優しさと愛のその先に~終~
優愛は話す。自分の思うこと。
翔馬とリサは聞く、その覚悟と決意を…
『 拝啓 大切な親友 翔馬くんへ
あなたがこの手紙を読んでいる頃は、私はもう一緒に旅はしていないのでしょう…。なんてね、書きたかっただけよ。勝手に鞄の中に入れてごめんなさい。書いてる途中に思い付いたの、直接手紙を渡すのって少し恥ずかしいじゃない?あなたとの旅は、本当に温かさに溢れた思いやりのつまった良い旅でした。あなたに清水寺で昔話をした時、嫌な顔ひとつせず、真剣に聞いてくれていたわね。本当に、ありがとう。私はとても嬉しかったです。あなたはこれからも旅をして行くのでしょう。いろんな人に出会うのでしょう。いろんな景色を見るのでしょう。そして――
いろんな別れを経験するのでしょう。
その別れはきっと、あなたをもっと輝かせると思います。もっと魅力的にすると思います。だからどうか忘れないで、あなたの側にいる二人を。あと、ついでに私を。本当に、キラキラとした経験でした。本当に感謝しています。だからあなたにも言わせてね
"出会ってくれて、ありがとう" 多鶴子より
あ、そうそう、あと1枚は旅で迷うことがあれば開いてちょうだい。それじゃあまた。』
――俺は手紙をたたみ、顔をあげる。
隣のリサは涙目で鼻をすすりながら…手紙を読んでいる。ふと、ポタポタともうひとつ隣から音がして振り向くと、優愛の目からポロポロと涙がこぼれている。それに気づいていなかったのか、1度「はっ」とした様子を見せ、手紙を畳む…すると優愛は唐突に立ち上がり、ごしごしと腕で涙をぬぐってこう言った――。
「翔馬、リサちゃん…私、私ね…
南風はまだ温かく、海の向こうの夕日を背にして、逆光の中でもしっかりと分かる迷いの無い、満面の笑みで――
家に、帰るよ!」
「え…」
咄嗟の事に言葉が出てこない。こいつは何を言っているだ?と、頭の中が情報の整理をする。すると、俺より先にリサが、口を開く。リサは手紙をすでに読み終えていたようで、それを鞄の中にしまいながら
「はいはい、わかったわかった、とりあえず次の行き先決めましょ…」
冗談だと思っているのだろう。軽口をたたいて、優愛を見る。そこでようやく、本気で口にしていることに気づき聞き返す。
「韮崎…あなた、本気で言ってるの…?」
「うん。」力強く優愛がうなずく。
と言うことは、愛知のキャンプ場で言っていたことに踏ん切りはついたと言うことだろう。だが、こいつは家のこと意外にも学校と言う大きな課題が残っているはずだ…そっちにも立ち向かう勇気が、出てきたのだろうか?
集団生活の中の孤立と言うのは、そう簡単に克服できるようなものではない。
「おまえ、戻ってどうするんだ」
「…わかんない。」
「え…?」
「でも、わかんないけど。今動かなきゃ、またずっと引きずり続けて、ダメになっちゃう気がする。」
理屈ではないと言うことか…。
「その、なんだ。あんま俺が口出しするような事ではないんだが、大丈夫なのか?家はまあ、おまえの気持ちが整理できればとは思うが、前に話してた学校はどうするんだ?」
「…落ち着いたら、行こうと思ってるよ」
「ちょっと待ちなさい、学校の事ってなに?」
ここで事情を知らないリサが口を出してくる。
「ええと…」
優愛がかいつまんでそれをリサに話す。
現在、学校を休学していること、その理由は、些細なことからだったが…彼女の中では大事に変わってしまったこと。
―「そうなの…でも、なら、どうして今なの?また辛い思いをするんじゃないの?」
「うん、そうかも。えへへ…」
優愛は困ったような顔で笑う。だが、たぶん…優愛の中では、もう"今"ではないとダメなのだ。それから、リサが少し声を大きくして言う。これはきっと、こいつなりに心配している証拠だ。それにリサが言う気持ちも分かる。
「帰ったらまた"ひとりぼっち"になるかもしれないのよ!?」
「うん…」
「それでも、あなたは戻ると言うのっ!?」
「うん…」
小さい声だが、はっきりと優愛はうなずく。リサはそれを見て、
「わからないわ…どうして…」
と呟いた。すると優愛は言う。
「だって…今は二人がいるから。」
どう言うことだろうか…?俺たちが…いる…?
「二人って、俺たちの事か?」
「うん、だから…ううん。それにね、多鶴子さんもいるし、和人くん達もいる…。私ね、ずっとひとりぼっちだと思ってた。家では仮面をかぶったような生活をして、学校ではみんなに避けられて…どうしてだろう?どうしてこんな事になっちゃったんだろう?って…自分の部屋くらいしか居場所がなくて、部屋にいても、心に住み着いた孤独は消えてくれなくて…いっそ、"死んでみようか?"何て事も考えたこともあったよ。でもね?家を出て、翔馬に出会った…。それから、いろんな景色を見て、いろんな人と出会って、別れて…空を見上て、その一緒に旅をした人に手紙までもらえて…嗚呼…
"私は、生きていていいんだ。"
こんな私でも、笑って側にいてくれる人がいるんだ。ってそう思えるようになった…きっと、家にいたらこんな気持ちになることなんて、絶対になかったよ。世界がこんなに広く、温かいなんて忘れてしまったままだったと思う。それを思い出させてくれたのは、私に…戻る勇気をくれたのは…翔馬、君なんだよ?本当に、ありがとう。」
そう言って、優愛はこっちに歩いてきてゆっくりと俺を抱き締めた――。
「感謝しても、しきれない…多鶴子さんの気持ち、今分かる気がする…へへ…」
俺の耳元でそう呟く。俺は、両手をぶら下げたまま聞く。
「そこまで言うなら分かった…これで最後だ、大丈夫なんだな?」
「うん。大丈夫。えへへ」
それから、優愛の頭を軽く撫で、優愛から解放された。そして優愛は次にまだ少し納得できていないリサに歩みより抱き締める。
「リサちゃん…リサちゃんがいるから、私がんばれるんだ。リサちゃんがちゃんと、いろいろ言ってくれるから、信頼してるんだ…きっと、あなたが一番、今、私を心配してくれてる。それが嬉しいし、すごく心強い。だから、私は、帰れるんだよ…?」
リサも両手をぶら下げているが、優愛が話終わると、ギュッと抱き返す。
「多鶴子も…あなたまで…いなくなったら、寂しいじゃない…っ!それに、清水寺で恋籤引くときっ!」
「わああああああっ!それはダメなやつ!リサちゃん!それは言っちゃダメなやつ!!」
空気変わった。 俺はハグしあったまま…というか、リサに一方的に拘束されている、している?ような二人に聞く。
「恋籤…?」
「な、なんでもない!なんでもにゃいからっ!」
こいつが、噛むときは取り乱したときだ。
「清水寺で…韮崎、あの時ついつい口にしていた…」
「や、やめてええええ!リサちゃん!信頼度落ちてきちゃう!せっかく信頼してるのに落ちてきちゃうからっ!!あと、苦しい!」――。
――そんな感じのやり取りをして、落ち着いたあと改めて優愛が俺達に帰る主を伝える。
「…そう言うことなので、帰ります。二人がどこかにいると思うだけで、すごい、勇気でるもん。本当に、ありがとう。」
「そうか…。なら、飛行機だな、お金はあるのか?」
「うん、カードがあるよ」
「カード?ああ、クレカかなんか…って、はは」
俺はあることに気づく。
「あ…」
優愛も気づく。
「え?なに?二人ともどうしたのよ」
「ははは、なんでもねぇよ」
「あはは、うん、なんでもない。そっか、私、旅の間カード使わなかったから…」
「マジで、おまえカード使うの見たことなかったからな…あれ?一回くらいあったっけ…?まあどっちでもいいか、ははは!」
「なんなよ!教えなさいよ!」
知りたがるリサを横目に、俺達は、顔を見合わせて声を揃える。
「「だから、なんでもないよ!」ねぇよ!」
【日本一周の旅にでたら、家出少女ひろった!】
次回【決意の朝に】
さらば、王道系ヒロイン。
またみてね❗(´・ω・`)✨きゅぴーん




