変わらない町
運動会を終え、打ち上げをすることになった翔馬達。お別れがやって来る。
それから、運動会は南地区の勝利で終わり、みんなで片付けをする。負けた北地区の人達も、「来年は勝つからな!」とか言いながらも、笑顔を見せている。
汗と泥に汚れ、擦り傷を作り、雨に打たれても、明るく、楽しく。
そんな運動会は夕暮れと共に終わりを告げたのだった。そして、鈴木さんのお店で打ち上げをすることになった。まあ、たださすがに、この泥だらけだったりする格好のままではなんなので、一度ペンションに戻り、シャワーを浴びることに。――
「んで、孝輔、おまえ全裸でなにやってんだよ」
「いや、古代ローマ人の立ち姿だが。」
「いやあったけど、確かにそんな映画。おまえ地味に似合うな…はは、なんか無駄に面白く見えてきたわ。はははは!」
「笑うな!! 平たい顔の民族めっ!!」
「おまえぶっとばすぞ!!」
といって俺がシャワーをかけると、孝輔が
「あぁ~ん!!」とかいってふざける。ちなみにこの男、身長は188cmの巨体である。てか俺達は何をやっているんだ…。クネクネすんなッ!!
「おまえその動きやめろ!!キモい通り越して怖いんだよっ!!」
「あ、あ、あああああ、ああ」とふざけながらクネクネとして近寄ってくる全裸の188cm
「いや、マジでこわいこわいこわいこわいこわいッ!!!」
そんなくだらない事をしたせいで、綱引きより疲れて風呂を出ると、先に風呂をいただいた女性陣がリビングの入り口にかたまり、中を覗いている。俺は二人に声をかける。
「どうしたんだよ?」
「「しーっ!!」」
バッ!と二人が振り返り俺の言葉を制止する。そしてジェスチャーで、見てみろ。とするので中を覗くと、あのリサ達が歌っていたソファーの上で、アホみたいにいちゃついている、ある意味本日の主役の二人が。
いや、ほんと…アホみたいにいちゃついている。誰かなんか投げるもの持ってないかな?そんな事を考えていると、孝輔が
ガチャ!!とおもいっきりドアを開ける。ソファーにいた二人はビクッ!!として離れる。それをみた孝輔は、
「入ると幸せになれる部屋はここですか?」
急にそんな事を言われて、キョトンとしているくるみさんと貴幸さん。少しだけ間が空いて、くるみさんが
「ふふ…っ」
と言って笑う。それにつられて貴幸さんも笑い、意味のわからない事をいった孝輔も何故か笑いだす。それをみた世良が
「なんでおまえが笑ってんだよ」と言うとそれが何故か笑えて、俺達も部屋に入りながら笑う。そして、改めて
「お二人とも、おめでとうございます。」
と伝えた。するとリサや世良も口々に「おめでとう」と伝えて、二人は笑顔で「本当にありがとう。」と、そう言った。
それから、鈴木さんの店へと移動する。6人で乾き始めたアスファルトの上を歩く。途中、世良のおでこにはられたガーゼをいじったりしながら少しあるくと、あの赤提灯が見えてくる。
中に入ると――
パンッ!パンッ!パパンッ!と急にクラッカーが鳴り響く。
俺たちが驚いていると、店には沢山の人がいて「おつかれー!!」とか「おめでとう!!」と言う言葉が飛び交う。そして鈴木さんがやってきて、くるみさんと貴幸さんに「ま、ま、座れよ!」と言ってカウンターに座らせる。…てか…
「…うっ…ううっ…」
「あの、伸雄さん…」
「ううっ…なんだいっ…?う…」
いや、来店してから、もうずっと気になってるんだけど、クラッカー鳴りまくってる中でも一人でずっと泣いてたよね?
「えっと…」
「ううっ…うっ…た、だがゆぎぐん"ッ!…」
その声に周りから、やいのやいの言われていた貴幸さんが振り替える。そして、何故かおもむろに立ち上がり二人でハグをする!
「いや、なんでだ。」
なんか「貴幸くんっ!!やっと、やっとだなッ!!」だとか「はいっ!!はいっ!」とかどう言うことだよ。
それをみていた世良がくるみさんに「おい、アンタの旦那ホモだぞ」と耳打ちをしていたり、その場にまざってハグしようとしてる孝輔をリサが止めていたりと、てんやわんやである。
まあ、落ち着いた後に聞いたのだが、なんでも貴幸さんはこのお店でよく、伸雄さんと会っては相談をしていたらしい。
"くるみさんへのプロポーズ"
を…まさか嫁の父親に相談するとは…逆にヘタレどころかだいぶ攻めてる感じだけど、まあ終わりよければなんとやらである。かと思えば、陸上選手に勝った世良は、おじさん達にモテモテである。やたらと「俺はおまえみたいな娘がほしいっ!!」と言われて頭をワシャワシャと撫でられている。本人ははじめは嬉しそうだったが、徐徐にうざくなってきたのか、「やめろおおおおお!」と叫んで暴れている。
そんなみんなを眺めていると、俺のスマホが鳴る――。
着信先は、
『優愛』
俺は店の外に出て、電話に出る。するとつい先日まで近くで聞いていた声が聞こえる。
「もしもし?」
{「…もしもし?へへへ…今何してた?」}
「そうだな…188cmあるイケメンに全裸で迫られたり…はたまたおっさんと青年が抱き合ってるのを見せつけられたり…」
{「ははは、なにそれぇ…! え?マジ?」}
「いやまあ…いろいろあったよ。たった数日なのに、いろいろな。」
{「いいなぁ、私がいなくなった瞬間から、なんか楽しそうなこといっぱいだね…」}
優愛はそう、残念そうに言う。
「ははは! 何いってんだよ」
{「ははは…そう言えばリサちゃんは?どうしてるの?」}
「ん?ああ、今店の中にいるわ。呼ぼうか?」
{「ううん、ありがとう。何かしてると悪いし、大丈夫。…て言うか、声だけってなんか新鮮…ふふ、あのね、翔馬聞いてほしいことがあるんだ。」}
「なんだよ」
{「あのね…私ね…!」}――。
――俺は電話を終わり、やたらと星の眩しい空を少しだけあおいで、呟く。
「さて…もどるか…。」
店の方にきびすを返すと、リサがコチラヘと歩いてくる。
「翔馬!あなた急にいなくなると探すじゃない!」
「お?ああ、わりいわりい。ちと電話がな」
「韮崎?」
「はは、勘よすぎだろ。」
「あの子どうなの?大丈夫なの?」
「ああ…と、まあ、なんだ。がんばるってよ」
急に笑う俺にリサが「なによそれ?あ、隠し事する気ね!」
「いや、べつにしてねぇよ」
するとリサが
「いいわ!私がかけるからっ!」
そういって、電話をはじめた。俺は一足先に店へ戻る…と、
「なんだこのカオス…」
「「おてもや~ん♪」」まず、熊本民謡の大合唱が耳に飛び込み、隅っこでいちゃつくくるみさんと貴幸さん、世良はさきほどまで絡んでいたおじさんに肩車され何かを叫んでいて、大河さんと孝輔はギターについて熱く語りあっている。
俺は酒と煙草、そして炭で焼かれる肉の香りをかぎながらその日もしっかりと、はしゃいで過ごすのだった。
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――翌朝。
なんやかんやで、また伸雄さんのご厚意でペンションに泊めてもらった俺達はバイクに荷物を積み込んだりしていた。
「行くんだね。」
昨日いっしょに泊まった貴幸さんが言う。
「はい。楽しかったですけど…」
するとエプロン姿のくるみさんが出て来て、
「いろいろと、ありがとうございました!」
「いやいや、こちらの方が!お世話になりっぱなしで!」
俺が挨拶をしていると、荷物を詰め込んだ世良と孝輔も挨拶に加わる。
「いろいろ、お世話になりました!」
そういって、頭を下げる世良。てか…
「おまえ敬語つかえんのかよ!?」
「は?どういう意味だ」
「いや…確かに驚きだ…」
と、孝輔。そんなやり取りをみていたくるみさんと貴幸さんは声を出して笑う。準備を終えたリサもこっちにきて少し話をしていると、居酒屋の鈴木さんがやってきた。と、それをかわきりに昨日いっしょにはしゃいだおじさんやおばさんもやってくる。
「うわ、めちゃめちゃ人集まってきた」
世良がそう言うと、笑顔でおじさんは言う。
「うちのヒーローが旅立つって聞いたからな」
「また来いよ!!」
「来年も勝ちに行くぞ!」
思いの外大所帯となった見送り、口々に「またな!」「待ってるからな!」と言う声が聞こえる。その中には1つとして、「サヨナラ」はない。
「アンタら、早く帰れよ!!…仕事とかあるだろ!…」
そう言う世良に
「ここいらは自営業ばっかだからな、暇なんだよ」
「「がっはっはっはっ!!」」
と明るく笑う町の人達。
俺達はバイクにまたがりエンジンをかける――。
最後に「また来ます!ありがとうございました!」そう言うと、また「サヨナラ」ない別れが飛び交う。
貴幸さん、くるみさんが
「また会おうね」
「また、来てくださいね」
と言ってくれる。それからリサが横に孝輔を、俺は世良を後ろに乗せて手を降りら走り出す。
走り始めてしばらくすると、俺の背中で堪えていたものを少し流しながら、小さく震える少女は、バイクの排気音に負けないくらいデカい鼻声で叫んだ。
「また来るからなああああああああああああああ!!」
途中、美しい風景の中に、ちらちらと見え隠れする草原の赤黒い土、災害の傷跡。
しかし、この町はいつか…また芽吹く事だろう。
土の上には、お日様に手を伸ばすように草が生え
止むことの無い優しくゆたかな風がこの土地を駆け抜けて
渇れることのない、美しい水が流れ込み
明るく、元気で、笑顔の絶えない町の人達と共に、強く、強く
どこまでも――。
たまの雨上がりには、できた水溜まりに月でも揺らしながら。
【日本一周の旅にでたら、家出少女ひろった!!】
東日本、熊本の復興、その先までを心より祈っております。
次回『出発の日④』
またみてね❗(´・ω・`)✨きゅぴーん




