、オレはとっさに逡巡してしまった。新たなマガジンを送ってもらうか、拳銃で急場を凌ぐか・・・。

 

 その一瞬に、殺到する巨大蟹たち。

 凶悪なハサミが迫るのを前に、オレに出来たのは後方へ跳び下がる事だけだった。

 が、そんなものでは何の解決にもならない。

 ここが攻めどころだとばかりに、巨大蟹たちが押し寄せて来る。

 オレは、この惑星に降り立ってから、初めて生命の危険に襲われた。頭の中が真っ白になり、次に何をするべきか考えられなくなってしまう。


 そこへ。

 オレの脇をすり抜けて、何者かが前に出たかと思うと、なんと先頭の巨大蟹に槍の穂先を突き立てた。


 ぎぃあー!


 腹部の柔らかい部分を抉られ、悲鳴に似た軋み音を撒き散らす巨大蟹。

 しかし迫り来る鉄甲蟹は、その1体だけではない。動きの止まった仲間の身体を乗り越え、かわしながら、槍の持ち主に襲いかかろうとする。

「おい! 呆けてないで、なんとかしろ!!」

 巨大蟹の群れからオレを守ろうとしたのは、タジルだった。仲間の槍を奪い取り、たった1人で死の軍勢をせき止めようとしたのだ。

 

 オレは空になったマガジンを抜き取ると、即座にウズメさんに転送し、新たな弾丸を要求した。

『対物ライフルの弾丸は、1発につき30ポイント。それが20発で合計600ポイント。マガジンの分の30ポイントは、今送り返してもらった分で相殺されます』

 へえ、この対物ライフルって20発も弾丸が・・・じゃなくて、早く新しいマガジンをちょうだい、ウズメさん!


 転送されて来たマガジンを対物ライフルに装填するや、オレはタジルの周囲の巨大蟹に向けて弾丸をぶっ放した。

 タジルに食いつこうとしていた鉄甲蟹たちが呆気なく爆散。爆散。爆散。一気にタジルが蟹味噌にまみれていく。

「ありがとう、タジル!」

 タジルの前に出ると、改めてオレは鉄甲蟹を殲滅に取りかかった。





 あらかたの鉄甲蟹を狩り終わったところで、オレはやっと一息を吐く。

 ピラミッドの前の広場はバラバラになった巨大な蟹の死骸で埋め尽くされ、生臭い匂いで満たされている。早く処理しないと、他の獣たちが集まって来そうだ。

 この場所を守っていた者たちも無事だったらしく、恐る恐る蟹の死骸を乗り越えながら、立てこもっていたピラミッドの外に出て来た。


「凄ぇな。これ、あんた1人でやったんだぜ?」

 興奮した様子のタジルが、なぜか得意そうに話しかけて来る。結局、最後までオレのそばにいてくれて、オレがさばき切れない蟹を一時的に押し止める役回りを負ってくれたのだ。

「いや、タジルがいなきゃ、オレも危なかったよ」

 オレは腰の剣を鞘ごと抜き取ると、タジルに手渡した。

「良かったら、もらってくれないか? 大した剣じゃないけど、切れ味と頑丈さは悪くない筈だから」


「え、いいのか?」

「ああ。タジルにもらって欲しいんだ」

 その途端、タジルが直立不動の姿勢を取った。そして上体を折り曲げ、両手で押し抱く様に剣を受け取る。

「お、おい、タジル・・・?」

「あんたに決闘を仕掛けたのは、申し訳なかった! あんたがこんなに戦えるとは思わなかったんだ! もし、ミルヒがあんたの子を生むようなら、俺が必ず守り抜く!! この剣にかけて、誓う!!」


「そ、そうか。頼む」

 あまりに真摯な誓いの言葉を不意にぶつけられ、オレは気圧される思いを味わった。

 どうやら、ただ決闘で勝つだけでは不十分だったらしい。鉄甲蟹たちを蹂躙してみせて、初めてタジルはオレを認めてくれたのである。タジルを完膚なきまでに叩きのめせという老婆の言葉は、この事を指していたのだ。

 タジルの信頼を得る為に、蟹の襲撃は僥倖であった。不完全燃焼な決闘の結果のままオレが村を去っていたら、オレの子どもが生まれてもお荷物扱いしかされなかっただろう。





 その後オレは累々と横たわる巨大な蟹の死骸の中を歩き、損傷の少ない物を探し始めた。

 タジルたちが不思議そうに見ているが、少しでも多くのポイントを稼ぐためには気にしていられないのである。

 が、対物ライフルの威力は絶大だった様で、なかなか原形を保った骸は見つけられなかった。

 それでも、しつこく探し続けるオレ。そして、ついに原形を留めた死骸を発見する。


「いや、原形を保ち過ぎだろ・・・」

 その死骸は他の蟹より一回り大きな個体で、腹に弾丸を受けた穴が開いているものの、背中の甲羅には弾丸が抜けた跡が見当たらなかった。対物ライフルの強力な弾丸が、甲羅を貫けずに体内に止まっているらしい。

 もちろん膨大なエネルギーが体内に巻き散らかされたせいで、その蟹は即死状態だ。しかし、甲羅の頑丈さは非科学的な領域に突入していると言える。


「紅鉄蟹だな、それは」

 オレがびっくりしていると、タジルがその正体を教えてくれた。

「鉄甲蟹が長く生きると、そうなるんだ。他の蟹はくすんだ赤色なのに、そいつは鮮やかな赤色をしているだろう? そこまで育つと、魔槍でも歯が立たない。それを一撃で倒すとは、やっぱり凄いな、あんた」

「へえ、そうなのか」

 これは、鉄甲蟹とは別カウントになるのかな?


『はい。鉄甲蟹は5000ポイントでしたが、紅鉄蟹は8000ポイントになります』

 おお、それはありがたい。

 オレは紅鉄蟹の死骸を触ると、ウズメさんに転送した。背後でタジルが息を呑む気配があったが、きっぱりと無視だ。

 他にも紅鉄蟹の死骸がないか探すと、新たに2体見つけられたので、これも回収。2体目からはポイントが10分の1になるが、合わせて9600ポイント獲得になる。うまうま。


 オレはタジルに向かって右手を軽く上げてみせると、この場を離れる事にした。

「行くのか?」

「ああ。世話になった」

「その・・・、良かったら、また来てくれ」

「そうだな。何年先になるか分からないけど、また来るよ」

 褐色の肌の男たちに見送られ、オレは歩き出した。





  ○アメノ・タケル


◇所持ポイント:10094


◇スキル:【剣術】Ⅱ 【格闘術】Ⅰ 【射撃】Ⅰ 【忍術】Ⅰ 【サバイバル】Ⅰ 【再生】Ⅰ 【マップ】Ⅰ 【レーダー】Ⅰ 【ガイリーン地方公用語】Ⅰ


◇アイテム:【偵察用ドローン】×1 【ハンドガン】×1 【対物ライフル】×1

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