弱虫の反撃⑨
揺らぐ思い、変わらぬ決意。
け…蹴った?
(いや、いやいやいや…ほら! 男の子って割りと過度なスキンシップとかするし!! 学校でお互い腕で首を絞めるようなしぐさとか、いたずらでわざと、おしり蹴ったりとか! きっとそんなだよ。そんな! )
私はそんな風に考え、もう少し様子を見ることに…見る…事に…
「おい、羽太! おまえ誰に許可とって座って待ってんだ!」
もう一度、赤い髪の男の子は先程蹴られて転がった羽太くんを蹴る。
ああ…ど、どうしよう…
これは、そうだ。スキンシップなんてものではない。様子を見るからに、そう…
――"いじめ"だ。
私は、羽太くんの前にクラスに無視されると言う、いじめを経験している。実際その事が大きくて学校を休学しているのだ…。そして、その時に自分の状況を認めたくなくて、調べたことがあった。
『いじめの定義』
個々の行為は『いじめ』に当たるか否かの判断と言うのは、表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童、生徒の立場に立って行うものとされる。 また、当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているものとする。
なお、起こった場所は学校の"内外"を問わない。
と、インターネットで見たのを覚えている。
「ど…どうしよう…」
私は、目の前で弟がいじめられていると言うのに…
――動けない。
情けないことに、足がすくみ、1歩がでない。
その間にも、羽太くんは無理矢理たたされて、頭を叩かれたり、嗤われたり…
私はその状況から視線をそらすことなく、ただ、見ることしかできなかった…。
きっと、そらせなかったのだ…
無意識に涙が頬をつたう。痛いのは…苦しいのは…羽太くんの方なのに…何もできない無力感、こんな時にさえ動かない自分自身。
増えていく心の傷。
どうしようもないほどに、押し寄せてくる絶望感。
私は……弱虫だ。
何も変わってなんかない、翔馬やリサちゃんには感謝している。それは変わらない。でも、私は何も変わってない。
目の前で行われている、決して許されない行為にたいして、声をあげることすらできない。
そうだ、私は…怖いのだ。
私が声を出して何ができる?あの人達につかまって叩かれたり、蹴られたりするくらいだ。しょせん、無力な弱虫は何をやっても無駄なのだ。
火に油を注ぐだけ、私が出ていったことで羽太くんがもっと可哀想な事されたらどうする?
親には何て言う?
そうだ、私は知らなければよかったのだ。下手に首なんて突っ込むからいけなかったのだ。
だって、羽太くんはお家じゃ平気そうじゃないか。何一つ、変わった様子なんてなかったじゃないか。
一生懸命探す言い訳。
自分が壊れないように着込んでいく心の防具。
『仕方ない』
何をやったって、いい方向に転がるビジョンが見えない。
だから――。
――いや、でも…っ!
目の前で、弟が土に転がり苦しんでいる。
ぶっきらぼうで、あまり私には興味なさそうだけど
それでも、優しく接してくれた弟が――。
これを見て見ぬふりなんてしていいはずがないっ…!
このままになんてしていいはずがないっ…!
状況は違えど、私はこの苦しみを知っている…。
私にやれることってなんだ?私にしかできないことってなんだ?
考えろ、私!!
弱者は常に、強者へと抗い成長をしてきた…
越えられない壁などあるものか…っ!
人は空をも飛べるようになったのだ!!
拳を強く握れ、深呼吸して…
一度、強く目を瞑る。
お父さんや、麻衣子さん、翔馬達の顔…私は独りじゃない。
目を開き、現実を見据える。
ここで、私が出ていくのは得策じゃない?そうかもしれない…でも、人通りはなく、羽太くんをこの苦しみから引きずり出せるのは、私だけだっ!
あいつらの空気なんて読まない。
私は隠れていた場所から恐る恐ると出る…。まだ気づかれない。
ありったけの勇気を胸に――。
そして、ゆっくりと…その忌々しい現場へと歩いていく。
多鶴子さんの手紙にも綴られていた。『明日また今日より辛くても、歩みを止めないで、やまない雨はないわ。明けない夜もない。』
私はその続きを呟く。
「進みなさい。あなたの生きたい方へ…行きたい方へ…っ!」
目をそらさず、歩き近づく私に、とうとう3人が気づく。
「だれ?」、「女…?」、「なんだこいつ」
行為は止まり、羽太くんが目を丸くして私をみている。
私は被っていたフードをぬぎ、サングラスとマスクをはずす。そして、羽太くんに優しく微笑み、立っている3人に向かって言ってやるのだ。
「私の弟に、何してんの?」
【日本一周の旅にでたら、家出少女ひろった!!】
それは、決して折ることの出来ない黄金の覚悟。
またみてね❗(´・ω・`)✨きゅぴーん




