弱虫の反撃②
優愛は歩み寄る。今までのままでは何も変わらないと、そう思ったから。
「た、ただいま。」
私の姿を見た麻衣子さんは、すこし驚いてからすぐに笑顔を作り
「お…おかえりなさい」
すこしよそよそしい「おかえりなさい」を言ってくれる。でもたぶん、これは私が苦手だとか、嫌いだからとかそう言った事からのよそよそしさではない。単純に、私への接し方が今回の件で更に分からなくなってしまったのだろう。
そこに、私の落ち度と言うか…失敗してしまった結果が現れているのだと思う。あの時、間違いなく私はこの人が"苦手"だった。
そんなことを考えていると、麻衣子さんは
「ご飯食べたの?お風呂わいてるよ?」
と、すぐに"いつもの麻衣子さん"に戻り、あの時と変われない感じで言ってくる。そして部屋へ向かう弟の方へも声をかける。
「羽太はどっち先にするの?」
すぐに「腹へったから飯ー」と軽く返事が返ってきて、また私の方に向き直り、「優愛ちゃんは?どうしよっか?」と聞いてくれる。私は…
「疲れたし、先にお風呂にしようかな」
「そう?じゃあ…えっと…」
言葉につまる。私が出ていく前は、もっとなにか言葉をくれていた気がするが、私自身あまり思い出せない…ただ、こんな風につまることはなかったと言うことは覚えている。そう考えると、私はあまりにも、この人の事を…悪い意味で意識していなかったのかもしれない…。
「えっと…とりあえず、荷物部屋においてくるよ」
私がそういうと、麻衣子さんは「そ、そうね、私もご飯仕上げなくちゃ」とリビングへ戻っていった。
部屋へと入ると、自分の部屋の匂いがする。日はそんなにたっていないのにもかかわらず、なんとなく懐かしさを感じ、そのまま荷物を床におき、歩いてベッドに行くと、そのままたおれこむ。
――バサッ
と音がして、布団に顔を埋めるとあることに気づく。
「―スーっ…はぁ~…お日様の匂いがする…」
いつ帰ってくると分からない娘の布団をご丁寧に干していた証拠だ。
「ふふ…私は本当に…」
いろいろな気持ちが交錯してちょっとだけ笑う。きっと、良かれと思ってしてくれたのだろう。
この行為に対して、 勝手に部屋に入るな! 何て当たり前に思いそうなことも、不思議と今回は思いもしなかった。さあ、それからお風呂へ入ってリビングへ顔を出す。
テーブルには今しがた出来上がった料理が並んでいて、弟がそれを食べている。て言うかもう既に食べ終えそうだ。そう思ったやさき弟は、
「ごちそうさま」
と言って、食器を炊事場に運ぶと、そそくさとリビングから出ていってしまった。麻衣子さんは、私のご飯の準備をして並べてくれる。席につき、箸を手にもつと、「私も一緒に食べようかな」と自分の分をよそって、私の前に座った。
「えっと…優愛ちゃん…その、今まで何処に言ってたの?」
聞いて大丈夫かな?と言わんばかりの聞き方で、麻衣子さんは私に今までの事を聞く。私はご飯を飲み込んで答える。
「少し、旅に出てまして…」
私も充分よそよそしい答え方をする。我ながら人の事言えないなと思う。やはり、いきなり心の距離を積めると言うのは、なかなか難しいものがある。なんだ、旅に出てまして…って…。私は何してるんだ!
「旅…?電車か何かでってこと?」
「ううん…バイク」
「バイク!?バイクなんて乗れたの?優愛ちゃん!」
「え?いやちがくて…乗せてもらってて…」
「え?お友だちにってこと?」
「えっとまぁ…そんな感じ…へへへ…。」
「まぁまぁ…そんな事が…」
最後に麻衣子さんがそういって、次にこう聞いてきた。
――「楽しかった?」
その一言で、今までの旅の記憶がフラッシュバックする。
嗚呼…うん。楽しかった。すごく、楽しかった。今までにない日常を経験して、見て、聞いて、出会って、別れて。本当に楽しかった。道中はわくわくしたり、しくしくしたり…。田舎みちを走ったり、野焼きの匂いを嗅いだり…海を渡ったり、途中財布を落としちゃったり。だから自信をもって言える。ちょっとおかしな言い方かもだけど…家出してよかった!
「うん、すごく楽しかったよ! あのね、初めは東京の方にいったんだけど」
「東京!?飛行機で!?子供の行動力なめちゃダメね…」
「ははは、そうかも。んでタクシーに乗ってたんだけど――」
あとから気づいたが、私は旅の話をするとき、不思議と饒舌になるらしい。あと、今まで言い訳がましく考えてやっていた、麻衣子さんとの会話が嘘のようにスムーズにながれる。恐らく、出会ってはじめてこんなに会話をしているかもしれない。
それから私は、沢山、麻衣子さんに話をした。
翔馬と言う、素直で正直な男の子に出会って旅をしていたこと。
和人くんのこと、リサちゃん、多鶴子さんの事。
聞いてほしかったのだろうか…?たぶん、聞いてほしかったし、話したかった。自分がした経験を、大切な人達に出会えたこと。
まだ、きっと"お母さん"だとは思えないし、この先も難しいのかもしれない。それでも、ゆっくりと、ゆっくりと
お互いに歩みよっていかなければ、何も変わらない。
麻衣子さん、私は"なつかない"のではなく、"なつけない"のだ。
でも、今は少し違うと思う。もうちょっと、時間はかかるかもしれないけれど…きっと今みたいな時間を、沢山、沢山、積み上げて…いつか、本当に仲の良い"家族"だと言えるように。
これは、はじめの一歩だ。
――人は、意外と簡単なことを難しく考えてしまっているのかもしれない。
お互いが、少しずつ相手を思いやることができるのならきっと…
私は、そう思う。
久し振りのお家、久し振りの麻衣子さんの料理。
はじめての、二人の笑い声。
【日本一周の旅にでたら、家出少女ひろった!!】
~あとがき小話~
「なあ、翔馬…あたし思うんだけど」
「どうした世良」
「薬って魔法みたいな名前多くないか?」
「そうか?例えば?」
「体に刻まれし、痛みを消し去れっ!!ロキソプロフェン!!…みたいな」
「確かに…しかもロキソニンのジェネリック…」
「あなたたち、なんの話をしてるの?」
「ん?」
「あ?」
「いや、どうでもいいけど、前青だぞ」
「「おおおおお!?」」
なにこれ。
またみてね❗(´・ω・`)✨きゅぴーん




