とっておきキャンバス⑭
馴れ初め②
「えっと…」
「あはは、そうだよね、急に言われても困るよね…ごめんね、でも貴幸くんなら、なんかいいアイデアとか持ってるかもって思って、ほ、他の子とかには秘密ね!」
頬を染めてニッと笑う彼女に、愛想笑いを浮かべるくらいしか、そのときの僕にはできなかった。それがちょうど今くらいの秋の始まりくらいだったかなぁ…
それから、時はたって――
相変わらずの、変化のない毎日を消化していた2月の寒い日。先生が、前にたって「転校生を紹介するぞー」って、そして入ってきたのが
青柳 彪牙
その人だった。彼は見た目もカッコ可愛いし、明るく、たまに毒をはいたりする事で、すぐに皆の人気者になった。彼は少し彼女に似ていて、僕にも普通に接してくれていて…
ただ、あの頃は全然気づかなかったけど、今思うと彼が話しかけてくれたときは、大抵くるみさんと一緒にいる時だった気がするよ。
そして、それから少したったくらい。2月の半ばくらいに事件は起きる。他の女友達に先輩の事を相談したらしい彼女は、とうとう行動に出たんだ。
場所は学校の中庭、卒業生が建てた時計の下で、みんなが下校する時間帯。
くるみさんは、先輩を待っていた。僕はそれを影でひっそりと覗き見てたんだ…もちろん、良くないことだって自覚もあるし、でも気になって仕方なかったのも事実で…頭のなかがこんがらがっちゃって、結局見ることに決めたんだ。すると、しばらくして先輩が現れた、先輩はくるみさんに駆け寄ると、何か話して、すぐに離れていったんだ。
本当にほんの数秒しかたってなくて、あっさりと終わったなって思った次の瞬間――
くるみさんは膝から崩れ落ちて、泣き始めちゃったんだ。
多くは下校したあとだけど、場所が場所だけに、やっぱり人目にはつくし、凄いわんわんと泣くもんだから、注目度も大分高くて、僕は隠れたまま…どうしたらいいのかってずっと悩んでいたんだ。
そして、その光景を見ていて、ある事に気づくんだ。それは…
"泣いているくるみさんを見て、笑う人達だった。"
数は少ないけど、にやける口元を隠して、ひそひそと話す女子、帰りしなに面白いものを見たかのように、携帯を打ち出す男子。もちろん、心配そうに見て、いつ声をかけようかと考えているような人もいたかもしれない。
それに、くるみさん自体も気づいているけど、どうしていいのかわからないような様子で、ずっと涙をぬぐっては溢し、ぬぐっては溢ししていたんだ。
だから、確かに場所は悪かったかもしれないし、当たって砕けただけのことかもしれない。それでも僕は
あんな視線を、彼女は受けるべきじゃないと
あんな笑いかたをされるべきじゃないと
あんな…胸を縛るような気持ちを知っているのは僕だけで充分なんだ…っ!と、そう思って…気づいたらもう彼女の腕をつかんで立たせていた。
そのあとは良く覚えていないけど、近くの公園にいて、泣きじゃくる彼女の背中をさすり、なんの根拠もない無責任な
『大丈夫』
を繰り返し口から出していた。
実際何も大丈夫なことなんてないんだろうけど、情けない話、僕にはこの無責任なエールを送ることしか出来ないし、思い付かなかった…。
そして、落ち着いたら彼女は鼻をすすりながら、一言だけ
「フラれた…」
と、呟いた。そして僕にしがみつき、また、わんわんと泣き始めてしまった。本当にどうしたら良いのか分からないことばかりで、頭は焦ってるんだけど、気持ちはそんなに好きな人だったんだね。と、涙をたくさん流せるくらい大好きな人だったんだね。と、少し悔しいような、でも切ないような…そんな気持ちになっていた。
空もすっかり暗くなって寒さが増してきた頃、彼女はようやく落ち着き、一度、僕を見上げて自分がこっちを見ているくせに
「今顔酷いから、こっち見ないで…」
と言って顔を隠そうとする。正直僕は、彼女がどんな顔だろうと気になんてしないんだけど…僕は何故かそれが可愛くて、逆にまともに顔なんて見れなかった。
それから、「寒くなってきたね」なんて話しになって、僕は暖かいお茶を買って、彼女に渡したんだ。それを飲んだ彼女は
「あたたかいね…」
って言って、また泣きそうになって、それを堪えていた。それから彼女を家の近くまで送って、その日は別れたんだ。
翌朝、目を真っ赤にした彼女が登校してきて、昨日の出来事はさっそく噂となって、校内を駆け巡っていた。クラスでは、そんなくるみさんを守るように仲のいい女子が固まって励ましていたり、男子はあえてふれないように振る舞ったりしていた。
そして、僕はと言うと…いつも通り過ごすことにしていて、彼女が気になるから見るんだけど、何故か彼女は目をそらしてくる。
そして、それを見た僕は、重大なミスに気づくんだ。
あれをするのは、僕じゃダメだった…って、僕みたいな陰キャが、彼女に近づいてあんなことをしていたのだと知れたら、彼女に迷惑がかかるじゃないかっ!!
ど、どうしよう…謝りたいけど、目をそらされるってことは…
"嫌われてしまった…"
頭に重苦しく響くその言葉が、僕を絶望へと手招きして、負の感情が大きな口を開けて落ちてくる僕を待っている。感情は僕をパクっと食べてしまって、僕は一気にその日のモチベーションが下がる。
それから数日間、彼女と会話はなく、何故か見られてるような気がして、そっちを見るんだけど、彼女はすぐに目をそらしてしまう。
しかも、それこそ彪牙くんと良くしゃべるようになっていたし、どんな話をしているのかすごく気になったけど、知る術がないし、でも気になるし…
彼の前ではそんな笑顔も出来るんだね。って嫉妬丸出し…
そんな日々が続いたある日――
【日本一周の旅にでたら、家出少女ひろった!!】
もう少しだけ馴れ初め続くよ!
またみてね❗(´・ω・`)✨きゅぴーん




