とっておきキャンバス~終~
運動会も、いよいよラスト!!
世良の勝ち点により、南地区は大きく北地区を引き離す。先程まで降っていた小雨もやみ、空には切れ目ができて青空が見えかくれしている。
運動会も大詰めとなり、残る競技は3つとなった。
1つ目は、リサの出場する"障害物競争"、もう1つは最後の団体競技、"綱引き"。そして最後の1つは"借り物競争"となっている。ちなみにこの最後の借り物競争のお題は、地元の幼稚園児が先生と考えて書いてくれたらしく、毎年可愛らしいお題から、破天荒なお題が並び、会場をわかすのだと鈴木さんが言っていた。
他にも、老人ホームで作られた応援の看板や、横断幕等、話を聞けば聞くほど、地域との関わりが深く愛されている運動会なのだということを知ることができて、それに参加できたことを嬉しく感じる。
さて、先程転がりまくり泥だらけになった世良は、医務室で擦り傷を治療中らしい。というのも俺は綱引きに参加すのと、借り物競争で、ゴールした人に旗を渡す役があるため、またすぐに持ち場に戻ったのだ。
それから、リサの出場する障害物競争が始まる。きっとこの大会に外国人が出るのははじめてなのだろう。主におじいさんが「異国の人じゃ!」、「ナイスバデー!」とリサをみていっている。
そういや全然関係ないんだけど、『D』を「ディー」と言う人と「デー」って言う人の差ってやはり年代なのだろうか?だからあのおじいさんは「ナイスバデー」とかいってんのかな?とか考えていたら、リサの番がまわってきた。
――パンッ!
スタートの合図でリサを含む5名ほどが走り出す。すると、男の歓声が上がる。
「「うおおおおおおおおっ!!」」
もちろん、リサの揺れるそれにである。網くぐりとか大変なことになっている。引っかかる網をうっとうしそうにもがくと、お腹がチラリ、チラリと見え隠れし、なかなかのチラリズムを演出している。そしてなんとか出て来て、他のものをこなしやっとゴールについたが、結果は4位となった。リサがムッとした顔でこっちへ来る。
「負けちゃったわ」
「残念だったな。」
「まあでもいいのよ。楽しかったし」
「そうか、おまえが楽しめたならよかったな。まあ俺も楽しめたから大丈夫」
「…?どういうこと?」
「気にするな、ほら、応援組のくるみさん達がよんでんぞ」
リサは応援席をチラリとみて、こちらに向き直り
「綱引きがんばってね」
と言って、くるみさん達の方へと小走りで駆けていった。
さあ、お次は綱引きである。北と南の男性陣で対決をする。持ち場にいくと、敵チームに彪牙さんがいることに気づく。そしてこちらに貴幸さんが歩いてきて、俺に声をかける。
「や、やあ翔馬くん。がんばろうね」
「そうですね、まあやれるだけやってみます!がんばりましょう!」
すると敵チームの彪牙さんが
「ははは、今年もウチがいただくよ。」
てか、彪牙さんの家ペンションのしたの方だっていってたけど、北地区なんだ。
「負けませんよ。やるからには勝ちにいきますからね!ね、貴幸さん!」
「そ、そうだよね! がんばろう!」
すると、彪牙さんは
「こんなところで、負けるわけにはいかないかな?ねぇ…貴幸くんもいるしね…」
「負けないよ。彪牙くんには、負けない。」
そして、合図がなり互いに北と南は綱を引き合う――。
まるで大事な何かを取り合うように。譲るわけにはいかないと、これだけは渡せないのだと。
そして、必死の攻防が続く。だが、終わりは突然やって来た。片方の一人が崩れると、あれよあれよと言う間になし崩しに陣形は崩れ、北の人は南側に雪崩れ込んできた。
と、その瞬間…バサッ!!と審判な旗が上がる。
「オオオオォォォォ!!今年は南が勝ったッ!!」、「すげぇ、何年ぶりだッ!?」、「おいおい、誰だ勝ち男呼んだヤツはっ!!」、「っしゃっ!!」
みんな喜びと驚きを口にする。それから知らないおじさんと肩を組み、ハイタッチをする。なんだろう?今すげぇ楽しい。貴幸さんも頭をグシャグシャと撫でられて少し嬉しそうだ。一方北地区は、まさか負けるとは。と言ったような感じである。彪牙さんもかなり悔しそうにしていた。
それから綱引き組は解散し、俺は最後の借り物競争の為に、ゴール横にある旗のところへと急ぐ。
持ち場について、少しするとアナウンスがはじまる。
〔『それでは、最後の競技、借り物競争です。参加する方は、指定の場所へと移動してください。』〕
そういや、最後は貴幸さんだっけ?と借り物競争の列に目を向ける。すると…
彪牙さんもいる。バリバリいる。しかもこれは順番的にも直接対決となるだろう。どうか、貴幸さんに簡単なお題が当たりますように!!って…俺いつの間に貴幸さん応援してんな…。いや、別にいいんだけど。
空は完全に雨上がりで、空は少し黄色がかかり、奥は紅くなり始めている。
雨上がりと夕刻の匂いがするなか、最後の競技は始まった。どうやら貴幸さんと彪牙さんは一番最後に走るらしい。
1走目が走り出す。途中お題の紙を拾ってちりぢりになり、書いてあったであろう荷物をもってゴールへとやってくる。俺は、来る人、来る人からお題の紙を受けとり旗を渡す。紙を開いてみると、可愛らしいクレヨンで『すいとう』だとか『はみがきこ』とかが書かれている。歯磨き粉は厳しそうだが、もってきたみたいだ。よくもってたな歯磨き粉。
そうこうしていると、貴幸さんと彪牙さんの番がやってくる。少し緊張がはしる。そして――
・・・・・・
・・・・
・・
・
――タンッ!!
スタートの合図がなり、僕は一気に駆け出す。だが、案の定すぐにまわりに追い抜かれてしまう。昔から体育は得意ではなかったし、仕方のないことだ…。と、いつもの僕ならそう考えるだろう。でも、今日は彪牙君がいる。
だから、この戦いだけは負けたくない。負けるわけにはいかない。それにさっきの400m走の事もある。と、そう思い、必死に走る。途中、お題の入った封筒を拾う。彪牙くんはすでに誰かと何かを話しており、そのお題を回収に入っている。
僕は急いで中身を取り出して、確認する…!
と、
「まさか…そっか、そう言う事なんだ…」
そう呟いて、僕は"お題の回収"に向かう。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
貴幸さんが、お題の回収の所で固まっている…。何か無理なものでも引いたのだろうか?そうこうしているうちに、一番の人がやってくる。一番の人のお題は
『くつした』
続いて、彪牙さんがやってくる。息を切らし、「はぁ、はぁ、これ。」といって、俺にお題と物を渡す。
『けいたいでんわ』
そして、彪牙さんは少し満足そうに
「今回は、俺の勝ちだね」
と俺に言う。俺は、とりあえず「ははは」と愛想笑いで流す。すると、固まっていた貴幸さんがゆっくりと動きだし、何故か放送席へと向かう。
放送席で何かを話し、マイクを受けとると…そのまま応援席へと小走りで走っていく。
そして、応援席のくるみさんの前に立つと、マイクの電源を入れる。
…キ――――ン…とハウリングする。
この地点で貴幸さんは一番最後、ビリとなる事が確定してしまう。更にその奇妙な行動に周りがざわつき始める。そんな中、彼は喋り始めた。
〔『あ…くる…
キ―――――――ン
ええと…くるみさん。』〕
急に目の前に立つ彼に驚いた様子のくるみさんは
「は、はい」
と一言答える。それを聞くと、貴幸さんはくるみさんに「た、立ってください。」とお願いし、言われるがままに、くるみさんは不思議そうに周りをキョロキョロとしてから、立ち上がる。
「え…と、これでいいですか?」
これから何が起こるのかとの不安からか、貴幸さんに敬語で語りかける。貴幸さんは頷くと話を始めた――。
〔『く、くるみさん…僕は、声が小さいとよく言われるので、絶対に失敗しないためにマイクを借りてきました…。』〕
「は、はい。」
〔『くるみさん…僕は、ここ最近、貴女を避けてきました。それは、嫌いになったとか、そう言うことではなくて…、いろいろと考えがまとまらず…うまく言えないけど、理想と現実を考えて…違うな…そうじゃない。そうじゃなくて……。』〕
一度彼は深呼吸をする。そして
〔『怖くて、逃げてきました。それは、自分の気持ちを、貴女に伝えることに臆病になっていたからです。』〕
この発言のあと、更に会場はざわつきはじめる。
「え?これって…」「どういこと?え?…まじ?」しかし
それも貴幸さんが喋り始めると静かになる。
〔『僕は、画家になりたくて、たくさんの絵を描いてきました。それは、風景だったり、人物だったり…その数は100、500、ひょっとしたら、1000なんてもうとっくに越えているかもしれません。ここまで、沢山絵を描いてこれたのは、くるみさん。貴女に
"素敵な絵を描くんだね"
と、そう、言ってもらえたからです。いろんな賞にも応募しました。結果は寡作…。それでもいつかかならずもっと君が喜んでくれる絵を、賞を…。そう考えて、必死に筆を執りました。そして、いつからか、僕は、本当に描きたい絵がなんなのか、やっと気づく事になります。それは――
"この世界と言うとっておきのキャンバス"に描く。貴女との未来です。
これが上手く描けたなら、きっとどんな賞なんかよりも素敵な物となるはずだと、僕は、確信しています。いや、きっと…いつか、かならず、おじいさんやおばあさんになったときに、君に素敵な絵を描いたねと、そういわせて見せるから。だから――
大好きな君と、この先も生きていきたいッ!!
僕と、結婚してくださいッ!!』〕
そういって、手を差し出す。
先程までのザワツキが嘘のように静まり返るなか、彼女のちいさな声をマイクがひろう。
〔『はい…。』〕
くるみさんが、そう呟いて貴幸さんの手を握った瞬間、今日一番の歓声が上がった。
「「うおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!」」
「おめでとうッ!!」、「すげぇ!!なにこれ、どんなサプライズだよっ!!」、「なんか私泣きそうなんだけどっ…!!」
人々の歓声はなりやまない。返事を聞いた貴幸さんは照れ臭そうに、でも泣きそうな顔でしっかりと妻の手を握り、こちらへと二人で駆けてくる。
そして、途中放送席にマイクを返し、二人でゴールへとやってくる。途中、「兄ちゃん!アンタが一番だっ!」、「そうだそうだ、アンタの一人勝ちだ!」「優勝、あんたが優勝!」と祝福されながら――。
そして、二人でゴールテープを切り、さらに歓声をあびる。
それから、貴幸さんは俺のところまできて、お題の紙を渡してきた。俺はその紙を開いて、視線を落とす。それをみた俺は
「これは…運命…?」
「ははは、翔馬くん。君もそう思うよね?」
その紙には、淡いピンクのクレヨンでこう書いてあったのだ。――
『 お よ め さ ん 』
【日本一周の旅にでたら、家出少女ひろった!!】
いやぁ、長かった。最後スペシャルかってくらい書いたね。文字5000くらいあるわ。いつもの倍くらいですね。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます❗(´・ω・`)✨きゅぴーん
旅はまだ続くけどね。またみてね❗




