決意の朝に
優愛は飛び立つ、自分で決めた未来へと向かって――。
それから、私は宮崎に残り、翔馬達は先に行くよう伝える。理由は私を足止めにしたくないからだ。私は適当なホテルに泊まり翌朝タクシーで空港に行く事にしたほうが、旅の資金を使わせたりしないですむ。そう考えたのだ。
「だから、ホテルまで送ってもらえれば大丈夫だから」
「いや、でもな…まあ行くところも決まってないし、本当に気にしなくていいんだぞ?」
「そうよ、韮崎。お金なら私が錬金術でポンポンだしちゃうわよ」
「おまえにそんな力が!?」
二人はどこまでも明るく、優しい。
「あはは、リサちゃんそれは犯罪になっちゃうよ」
「な…んですって…」
「な…んだと…」
「いやいや、翔馬は分かるでしょ!」
そんな話をして3人で笑う。結局二人は私のわがままを聞いてくれることになり、ホテルへ向かうべく、バイクに乗る。
――これが、この細いけど頼もしい背中の見納めになるかもしれない。そう思うと、すこしだけ決心が揺らぎそうになる。しかし、そう言うわけにはいかない。
1度、自分で決めたことだ。簡単に諦めたりしていいはずがない。そう自分に言い聞かせる。するとバイクは、私の背中押すのではなく、手を引くようにして動き始め、最後のツーリングが始まる。
ここに来るまでに本当に、いろんな景色を見てきた。沢山泣いて、沢山笑った。そして、沢山の「ありがとう」と出会った。
そんな事を考えていると、無意識に翔馬にしがみつく力が強くなっていたらしい。それなのに信号に止まった時になにも言わず、翔馬はそっと私の手を撫でてくれた。
そうして、最後のツーリングはあっという間に幕を閉じる。翔馬はホテルの入り口付近にバイクを停める。私はバイクを降りて、自分の荷物を下ろす。
「ついたな。」
翔馬のその一言に荷物をおろして答える。
「ついちゃったね」
リサちゃんもこっちに歩いてくる。
「韮崎…その、絶対に無理はしちゃダメだからね?何かあったらすぐに連絡するのよ!」
「うん、ありがとう。あっちについたら、一度メールするよ、ほら、私は大丈夫だから、二人とも路駐なんだからさ!通行の邪魔になっちゃうよ」
私はわざと急かす。きっと、このままお喋りをしていたら私は絶対に泣いてしまう。そう思うからだ…。泣いてしまったらせっかく私のわがままに付き合ってくれている二人を、心配させてしまうかもしれない。それに、旅の最後は笑って終えたい。
「そうだな。ま、リサじゃねえけど何かあれば連絡しろよ、あと飛行機さっき何時のがあったんだっけか」
「え…9:30だよ?なんで?」
「いや、なんとなく」
「ははは、なにそれ」
「まあ、その、またな」
「うん、またね!」
――1人だった。独りだと思っていた。その考えを変えるきっかけをくれた人が行ってしまう。ふと、家の事と学校の事がフラッシュバックする。
不安だ。
恐い。
寂しい。
辛い。
それでも、進め!私っ!大丈夫だ、きっとまた会える。
翔馬とリサちゃんがバイクにまたがる。そして、軽く左手をあげて、出発していった――。
私は、小さくなってい背中を、見えなくなるまで見つめてから…
「ありがとう」
と小さく呟いた。
・・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
優愛をホテルまで送り、そのホテルの近くのホテルに俺達は入る。そう、もちろん。明日は飛行場に見送りに行くつもりだ。いや…さんざん聞いてやったんだから、これくらいやってもバチは当たらないだろ?それに、あいつは「大丈夫」を繰り返していたが、あれはきっと、俺達にではなく…自分に言っているのだと思う。
もちろん、アイツが行くのを咎める気は全く無い。むしろ、最後に手を引くのではなく、背中を押すために見送りに行くのだ。
「なあ、リサ。優愛は怒ると思うか?」
「え?いや…怒りはしないんじゃないかしら?それに、あんな不安そうな顔で『大丈夫。』じゃないのよ。ホテルの前でも無理して笑ってるのバレバレ、『路駐なんだから』とか急かしたりして、ほんっとに分かってないんだからっ!」
「ははは、確かに。でも一生懸命だったな…俺達を不安にさせないように」
「ハァ…まぁ…そうね、頑張ってるのは認めるわ!翔馬、作戦会議よ」
そんな話をして俺達はホテルにチェックインし、作戦会議をしながら1日を終えるのだった。
・・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
――翌朝。
私はスマホの目覚ましで目覚める。布団から体を起こし、周りを見る…。誰もいない。
「当たり前だけど…」
そう呟いて支度をする。フロントにタクシーを頼み、それに乗る。
「えと、空港までお願いします」
そう言って、タクシーで走り出す。車に乗るのすごく久しぶりに感じる。通り過ぎていく景色を見て、
「あ、昨日ここ通った…」
なんて独り言。目の前に翔馬の背中はない。それから、しばらく走ると空港に到着した。運転手さんにお金を渡し、空港に入る…。と、明らかにおかしなものが目に飛び込んでくる。
宮崎県のマスコットのお面をつけ、腕を回しながら二人でグルグルとダンスをしている。しかも、明らかに私の知り合いである。一瞬、何かのパフォーマーかと思ったりもしたが、見たことある服なので、すぐにその幻想はふきとんだ。にしても、どうしよう。話しかけるのが恥ずかしい…。通り過ぎていく人がチラチラと見て、すぐに去っていくのもまたなんか、見てて辛い…。
「えっと…翔馬…と、リサちゃん…?」
グルグルがピタリと止まる。
「あの…何してるの…?」
「いや、おせえよ!おまえ見たらすぐ止めろよ!めちゃめちゃ恥ずかしかったんだぞ!」
お面を外しながら翔馬が言う。
「ええええ!?だって、話しかけづらすぎるんだもん…」
リサちゃんもお面をはずし、「ふぅ」と爽やかに息をはいて
「どうだった?」
と聞いてきた。いや、どうとか言われても…
「えっと、あんまり知り合いだと思われたくなかった…」
「がーーーん」と言って、肩を落とすリサちゃん。
「ふふふ、うそうそ、見て過ぎていった人は知らないけど、私は面白かったよ!」
「そ、そりゃそうよ!これでアナタまで笑ってくれなかったら、私がイギリスに帰ってたわ」
「いや、おまえふざけんなよ!そうしたら俺だけ残るじゃん!」
「翔馬、あなただけ警察に行きなさい!この不審者!」
「言い出しっぺおまえだろっ!?」
本当に…この二人ときたら…どこまで優しいんだろう?私はぎゃーぎゃーと、騒ぐ二人に笑って言う。
「あははは!はいはい、二人ともそこまで!ありがとう。私のためなんでしょ…?」
二人は少しだけ照れ臭そうにして、話始める。
「まぁな、昨日のおまえは正直あんまりだったからな。」
バレバレか…て言うか、わざわざ一泊してくれたんだね…。
「そうね、韮崎らしいっちゃ、らしいんだけど…顔にモロに出てたもの」
「モロにですか…」
「モロによ…」
「頑張ったんだけどなぁ…」
「まぁ、でも今はいつも通りだな」
「へ…?」
あ、本当だ。不思議と苦しい気持ちがない気がする…むしろ、清々しいくらいだ。
「さっきのグルグルダンスのおかげだねっ!」
「ははは、そうかもな」
「当たり前よ!私が考えたんだもの!」
すると、空港のアナウンスがなる
『9:30発、羽田行きの…
「あ…行かなきゃ…」
「そっか、いよいよか。」
「韮崎、何度も言うけど、何時でも連絡しなさいよ。」
「うん」
「そうだな、どうしようもなくなったら言え、全力でバイク飛ばして行くから。」
「うん」
搭乗は出発の5分前までとなっております…』
二人のおかげで、泣かずに行けそうだ…!本当に、感謝してもしきれない。最後の最後まで迷惑をかけてしまった…。いつか、かならず返そう。
「頑張ってるおまえに、がんばれとか言えねえからさ、まあなんだ!負けんなよ!」
「うん!絶対に負けない!」
翔馬のつきだした拳に、拳をかるくぶつける。
「そうよ、あと、かならず私達はあなたの住む街にいくわ!それに、心はいつもあなたと一緒よ!」
「ありがとう、リサちゃん!」
なんだろう?きっと、私は大丈夫だ…!この大丈夫は、自分に言い聞かせたりするものではない。私には居場所があると言う絶対の自信からの大丈夫だ。だから、私には居場所があるから――。
サヨナラでも
またネでもなくて……
ああ、そうか、私が二人に言うべき言葉は…!
「じゃあ、二人とも…
――二人にまた絶対に会うのだと言う、願いを込めた笑顔で…
"いってきますっ!"」
【日本一周の旅にでたら、家出少女ひろった!】
~プロローグ~『終』
やっと私の中のプロローグが終わりました。ここまでついてきてくれた方には、本当に、感謝しかありません。
次回から『!』が一個ふえて、
『日本一周の旅にでたら、家出少女ひろった!!』
になります。どうでもいい?あ、はい。
↓次回の冒頭を少しだけどうぞ↓
――鹿児島県のとある港町
トットットットッ…と音を出して沖へ向かう船を、防波堤の先端に立ち見つめる少女。その横には紫の小さなキャリーケース、そして少女の手には、【全国制覇】と掘られた木刀が握られている。
金髪を風に揺らし、真っ白なジャージ姿のその少女は、海に向かって唐突に叫んだ――。
「あたしはぁーーッッ!…旅に出るぞぉーーッッ!全員まとめてーッッ!かかってこぉーーいッッ!」
次回【とっておきキャンバス①】
またみてね❗(´・ω・`)✨きゅぴーん




