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とっておきキャンバス⑰

運動会のメンバー合わせと運営を手伝うことになった翔馬達、とりあえず屋根の修理をして明日にそなえることにするのだが――

さあ、それから俺達は貴幸さんと居酒屋の大将事、鈴木(すずき)さん(帰る前に自己紹介された)と別れ、月明かりの下濡れたアスファルトの上を歩いて帰る。


途中、月を写す水溜まりを見ながら唐突に世良がこんなことを言う。


「あたしがさ、昔じいちゃんに月に触りたいっていったことがあったんだ…それを聞いた親父やばあちゃんは、"無理"だって、どうしたって手が届かないから、宇宙飛行士にでもなるんだなって言って笑ったんだよ。でも、じいちゃんはちがった。それを聞いたじいちゃんは、家中の電気を消して回って、あたしを縁側に呼んだんだ。家族は何してんだっていったんだけど、月明かりが照らす縁側にじいちゃんは焼酎と湯呑みを持ってきて、そこに座れってあたしに言った…あたしが座ると、隣に腰をおろして、湯呑みに焼酎をそそいでさ…そして、その焼酎を高く掲げて、わざとらしく『ほっ!』って言って私の前に下ろしたんだ、そこには――


――湯呑みに落ちた月があった。ゆらゆらと揺れる月を私に見せながら、『今日は特別だ、触ってみろ』って…その月はひんやりとしていて、酒の匂いがして…子供のあたしは、それがすごく素敵に見えて、親父達に"無理なんかじゃなかった"ってな…だからさ、あいつが無理だって言った時、ちょっとムキになっちまった。どんな形であろうと、諦めなきゃ、それなりの結果はついてくるんだって、あたしもじいちゃんみたいに、少し人を幸せにしたかったのかも…」



柄にもなく、そんな話をして少し遠い目をする世良に俺は



「…俺も、ちょっと不思議な話していいか?」


「なんだよ」


「明後日、不可能を可能に変える少女の話なんだがな」


「…は?それって…」


「ははは、気づいたか?」


「…翔馬、アンタよくクサいこと言うって言われるだろ」


何故それを知ってるんだ!


「べ、別に言われねえよ!」


「はいはい!嘘つくなって、なに照れてんだよ!」


と言って世良が俺の肩を軽くパンチして、少し先を歩くリサと孝輔のところへと走っていく。


「おまっ!待てよ!」


そして俺はすぐにその背中を追いかけ、合流する。デコボコに並ぶ俺たちを照らす夜空の月は綺麗に揺れて、水溜まりにゆらゆら浮いていた――。



――そうして、ペンションに戻ってきた俺達は、お互いの部屋の前で別れ、ゆっくりとくつろぐ。とりあえずスマホを開いてみるが、優愛から連絡は来ていなかった。


と、孝輔が話しかけてくる。


「翔馬、今日の事だが…」


「ん?貴幸さんか?」


「ああ、どう思った?」


「そうだなぁ…まあ、世良じゃないけど、少し女々しすぎるな…」


そういって、俺が少し笑うと孝輔は


「やはりそうだな、俺もそう思う。ただ、気持ちがわからない訳ではない…」


「おまえイケメンサイドだろうが、それなら俺だって分かるは、俺だってカッコいいわけじゃねえからな。」


男の子は女の子の前ではカッコつけたい。カッコつけたいが、カッコつけてるとは、思われたくない。特に好きな子の前だと、ふだんしないようなことまでやってしまう。たぶん、それは俺も共感できる部分だ。まあ、あそこまで女々しくはならないが…


「そうか?翔馬、君はたぶん君が思っているよりは魅力的だと思うぞ」


「はぁーっ!イケメンに言われてもうれしかないっつうの!」


そんな他愛ない話をして眠りへと落ちていく。電気を消して、無言になると、代わりに耳に届くのは、まだ終わっていない虫のオーケストラと、風が草を揺らす音。孝輔の寝返りで柔らかい香りのする布団の擦れる音が聞こえて…。――



――翌朝、



リビングに行くと、そこには彪牙さんがいた。


「あ、おはよう。翔馬くん…だったよね?今、朝御飯の準備をしてるから、もうちょっと待っててよ」


爽やかだ。清潔感もあるし、なにより笑顔が愛らしい。正直、俺が親戚なら某男の子たちのアイドルグループを量産している事務所に迷わず書類を送ることだろう。だが、昨日の世良の話が頭をよぎる…


「おはようございます。」


俺が挨拶を返して、席につくとすぐに孝輔がやってきて挨拶を済ませ、こちらも席につく。そして女性陣がやってくる。まずはリサ、頭をボサボサにして目を擦りながら、やってきてしまう。その後ろをウサギの着ぐるみがついて……え?なにあれ超可愛いんだけど。どういうこと?ウサギの着ぐるみが挨拶をしてくる。


「おう、翔馬おはよー」


「おはよう…」


「んぁ?なんだよ朝からまじまじと人のことみやがって、あたしの顔になんかついてるか?」


いや、強いて言えば、毛皮と長い耳がついてんですけど。しかもたれてるっ!


「え?おまえそれ、パジャマなの?」


「は?ああ…そうだけど、変か?」


いや、変だよ!!なんで着ぐるみ着て寝てんだよっ!!なんだこのチンチクリンうさぎは!!可愛すぎるっ!


「ハグしていい?」


「はぁっ!?良いわけねえだろ!きもちわりいなぁ」


と、俺の横をすたすたと何かが歩いていって気づいたら既にウサギは捕獲されていた。


孝輔である。孝輔が我慢できずに世良を抱きしめている。


「うわっ!ちょまっ!やめろっ!こっ、こら!話せって!」


「守りたい。その笑顔。」


「いや、笑顔じゃねぇから!完全に困惑だからっ!!」


そんな茶番を繰り広げていると、伸雄さんがやってきて


「はっはっは!!朝から賑やかだね」


と笑う。そして、「今日は頼みますね」と言って奥の部屋へと行ってしまった。


それから朝食を済ませ、さっそく屋根の修理に取りかかる。なぜかリサが見当たらないが、まあどこかにはいるだろう。外に出て、脚立(きゃたつ)を使い、屋根に上がる。そして周りを見ると、一面は草原のようになっていて……、でも夜には気づかなかった災害の傷痕もしっかりとあって、ある場所は草原が崩れ、赤黒い土がむき出しになっていた。


その光景に、言葉を失っていると、孝輔と世良が上がってくる。ちなみに、世良は既にジャージに着替えている。ふたりも景色を見て、しばし沈黙が流れる。きっと、二人とも思うことがあるのだろう。そこに触れることなく、孝輔が


「では、はじめようか」


と言って、修理を始めた。


修理はわりと、簡単で、ほとんど孝輔が一人で直してしまった。俺と世良はほとんど道具持ちと、道具を渡す役といったところだった。さて、修理を終えて、下に降りる。


そして、俺はトイレにいきたくなりふたりに片付けを頼んで家に入る。すると、リビングでくるみさんとはち合わせる。


「あ、すみませ…」



「…っふ!…うっ…ぐすっ…」



な、泣いてる?



【日本一周の旅にでたら、家出少女ひろった!!】



















昔、亡くなったじいちゃんが電気を消して月見酒だと言っていたのを思い出して書いたんですが、思い出してちょっと泣きそうになった。今は私が月見酒をする年齢に。今年は花ではなくて、ワンカップを買って墓参りに行こうとおもいます。


またみてね❗(´・ω・`)✨きゅぴーん


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