とっておきキャンバス⑥
店内に入り、注文をしようとする翔馬のところへ、世良が男を引きずってやってきて――。
店内に入った俺たちを出迎えたのは、パンの香りではなく、焼ける肉の香りであった――。
「ぐあっ!うまそうな匂いがっ」
あまりの香りについ口をついて言葉が出る。夕食時と言うのも相まって、その焼かれる肉の匂いは俺の空腹を加速させた。
「もう、パン良いから肉食おうぜ」
「ほんと、お腹すく匂いね。」
「ああ、確かにこの匂いは食欲がわくな」
そんな事を言いながら席につく。周りを見ると、店内は丸太や木をメインにつかったテーブルや椅子に、馬の絵、阿蘇の山の風景写真などが飾られていて、ログハウスのような造りをしている。そして、決して大きくはない店内には、俺達以外にはカップルが一組、テーブル席に座っているだけだ。たぶんだが、この空腹増強臭の原因は、彼らのテーブルへと運ばれるのだろう。
そんな事を考えていると、暖簾のかけられた、おそらく厨房だと思われる部屋から、あの雑誌の女性が出てくる。
「いらっしゃいませ!ごめんなさい!ちょうどバタバタしてて、今落ち着いたんですよ」
そう言って、メモ帳とフランスパンの形をしたペンを取り出す。そして、
「ご注文はお決まりですか?」
「あ、ええと…この、赤牛のハンバーグステーキを」
「私も同じものをちょうだい」
「じゃあ俺はお姉さんをテイクアウトで。」
「え…?」
「ちょっと孝輔、あなた本当に見境がないわね、いい?レディには、口説き方と言うのがあって…」
と、リサが説教をはじめたくらいで、そういや世良はまだなのだろうか?と俺が思ったのとほぼ同時に、カランカランと鈴をならし、"うちの子"が戻ってく…る…。
「ってええええ!?」
カフェへと入ってきた世良は、何かにおびえ、めそめそとしている男性の首根っこをつかみ、ズルズルと引きずって入ってきたのだ。そして、かるく店内を見回し、まるで狩に成功した狩人のような満面の笑みでこちらに手をふる。注文をとろうとしていたお姉さんは世良の方を見て
「いらっしゃ…たたたた、た、たぁーくん!?」
と、取り乱す。
そうだ。他人のふりをしよう。あんな子知らない!人様を引きずってくるような…!と目をそらすと
「おい、翔馬!シカトすんなよ!」
とモロに名前を呼ばれる。そして先に店内にいて、おしゃべりをしていたカップルが世良をチラ見し、男性の方が口に含んでいたのであろう水を盛大に吹き出して、彼女に即席自家製シャワーをプレゼントしてしまう。保湿完璧だね!とか、考えてる場合じゃない。
男性は彼女に「何するの汚いでしょ!?」と怒られはじめ、お姉さんは「あわわわ…」と狼狽えて、世良が意気揚々と男性を引きずりながらやって来るし、大惨事である。俺はリサと孝輔に、この状態の打開策を相談しようと二人の方を向くと
「そう、それからゆっくりと…」
「こ、こうだろうか…?」
と、何やら意味のわからない絡み合いが始まっている。それを見た俺はついつい、テーブルをバンっ!!と両手で叩き立ち上がってしまった。そしてその勢いのまま
「いや、なんでだっ!!」
といろいろな状況下に対してまとめてツッコむ。すると、思った以上にデカい声が出ていたらしく、みんながコッチを一斉に見る。視線のシャワーである。今上手いこといった。…と、先程とうってかわって、焦げ臭い匂いが店内を漂う。
「あーッッ!」
と、今度はお姉さんが声をあげ、急に厨房へと走って戻る。なかから「あぁ…やっちゃったぁ…」と情けない声がもれる。お察しである。
それから、徐徐に店内は平穏を取り戻し、世良が俺達のところへとやって来る。
「いやぁ、お腹すいたな」
「いや、おまえのその状態のせいで空腹どころじゃねぇよ。どうして男の人引きずってきてんだよ…」
「ん?ああ、忘れてた」
「忘れてた!?人を引きずっていたのに!?忘れてたの!?」
「なんだよ、うるせぇなぁ男の癖にちいせえ事を」
「いや、小さいのはおまえだろ!」
「誰が女児か!」
「いや、いってねぇから。あとおまえらナンパごっこいい加減やめろ!!」
と、リサと孝輔のエスカレートしている遊びに終止符をうつ。
「なんだ、翔馬やきもちか?俺に」
「まあ!私にやきもち?」
いや、もう。何て言えばいい?どこからツッコメばいい?脳内で試行錯誤した結果
「おまえらめんどくさい」
「なんだ翔馬つれないな」
「本当よ!ちょっと遊んだだけじゃない!」
「孝輔と牛はめんどくせぇもんな、翔馬の気持ちわかるわぁ」
と、ウンウン頷いてるけど、おまえも大概だらかな?で、だ。
「世良…その、男の人どうしたんだよ。」
「ん?ああ、腹立ったからな。引きずってきたんだ。」
おまえそんな、「うまそうだから、買ってきた」くらいの軽い感じで男の人引きずってくんなや!
「ぅぅう…引きずられ来ました…」
「しゃべったわ!」
とリサが驚く。おまえはこれが何に見えていたんだ。
「あの、うちのツレが本当にすみません…なんとお詫びしたら良いか…その、とりあえず立ち上がってください。人の目もありますし…」
俺がそう言うと、世良が首根っこをはなし、男性は立ち上がる。そして――
速攻で振り返り、全力でダッシュ。カフェのドアをおもいっきりあけはなちガランガランと音をたてながら走り去っていった。
「待てコラァ!」と、すぐに世良がおいかけて出ていく。
「ええぇ……。」
「逃げたわね」
「逃げたな」
なんで逃げたの…?それを見て、唖然としているとお姉さんが厨房から出てきて、カップルに頭を下げたあと、料理をわたして今度はこちらにやって来る。そして
「本当にお待たせしました…あれ?」
「?」
「先ほどのたぁーくん…男性と女の子は…?」
「えっと…」
俺が言葉を選んでいるうちに、リサが
「逃げたわよ?全力で」
「…やっぱり、そうですか…」
(やっぱり?どういうことだろうか?よくやって来ては逃げるのか?でも、そんなヤツなんているの?)
俺が疑問に思っていると孝輔がお姉さんに聞く
「失礼ですが、先ほどの方とお知り合いなのですか…?」
「…ぇえと、その…彼氏です。」
「「「えええええええええええ!?」」」
【日本一周の旅にでたら、家出少女ひろった!!】
地方のお店とかいくと、完全に知人で埋まってる店とかあるよね❗
またみてね❗(´・ω・`)✨きゅぴーん




