とっておきキャンバス⑮
先輩にフラれたくるみさん。そして余計なことをしたかもしれないと凹む貴幸さん、馴れ初めはクライマックス。
その日は、少し暖かい春の風が吹く日だった。
僕はいつものように登校すると、僕の机に何か入っている…。僕はそれを取り出して、まじまじと見ると
「これは…クッキー…?」
可愛らしい袋に入って、3枚ほど美味しそうに覗けて見える、見えるのだが、絶対これ入れるところ間違えてるんだろうな…他のクラスの人かな?なんでまた僕の机なんかに…そう思った。でも、誰のか分からないし、捨てるわけにもいかない。誰かに渡そうと、勇気を出して入れたものだとしたら、食べるわけにもいかないし…何より、今ホームルームの前に、楽しそうに会話しているみんなに「これ、だれの?」って聞く勇気がない。情けない…
そんな事を考えながら、悩んでいたらふいにこそこそと耳元に声をかけられる。
「それ、貴幸くんの分だから、食べていいよ」
その声にビクッとして振り返ると、相手も少しビックリしていた。その相手は、くるみさん。なんか、いろいろ予想外でとてもぎこちない感じの反応になったのだけど…いや、だってまさか嫌われたかもしれない相手にクッキー貰うなんて、ビックリするでしょ?そして
「あ、あ、あ、ありがとう」
と言ったんだけど、声は小さいしどもるしで、なんか苦笑されて、恥ずかしい気持ちになった。そして、彼女の顔をみると、やはり目をそらしてしまい、すぐに
「ち、ちゃんと食べてね!」
と言って、自分の席に言ってしまったんだ。そして昼休み、僕は一人でご飯を食べたあと、ポッケに入れていたクッキーを取り出してみる。そんなつもりはないけど、たぶんすごくニヤニヤしていたと思う。通りかかった女子が僕を見て話していたけど、正直どうでもよかった。それくらい嬉しかったんだ。それから袋を開けて1つ、食べた。
「うまっ!」
サクサクでバターの香りもすごく良い。なんか食べるのがもったいなく感じるほどおいしかった。でも、すぐに食べてしまって、袋に紙が一枚小さくたたまれて入っていた。フォーチュンクッキーにでもしようとしたのだろうか?とりあえずその紙を広げてみることにしたんだ。するとそこには――
『今日の放課後、あの公園に来て下さい。』
と書かれていた。ビビった。正直なに言われるんだろうって…余計なことをしたあげく、嫌われたかもしれない相手に呼び出しなんて…って、すごく困ったんだけど、行ってみることにしたんだ。
だってそうだろ?怖がっても仕方ないんだ。あの時、僕はきっと無意識に勇気を出して彼女の手を引いたんだ。だから、もしも嫌われていたとしても、なにか言われるんだとしても、僕は、僕の好きになった人とおしゃべりがしたかったし、会いたかった。
今思えば、本当に僕は馬鹿で、嫌いなやつにクッキーなんて渡すわけないのに、その時は不思議とそう思ったんだよ。
そして、その日の放課後、あの公園に向かったんだ。
――彼女は一人、ブランコに腰かけていて、春先でもまだ少し冷える夕暮れを見つめ、ため息をはいていた。そして、僕に気づくと、目を丸くして、こちらを見るんだけど、やはり目はそらされてしまう。僕は、彼女のそばまで歩いていって、
「手紙、読みました。」
彼女は急にうつむいて、
「はい」
と、一言。
「えっと…呼び出された内容は、なんなんだろう…?」
「ふふふ…、はぁ~、なんなんでしょうね?」
と、軽く笑って彼女は話をはぐらかす。
「え…?もうなんだよ、ははは」
と、不思議と僕も笑う。きっと、彼女が笑うから僕も笑えるのだ。
「ふふふ、なんだと思いますかね」
雰囲気的に、悪いことではなさそうだ。じゃあなんだろう?
「えぇ…呼び出したのはそっちじゃないか」
「ふふ、そうだね、ごめん。」
少し間が空いて、彼女は今までそらしていた目を真っ直ぐに僕の瞳に向けて、言ったんだ。
「私、貴幸くんが好きかもしれない」
はじめ、何を言われているなかわからなかった。からかわれてる?それとも誰かに言わされてる?ただ、そうだとしても、嘘だとしても、僕はその言葉を彼女の口から出た言葉だと理解した時、空も飛べるのではないか?と思えるほどに、気持ちがふわふわとして、何より
すごく、嬉しかった。
「え…あ…っと…あい…」
言葉がでないで困っていると、彼女は
「やっぱりそうでもないかも」
これには、落胆の声が大きくなる
「えぇ…っ!」
「ふふふ、うそだよ。たぶん、たぶんね…私は貴幸くんが好き。ちょっと可愛いところも、普段自信無さそうにしてるのに、いざというとき動いてくれるカッコいいところも。」
「か、かいかぶりすぎだよ…僕なんて…」
「そうかもね、でもね?私にとって、君は正義の味方だったんだ。あの日、先輩にフラれて動けない私をあそこから助けてくれた。誰もができることなんかじゃないよ」
そう言って彼女は微笑む。卑怯だと思う。僕は、その先輩の話なんかの前から…ずっと、ずっと…
「僕も、その…く、くるみさんが、好き…です…。たぶん、だから、あの時…動けました…」
「ははは、急に敬語になって、どうしたの?ふふふ!」
「だ、だって…!いじわるだなぁ」
「ふふふ」
彼女は笑って、その時始めて
「じゃあ、今日から貴幸くんが私の彼氏さんだね…っ!"たぁくん"、よろしくね!」
・・・・・・・・・・
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・・
・
「これが、僕とくるみさんの馴れ初めです。」
話を一通り聞いて、世良が
「なげぇよ!!」
おおおおおい!!台無し!!そこそこいい話だっただろうが!!まあ、これでこの自信のない貴幸さんとくるみさんが付き合い始めたわけは分かったわけだが…さて、ではなぜ、彼は喫茶店にいくくせに、今度はくるみさんを避けるのだろうか?
「えっと、話はだいたい分かったんですが、じゃあなんで今度は貴幸さんが、くるみさんを避けてるんですか?」
俺の問いにたいして、「え"っ?」と変な声を出す貴幸さん。
「いや、まるで今は逆だなと思って…」
そういう俺に便乗するように孝輔も
「確かに、さっきの話とは逆に今はメソポ…貴幸さんが避けているように見えるな」
「確かにそうね、むしろなんで避けてるの?」
リサも聞く。すると、貴幸さんはこう返してきた。
「実話、プロポーズをしようとしているのですが…」
おうけい。情況が変わった。話を聞こうか。
【日本一周の旅にでたら、家出少女ひろった!!】
色とりどりの気持ちを君に。
またみてね❗(´・ω・`)✨きゅぴーん




