SF的なプロローグ
定期的なスランプで、ただいま執筆中の2作品が更新が止まってしまっていますので、苦し紛れに在庫を放出させていただきます(汗)
惑星【NMB855007Ebaa】
メモリーに記録された【地球】を思わせる、青く美しい惑星である。
移民用宇宙船から先行して、この惑星に到達した支援用AI【UZ-UME7707】は衛星軌道上に止まり、50基に及ぶ観測衛星と無数のドローンによって、5年に渡って惑星の調査を行って来た。
地表には秘密裏に資源採掘施設と加工施設が建造され、順調に稼働し続けている。
本来の計画に従うなら、ここで第1期30名の先行偵察兵を解き放ち、来る移民用宇宙船の到着に備えて、大量の移民の受け入れ準備に入る筈であった。
が、計画を根底から覆すアクシデントが発生してしまう。
50年遅れでこの惑星に向かっていた移民用宇宙船が原因不明のトラブルにより、大きく軌道を外れてしまったのだ。
まだ減速態勢に入っていなかった移民船は光速の40%もの速度で航行中で、ほんの僅かでも軌道をそれてしまうと、それをリカバリーするには膨大な時間とエネルギーが必要となる。
そして、トラブルによって生じた軌道のズレはあまりに大きく、それはリカバリーが不可能だという事を意味していた。
つまり、移民船はこの惑星に来ないのだ。
既存文明の征服、場合によっては絶滅さえ考慮に入れていた計画は、当然のごとく凍結される事になった。
代わりに発動されたのは、平均的能力者の異星文明への適応実験である。
元々の計画は、能力的に非常に優れた者たちがチームを組み、ありとあらゆる科学的装備を駆使して、事に当たるものであった。
しかし実際に発動された適応実験では、ごく平凡な遺伝子情報を持った被験者が1人きり。
与えられる装備も最低限な物だけ。
被験者は支援用AIの助言を受けながらも、たった1人で異星文明に関わっていかねばならないのである。
その際に懸念されるのは、被験者本人のモチベーションの維持だ。被験者が序盤で挫けてしまったり、小さな社会への適応で満足してしまっては、そこで実験が停止してしまうのである。
そこで採用されたのが、ゲーム風味の導入であった。
被験者が有用な情報を入手するごとにポイントを与え、そのポイントと交換で様々な装備や能力を与える事にしたのである。ゲーム特有の達成感や収集欲の満足感に期待をしたのだ。
ゲーム風味の導入が決まれば、理想的な被験者像も絞られてくる。ゲームに慣れ親しみ、楽しむと同時にゲームへの探究を怠らない者。選ばれたのは、21世紀の日本人の青年であった。
もちろん、21世紀の日本人がそのまま連れて来られる訳ではない。当時に採集された遺伝子情報を元に、人間1人を丸々作り出すのである。
地上に建設された施設にある培養ポッドの中で目を閉じているのは、身長175センチ、痩せ型で黒髪の日本人青年。容貌、頭脳、身体能力、全てにおいて平々凡々な人間である。
現在の20才相当の状態まで成長させるのに、約2年の時間を要した。
体内のナノマシーン製造並びに制御用デバイスも正常に稼働しており、まもなく培養ポッドから出て来るところである。
培養された青年が期待通りの性質を持っているかは、青年の行動を見ながら判断するしかない。駄目ならば、また新たな被験者が選ばれ、培養されるだけだ。
この惑星の文明レベルに合わせた服や道具は、揃っている。
ドローン等による調査で収集された、この地方の言語や基本的な知識も、青年のメモリーにダウンロード済みだ。
青年が降り立つ予定の場所も選定され、すでに現地では10機のドローンが観測と記録を開始している。
『さあ、行ってらっしゃい。そして、楽しんで来なさい』
今、青年を主人公とするゲームが始まった。
次話も、チェックが完了次第、投稿いたします。