弱虫の反撃~終~
二人の反撃。
――私は、弱虫だ。
翔馬との旅をして、外の世界をみて、自分のいる場所だけが全てではないと、視野を広げれば沢山の人がいて、いろんな人をみて…
きっと、辛いのは私だけじゃないと、そう思えた。
だが、現実と言う怪物はそんなに甘いものではなくて、そんな育てた気持ちさえも簡単にその大きな口で食べてしまおうとする。
そうされないように、必死に守ろうと考えて、そのまま気づかないうちに…いつのまにか食べられてしまっているのだ。
食べられたことにすら気づかないように、それは上手に。
私は、羽太くんを必死に助けようと考えた。だけど、考え付くよりも速く、世界は動いてしまう。
思い付いたときには、もう既に後手になっていて…それでも、デリケートな話だから、羽太くんに聞いて、確信を持たなければと、後をつけてみた。
案の定、出来事は最悪の状態だと言うことを知る。だけど、そこではまだ、少しは勇気があった。前に出張り、私の弟に何をすのかと、そう…言えたのに…。
相手側に知人がいて、そして電話番号を知られていた事に驚いて、いろんな事が頭を駆け巡り、それは彼らと別れた後、ただの恐怖から"未知の恐怖"へと変わったのだ。
羽太くんは、私を庇い傷ついてしまった。そのせいで、家族の電話番号を盗られた…。私が今、頑張って目指す"仲の良い家族"への一歩を踏み出した矢先に、羽太くんだけでなく、他の家族にまで私のせいで迷惑がかかるかもしれない。
そうなれば、いつかは翔馬や、リサちゃんにも…
そう思うと、怖くて、怖くて仕方がなくなってしまう。
そんな時だ、翔馬から電話があり今北海道についたと言われた。
身勝手な私は、まだ何も変われていないのにと、まだ何も自分一人でなしとげていないのに…と、始めは自分から相談したにも関わらず、翔馬の事を突き放した。
もちろん、言い方は考えたが…聞いた本人は決して良い気持ちではなかったはずだ。それでも、私は自分は変われるのだと信じたかった。
だから、人に手を借りるとまた甘えているみたいで嫌だったのだ。
そのあとは、今後どうするかを考えて、出もしない答えをただただ、なにするでもなく、ベッドに横になりずっと待った。
そんな事で答えなど出るはずもなく、無意味に悲しみ、涙を流してまた一日を終えようとしていた…。眠る前にお風呂に入ろうと、部屋を出る。羽太くんの部屋には灯りはない。
そして、お風呂に入り…出てみると、なにやら玄関が騒がしい。
ふと、その玄関に目を向ける。
麻衣子さん、お父さんの背中…二人の真ん中の隙間から羽太くんが見える…そして、その奥に会いたいのに会いたくない人物。
私は驚いて一瞬、自分の目の前のそれが夢ではないかと疑った。
すると、その人物が私をみていることに気づく。私はあえていつも通り羽太くんにおかえりを言って、そのあとあたかも今気づきましたと言わんばかりのリアクションをとる。
「え…翔…馬…?」
彼は少しだけ罰の悪そうな顔をする。
それからいろいろあって家に翔馬が上がる。とりあえず横に腰かけて…お父さんや翔馬の会話を聞く。でも私は正直心ここにあらず…と言った状態だった。翔馬まで来てしまったからこそ、いよいよどうしたらいいのかわからなくなってしまって…と、翔馬がこんな事を言い出す。
「その、優愛さんとの旅を得て、少し時間が空きましたが、片時も優愛さんの事を考えない日はなかったかもしれません…ちょこちょこ連絡はしていたのですが、いろいろ考えて、優愛さんに直接会いたくなって、側にいたくて、俺はやってきました。」
あまりにも突拍子もない発言に、ここに無かったはずの心が、引き戻され、私は翔馬の方を向く。そしてその言葉の意味を頭で追いかけていくと、だんだんと顔が熱くなる。
言いたい事が出てこないほど胸が高なり、久しぶりに"いじめ"以外の事で頭の中がいっぱいになる。そのあとはあまり覚えていないが…恥ずかしくてすぐに部屋を出てしまったのは覚えている。
部屋に戻り、冷静になると…またあの事を考える時間がやって来る。私はベッドの横に腰を下ろし体育座りをして考え事に集中する。
考え事…いや、違う。ただくよくよと悩む作業だ。答えを導きだす術がわからない。だした所で一人なんかじゃできない。親に心配かけたくない。もちろん翔馬にも…でも…
"助けてはほしい。"
とんだ我が儘女だ、私は…一人で解決はしたいが、迷惑はかけたくない。おまけに翔馬には助けてほしいのだ。また性懲りもなく涙を流す。
その時だった――
ドアがノックされる。私は黙ってうつ向いたまま返事はしない。泣いてるのがバレてしまうし、その理由を聞かれても面倒だからだ。そして、なにか聞こえたと思うと部屋のドアが開かれた。
入ってきたのは翔馬だ。私の前に座り、何かを言っているのだけど、頭に入ってこない…
「なんで…来ちゃったの…?」
私の問いかけに彼は悲しそうな顔をするだろう。私はとても意地悪だ。それでも相手の顔を見ることさえしない、傷つけた相手の顔をみるのが怖いのだ。
塞ぎ混んで、目を張らして…相手の言葉さえ理解しようとせず…一人でなんとかしようって…
がんばんなくちゃって…
私が…
「わたっ…しっ…が…家族を守るんだって…っ! そうしなくちゃって…っ! でも、ぜんっぜ…んうっ…うまっく…いかなくっ…うって…」
気づいたときには言葉が声に代わり、心を…全部吐き出し始めていた。―――
―――辛かったのだ。優愛は…
急に話始めた彼女は、その言葉を何度も、何度も…涙をぬぐいながら繋いでいく。俺が見てきた彼女のどの涙とも違う【後悔】の涙だ。
俺は、優愛の吐き出す言葉を受け止めることしかできない。
「だかっら…! しょ…翔馬にもっ…!迷惑とか! かけたくなく…うっ…ううっ…て、まだっ…会えない…って…ううっ…!」
ぽたぽたと、部屋のカーペットは濡れていく。
彼女の行き場をなくした頑張りが、瞼からあふれこぼれていく。
「わたっしっ…!」
優愛がこちらに顔をあげた瞬間、俺は優愛を抱き寄せる。
「―!?」
「もういいよ、もういい。よくがんばったな、本当に…もう充分だよ。その涙だけで、どれだけおまえが頑張ったかよくわかるから」
「わかんないよぉおお…っ!」
「わかるよ、わかってみせるよ。"大丈夫"だから。」
俺はゆっくりとその震える背中を撫でる。
――人なんて、みんな弱虫なのだ。
俺だってそうだ。毎日にビビッて、ビビッて、ビビりまくって、それでも歯をくいしばって、地に足ついて、たまに身を寄せあって
必死になって生きている。
そして崩れそうなときに手をかしあうのだ。
そう、この素晴らしく不条理と理不尽に溢れた世界にたいして、"弱虫が反撃"をするために――。
それから、どれくらいそうしたのか、少し落ち着いて、鼻をすする優愛に俺は話をする。
「昔さ、ドラマで教師がさ…人と言う字はって…」
「知ってる…聞いたことある…」
「ははは、だよな。」
俺はそう言いながら、抱き寄せていた優愛から離れようとすると、今度は優愛が俺をギュッと強く抱き締めてくる。
「おおっ…どうした…?」
「今離れちゃヤダ…」
「…なんで?」
「顔…」
「顔…?」
「うん…涙とか鼻水でグチャグチャだし…あ、ちょっと服についたかも…ふふ」
「うぉい! マジでか!?」
慌てる俺に、優愛は少しだけ笑う。だが、抱き締めるその手をゆるめはしない。
「翔馬…お願いがあるの…こんな事までしといて、その…都合が良いんだけど…」
「まかせろ。」
「ふふふ、まだ何も言ってないよ」
「そうか、なら言ってくれ」
「なにそれもう、台無し! ふふふ…」
優愛はゆっくりと深呼吸をしてこう言う。
「助けてほしいことがあるの…」
だから、俺は答える。
「さっきのタイムリープした返事聞いてなかったのか?まあ、何度でも言うよ。まかせろ」
【日本一周の旅にでたら、家出少女ひろった!!】
側にいるからって怖いがなくなるわけじゃない。それでも、一人よりはきっと二人の方が勇気は倍になるはずだ。
次回 【大人の対応】
またみてね❗(´・ω・`)✨きゅぴーん




