とっておきキャンバス⑯
馴れ初めを聞いた翔馬たちが話をしていると――
「プロポーズ…」
俺が呟くと、「ほう」だとか「それはそれは」とか周りのヤツらもおもしろそうだとニヤニヤしている。だが、だとしたらなぜ、避けるのかなおさらわからない。そんなことを考えていると、リサが
「じゃあなんで、アナタはくるみの店からすぐ逃げちゃうのよ?店の雰囲気も悪くないんだし、なにかこだわりでもあるの?」
そう聞かれた貴幸さんは、こう答える。
「怖いんだ…僕みたいのがそんな事言って、ダメになってしまうんじゃないか…とか、あと、ぼ、僕はこう見えて絵描きだから…収入もあ、安定してないし…」
じゃあなんで、プロポーズとかしようとしてんだこの人。てか、愛さえあればお金なんて…現実問題それは人によるだろうなぁ…だが、くるみさんがそんなに気にするようなタイプには見えないけど…
「それと…僕はずっと画家になりたくて、絵を書いているんだけど、なかなかうまくいかなくて、そんな情けない姿ばっかりみせてきちゃったから、自信がないんだよ…」
その話を聞いた世良は貴幸さんに言う。
「さっきの話もそうだけど、メソポタミア。アンタ基本的に女々しいんだよ、彼女の腕を引いて行ったのは別のヤツなんじゃないかってくらい。そんなんじゃ、あのイケメンの兄ちゃんにくるみの姉ちゃんは腕引っ張って、もっていかれっちまうんじゃないのか?」
手厳しい…が、その通りだろう。いくら悩んでいても、怖がっていても、自らが動かなければ、それは停滞。つまり時は、情況は変わらないし、ほとんど悪いほうにしか転がらない。さすがに世良の言葉は効いたのか、貴幸さんは少しシュンとして
「そ、それはそうかもしれないけど…」
「いいえ、違うわ。"そうかもしれない"じゃない、そうなるのよ。いい?メソ?アナタ、たぶん私にはわからないけど、くるみにとっては、すごく輝くような魅力のある人なの。だからもっと自信をもたないと、あの人が可哀想だわ。」
…うちの女性陣厳しくない?俺ならハート折れるは…、三回おれる。いやもっとかも…。てか、メソってなに?メソポタミアだから?いつから略すスタイルになったんだよ。ナチュラルに言うなや、なんの事か理解する以前にスルーしそうにはなったわ!!と、さすがの貴幸さんも反論する。
「き、君達は容姿にめぐまれてるから…っ! だからそんな事が言えるんだっ!!僕みたいな陰キャがイケメンに勝つなんて…っ!!絶対できない!! "不可能"なんだ!!」
そんな反論を聞いた世良は、右眉をピクリと動かして
「おいメソ、今なんつった…?不可能?いいか、良く聞け若ぇの。」
いや、お前のほうが若いからね?年齢も見た目も。なんなら見た目女児だからね?てかなんでおまえも急に略してんだよ。流行ってんの?そんな事を考えていると、厨房の方から料理を運んできた店主が、
「はいはい、お客さん、喧嘩は外でやってくれよ?」
と、悟ったように俺たちにそう言う。すると世良が
「いや別に喧嘩してるわけじゃねぇから。」
貴幸さんも
「そ、そうですよ。大将、け、喧嘩なんて」
「そうかぁ?若いのは血の気が多いからな…まあ常連のアンタがそういうなら…あ、そうだ。」
と、突然何かを思い出した様子の店主は一度厨房のほうへ戻り1枚のポスターを持ってきた。てか、貴幸さん常連なのか。
「お客さん、貴幸君の知り合いだろ?こんなの興味ないかね?」
とポスターを広げる。そこには
【今年もやるぞ! 夏の終わりの運動会!!】
の文字が、
「あ、これそこに張ってあった」と俺が言うと、店主は「そうそう」と言って話を始める。
「ここいらは、夏の終わり、まあ秋口に毎年地区の運動会をするんだけどな、ほら、少し前に地震あっただろ?それで中止にする話も出たんだが、毎年この辺のやつらはコレを楽しみにしててな、だからこんな時だからこそやろう。って話になったんだ。でも地震の影響で毎年帰ってきてた奴等が集まりきらなくてな、少し人手を探してるんだよ。まあ、もしもなんだけどな?時間があるなら若い人に力を借りたくてな…どうだろう?」
ふむ、運動会か…。高校依頼か?人手不足とか言われたらほっとけない気もするが、こちらも旅の途中だ。ポスターに、目を向けると、どうやら日時は明後日のようだ。1つの所に三日とどまると言うのはなぁ…等と思っていると世良が
「なぁ、それ、それアタシも参加できるのか?あとゲストってヤツはくるの?」
「ん?」と店主が世良の指を差した部分をみる。
「え?これ?これは嬢ちゃんには"無理"だろ~。」
貴幸さんもそれを見て言う。
「む、難しいと思うよ…毎年僕もこの運動会は、くるみさん家が出るから見たりするけど…やっぱり現役の陸上部の子とかが速いよ、それに毎年ゲストが来て、隣街でテレビとかにも出てる陸上選手の人がいるんだけど、かならずその人が一番だし。さ、参加は出来ても勝てないと思う。」
それもそのはず、その指差した先にあるのは、
『地区最速は誰だ!?400メートル走!!』
とかかれ、堂々とその下に『ゲスト、西日本陸上にも参加! 現役陸上選手!○○!』と書かれている。そんな相手に勝てるわけがない。なので二人の言い分も分かる。が、世良は
「あたしはな、してもないのに無理だと言われるのはあまり好きじゃないんだ。勝手に人を諦めんな。いいかメソ。あたしがこれで、"不可能を可能"に変えてやるから見てろっ!!」
と言って立ち上がり胸を張る。
「いや、さすがに難しいと…」
貴幸さんがそう言いかけるとリサと孝輔が
「おもしろそうじゃない。明日はくるみの家の屋根を修理して、一日お金だして泊めてもらいましょ、それにこのチビロリがそこまで啖呵切って、恥をさらすのも見てみたいし」
と言ってリサはあのしたり顔をする。
「そうだな、俺は構わないぞ。また新しい出会いもあるかもしれないしな。急いでる旅と言うわけでもない。」
孝輔もそう言って、みんなの意見が出揃う。
「まあ、ならやってみるか」
俺がそう言うと、店主が
「おお!本当か?だったら、登録しとくわ! ああ、そうだ、あと一個迷惑ついでになんだが…一人、運営に回ってくれねえか?そこもたりねえんだ」
「翔馬ね。」
「翔馬だな。」
「ああ、翔馬が良い。」
「いや、なんでだ。」
――そうこうして、運動会に参加することになった俺達は、くるみさんの家のある地区で、チームメンバーとして登録されることになったのだった。
俺以外…。
【日本一周の旅にでたら、家出少女ひろった!!】
地区の運動会ってやってるとこと、やってないとことあるみたいですね。規模もまちまち、ただ無駄に盛り上る(笑)
またみてね❗(´・ω・`)✨きゅぴーん




