弱虫の反撃⑲
気持ちの交錯、顔を出した感情。
向き合うべき環境と決意。
おかしい。明らかに告白みたいになってしまっている。
そう考えた瞬間から、一気に優愛を意識しだし、顔を紅くしている彼女をまっすぐに見られない自分に気づく。
(なんか、無性に恥ずかしいんですが…)
優愛は俺から目線をそらし、恥ずかしそうに下を向いてしまう。ってこんなことしに来たんじゃない! 俺は自分の気持ちのやり場が見つからず、それを隠すように本題を考える事にする。もともと、優愛の問題を解決する手助けにきたのだ。しかし、話の流れから、完全に家族サイドからの俺は、"優愛が恋しくて会いに来た男の子"で…
「こほん…!」
と優愛のお父さんが咳払いをして、
「あー、まあなんだ…別に反対とかはしないが、その…なんだ…その、あれだ…」
と煮えきらない感じの言葉を続け、ようやく
「学生に相応しい付き合いかたをしなさい」
と、言われる。…優愛の返事を聞いたりだとか、俺の気持ちの確認だとか、なんか曖昧なまま"ご家族様公認"になってしまう。…というか、優愛よ…このままでは本当に俺が彼氏みたいな扱いになってしまうぞ!大丈夫なのか! おまえはそれでいいのか!?
と考えていると、晩御飯は食べたのかと聞かれ、俺は首を降る。すると、麻衣子さんは台所へと向かい、冷蔵庫から何かを出すと、暖め始めた。
すると、カレーの匂いがしてくる。そしてソレを温めるその姿をみて、小さい頃の記憶が、少しだけ蘇る。――
『翔馬、今日はなに食べたい?』
『カレー!』
『ふふふ! カレーは昨日食べたじゃない』
『俺、お母さんのカレー好きだもん!』
『あら~! 可愛いこと言って! あなた、翔馬にジュースあげて!』
『いや、なんでだよ。あんまり甘やかすなよ?』
『ぶー!いいじゃない、ねえ?』
『ねえー!』――
そして、コトン。とテーブルにカレーが出てくる。
「あまりもので、ごめんなさいなんだけど」
と、麻衣子さんが言う。俺は、我に返り「いえ、ありがとうございます」と言ってそのカレーを食べる。羽太もいつのまにやら席を離れた優愛のお父さんのところへと腰かけて、ご飯をまつ。
そして、羽太もカレーをよそってもらい、食べ始める。それから食事を終えた俺はお風呂までいただいてしまい…
羽太の部屋で漫画を…
「っておかしいだろ!」
「わっ、どうしたんですか」
「いや、どうしたって…違うだろ。俺は、こんなことしに来たんじゃないんだよ! なんかすげえ普通に友人の家に泊まりに来ました。 みたいなってるじゃん! 」
「た、確かに…」
あの後、俺がご飯食べたり、風呂をいただいている間に優愛も部屋へと戻り、まともに話ができないまま時間だけが過ぎた形となってしまっていた。
「……。」
考え込んでいる俺の姿をみて、羽太は俺に優愛の部屋へ行くことを提案してくる。しかし、あんな事があった後だと行きづらい…と言うか、変に父親を意識してしまい、行っていいのだろうか?とすら、考えてしまう。
「行ってもいいと思うか?」
俺の唐突な質問に羽太は少し考え、
「大丈夫だと思いますよ。それに、たぶん行かないと話も出来ないでしょうし…」
「…まあ、そうなんだけどさ」
そう言う羽太に、俺は言葉で背中を押される感じで部屋を出る。部屋を出ると、食器を洗う音だろうか?下からカチャカチャと音が聞こえる。一瞬、そんなことを気にしながら優愛の部屋へ前へ
かるくノックをする。返事はない。
俺は「開けていいか?」と聞いてみる。やはり、返事はなく、聞き耳をたてると、スン、スンと鼻をすする音が聞こえる。俺は少しだけ迷うが、部屋のドアを開ける。――
中にはベッドのしたに体育座りをして膝におでこをつけ、真っ暗な部屋で独り、泣いている優愛がいた。
その姿をみた瞬間に、俺は…ああ、そうだった。と、暖かい家庭とちょっとした雑談なんかで隠れてしまっていたが、本当に今こいつは、心が苦しくて、苦しくて仕方なかったのだと実感する。
そんなことにも気づかずに、ただただ、リビングで装っていた平気なフリを無意識にうのみにして、それを"今ある安寧"だと勝手に決めつけてしまっていた。
俺は、肩を揺らす優愛にかける言葉を探すが見当たらず、とりあえず
「その…ごめんな」
と言う謝罪の言葉が口をついて出てくる。
その言葉にも、何も返ってはこない。俺は優愛の前に屈むと、ゆっくりと話しを始める。
「勝手に来て、ごめん。その…さっきも、なんも言えなくて、全然おまえの事わかってないって言うかさ…」
ここまで言って、自分がいかに調子に乗っていたのか思いしる。自分が行けば喜んでくれる"はず"だ。自分が行けば、何かしらの力になれる"はず"だ。自分が行けば…考えれば考えるほど【後悔】を積み上げていく。今俺にできるのはその後悔に飲み込まれないように、しっかりと自分を持ち、来てしまったからこそ自分のやれることに向きあわなければならない。だから、言葉を繋ぐ。必死に
「おまえがさ、優愛が今は会えないって言ったのをただの強がりだって勝手に決めちまってさ、俺は…その…独りよがりだったって言うか…押し掛けてきてしまったって言うか…」
人によく、くさい事を言うと言われたが、大事なときにかぎって、気のきいた台詞も出てきはしない。俺が言葉に詰まっていると、優愛が口を開く。
「なんで…来ちゃったの…?」
言葉が胸に刺さる。
「いや、ほら…何か…力になれるかもって、電話で頼まれてもいたしさ…」
――嘘だ。
会いたかった。側にいたかった。力になりたかった。役に立ちかった。どれも本当で、どれも嘘だ。単純に優愛に関わりたかった…ありがとうと言われたかった。頼りになるなって思われたかった。会いたいと思われたかった。側にいたいと思われたかった。
同じ気持ちでいてほしかった。
全部自分主義のバカ野郎な気持ちの押し付けだ。
そんな事はわかっていても…後悔をいくらしても、俺はこの少女に、あの旅でみた笑顔を無くしてほしくないと、また笑ってほしいと、そう思う。
何故なら俺は――
この、宮崎 優愛 と言う少女の事が
"好き"だからだ。
【日本一周の旅にでたら、家出少女ひろった!!】
次回、弱虫の反撃~終~
この章の次の章が最終章となります。
ラストスパートだぜ。
またみてね❗(´・ω・`)✨きゅぴーん




