とっておきキャンバス⑪
風呂からでて、居酒屋へと向かうことにした翔馬、その居酒屋には――
風呂から上がり、部屋に戻ろうとしていると…どこかに出掛けようとしている世良が目に留まる。俺は世良に声をかける
「どっかいくのか?」
声をかけられ、世良がこちらに気づく。
「ん?おぉ、なんか伸雄のおっさんが近くに居酒屋があるっていうからさ、見とこうと思ってな」
「あぁ…なるほどな、確かにここに来る途中に赤提灯下がってる店があったな」
「お、マジか。なら情報は正しそうだな…! アンタらも行くか?」
「え?う~ん…」
そうだな…どうするか?、でもこいつ一人を夜道に放り出すのも気が引けるしな…そういや、リサは部屋だろうか?
「そういや、リサは?」
「ん?ああ、行くらしいぞ。今準備してんだよ。ま、行くなら外で待ってっから、早くしろよな~」
かるくひらひらと手を降り、世良は玄関を出ていった。
「孝輔、どうする?」
「ん?俺は行ってみようかと思う。実話、居酒屋と言うものに行ったことがなくてな…これも経験だろう」
「そうか、なら俺も行くかな…せっかくだし」
そんな会話のあと、部屋に戻りすぐに準備をして玄関へ向かう。ドアを開けると、雨上がりの少し涼しい風と、濡れた草の匂いが鼻をかすめ、いつのまにやら始まった虫のオーケストラが、耳に入ってくる。
「うわ、虫の声すごいな」
俺がそう言うと、先にでて待っていたリサと世良が
「虫の声もすごいけど、翔馬、上見てみなさい」
「孝輔も、上見てみろよ」
言われるがまま、俺と孝輔は上を向く、そこには――
雲がちりぢりになり、その隙間には都会では決して見ることの出来ない星空が、そこにはあった。
「…すげぇ…。」
星はキラキラと光輝き、確かにそこにある。無意識に手を伸ばし掴もうとするが、決して触れることは出来ない。俺は手をゆっくりと下ろし、なんとなく。今まで出会った…和人達や、多鶴子さん、優愛も…ちゃんと、この星の下にいるんだな…と、そう考えて少し暖かい気持ちになる。
「おい翔馬、何ニヤニヤしてんだよ。」
世良の一言で、ハッと我にかえる。
「本当、なんで手なんて伸ばしてたのよ。掴めるわけないでしょ。」
「おい、二人ともやめないか、翔馬だって自分の世界に浸りたいときあるんだぞ」
やめてええええ!めちゃくちゃ恥ずかしくなってくるから!だが、あえてココは貫き通す場所だ。
「いや、ちょっとセンチメンタルな感じになっちまってな。」
「へぇ」
「ふーん」
「ほぉ…」
え…?何この空気、なんで俺スベったみたいになってんの?これ俺が悪いの?え?ねぇ、俺悪くないよね?ちょっと…!そんな俺をよそに
「まぁ、いいからさっさと行こうぜ」
そう言う世良を先頭に、みんな歩き始める。
「なぁ、俺スベったみたいになってない?」
「うるさいぞ、翔馬。男が一度の失敗を何度も振り替えってはダメだぞ」
「いや孝輔、俺悪くないよね?!」
――それから、濡れたアスファルトを歩く。まわりに街灯は少ないが、いつのまにやら晴れた空に、真ん丸お月さまが現れ、俺達の行く道を照らす。それだけで案外明るいもので、道はしっかりと見えている。
そして、歩く俺達の話題は世良の事となる。
「なぁ、そういやさ、おまえなんで貴幸さん引きずって入ってきたんだよ?」
「貴幸…?誰だそれ…あ?あぁ…アイツか。メソポタミアな! あー…、アイツはな、めちゃめちゃ絵がうまいんだよ」
「は?」
「え?どう言うことだ?」
俺と孝輔が混乱していると、リサが
「私もさっき、部屋で聞いたんだけど…」と切り出して、何故かリサが説明をはじめる。
「チビロリが、カフェの裏にある大きな馬のオブジェを見に行ったときに、あの人にぶつかったらしいのね? それで、その時沢山絵が散らばって、それを一緒に集めたらしいのよ。その時見た絵が、あまりに上手で」
「そう!鉛筆でかいてんのに、写真みたいだった!」
「ちょっと、チビロリ今私が話てんのよ。それでまぁ、この子は『すごいすごい』と、拾っては見、拾っては見してたわけ、それであることに気づくの。この絵、雑誌の女の人だ。って、しかもその人の絵が、落ちてる絵のほとんどだったらしいのよ…それでこんな性格でしょ…?真っ先にストーカーだと思ったらしいわ…」
「ああ、なるほどな…」
あとはお察しだろう。ストーカーだと思い込んだ世良は、その人を捕まえて、くるみさんに確認して、警察に渡そうとでもしたのだろう。
「だから、世良はまた逃げたメソポタミアさんを追ったのだな…だが、どうして川であんな、無駄にめんどくさいしゅちゅえー…しゅちえーし、しゅち…」
「シチュエーションな」
「違うわ、situationよ」
さすがです。
「まぁ、そうだな。なんであんなことになってたんだよ」
「あーっと…あれはな、あのメソポタミアが、逃げ回るあまりなんかに、足をとられて川に転がり落ちそうになってな、しかもちょうど電話きてるし、咄嗟に助けようとしたら、あの野郎うまいことバランス立て直して走り出したんだよ。私はまぁ、同じものに足をとられて、転びそうになりジタバタしてるうちに、あれが出来上がったんだ。」
「そうなのか…」
たぶん、二人が足をとられたのは"釣糸"だろう。だからあえてもう一度言おう。釣り場にごみ捨てダメ絶対。
さて、そんな話をしていると赤提灯が見えてきた。世良はテンションがあがり、駆け足となる。それを何故かワクワクしている感じのリサが、「待ちなさいよっ」と楽しそうに追いかけていき、つられて俺と孝輔も走り出す。
いざ入り口の前に立ち、ふと扉に張られている張り紙に目が行く。
『今年もやるぞ! 夏の終わりの運動会!』
と書いてあり、その下には何個かの種目が書いてある。と、世良が扉を開ける。まだ読んでたんだけど…
そしてなかに入ると、「いらっしゃい!」と店長だろう。元気な声が聞こえる。見たところ店員は今、いらっしゃいと言った人と、その奥さん?のような人だけである。席は、カウンターと座敷の2タイプの席があるらしい。他にもちらほらと、お客さんがい……ん?
俺が気づいた時には、すでに世良がそこへズカズカと向かっていき、その人の顔を覗きこむ。いや、人様をいきなり覗きこむのやめなさい。そして、
「あぁ!やっぱり、メソポタミアじゃん!」
【日本一周の旅にでたら、家出少女ひろった!!】
馴れ初めに辿り着けない…次こそはっ!
またみてね❗(´・ω・`)✨きゅぴーん




